僕のあだ名が決まった瞬間だった。
「はいはぁーい♡みんな先生にちゅうもぉーく!」
教壇に立った先生はパンパンと手を叩き生徒の視線を集める。
「アラッもう!田中くんそんな見つめないでよぉ!
そんなアツい目で見つめられちゃったら先生…
困っちゃう♡キャ♡」
恐らく田中くんであろう1番前に座っていた男子がジト…とした視線で「いやどっちだよ…」と小さく呟いた。
彼の態度はきっと可愛い女教師だったら逆転していただろうが、鍛えられた肉体に頑張って張り出した高音で40前後のおっさんが言っているとなると同情の気持ちしか出てこない。
カツカツカツ
先生が僕の名前を黒板に書く。
「はぁーい!今日からこのクラスに転校してきたイケメンくんよぉ〜♡みんな仲良くしないとぉ…
お♡し♡お♡きぃ〜♡ダカラネッ☆」と最後にウインクを生徒に向けてキメ込んだ。それは毒ガスと同じぐらいの殺傷能力を持っていたようで生徒のほとんどが吐き気を訴えているようだった。
「ん〜もう!なんでみんなそんなに元気がないのよぉ〜」
((((お前のせいだよ))))
このクラスの団結力が深まった瞬間だった。
「んで、センセ!」
「あ、そうよね!続き続きっと…。ほら自己紹介して」
先生は僕の背中をぽんと優しく押し「ヨッシャ行ったれ!」と言わんばかりにニッと笑った。
やばい。どうしよう自己紹介ってなんて言えばいいんだっけ?プロフィールとは違うんだっけ?あれってか僕どんな声でいつも話してたっけ?やばい今声出したら裏返りそう…沈黙で突っ立ってるのはまずい。
もういいや。
ペコ
((((…))))
一礼。一般的な挨拶に使われる行為。
(声聞こえた?)
(いや喋ってなかったんじゃないか?)
(バカね。あえて一礼だけにしたのよ)
(なんで?)
(ホームルーム前にベラベラ喋ると拘束時間が伸びるでしょ。きっと私たちのために…)
(そっか。アイツ良い奴だな)
とても僕にとって都合の良いコソコソ話が聞こえてきた。
少しばかり長めの一礼にパチパチパチと拍手で迎えてくれた生徒たちと先生。「まぁ自己紹介なんていらないわよねぇ。これからみんなと沢山お話して仲良くなりなさい。あと先生ともね♡」
と言ったあと窓際の席を指さしながら「席はあそこよぉ」と自分の席を案内し僕はその席に向かう。
(うわ横顔キレー)
(体も鍛えてそうだしなんかスポーツやってたのかな)
(サッカー部入ってくんねーかな)
(うわタイプかも付き合いたい)
(えーでもなんか高嶺の花って感じじゃない?)
何やらコソコソと小さい声で話しているようだったが僕にはよく聞こえなかった。
ひとつ空いている窓際の席に座ろうとしたその時…
『じゃああだ名はタカネな!!!』とさっきまで先生のウインクでうずくまっていた田中くんであろう男子が急に立ち上がりビシッと僕に指を差してきた。
かなりの大きな声に驚いたが何も無かったかのように僕は自分の席に着席した。
転校早々、ホームルーム前の出来事。
僕のあだ名が決まった瞬間だった。




