19話 敵か味方か
おぉっと危ない!!
着地する時バランスを崩したが、何とか自分の部屋まで誰にもバレずに来ることができた。
とりあえず、夕飯辺りの時間まではここでじっとしていて、外出していたことを悟られないようにしておこうと思う。
まぁ、今でも割と日が暮れて来ている。
父親が家に帰ってき次第、すぐに夕食だろう。
だから、ここで1人、作戦を練れる時間も長くはない。
というか、はぁ…………。
これからどうすればいいんだ?
情報収集と言っても出来ることは限られている。
あまりにも大胆に動けば、怪しい動きをしているとすぐにバレてしまうし、かと言って怪しまれることを恐れてじっとしていては何もわからないまま……。
来た!久しぶりの八方塞がりっ!!
どうすればいいんだよ〜!!
まず、家族の前に出て行って引きこもりを辞めるのは確定だろ?
引きこもってると今後家を練り歩きにくいからな。
で?引きこもっていた理由と部屋から出てきた理由はどうする?
んーーーー。
引きこもりの理由??
まさか、母親たちの話を盗み聞きしてしまって落ち込んでいただなんて言えない。
友達と喧嘩したとかにしておくか?
それとも5歳らしく飼ってたダンゴムシが死んだとかにしておくか??
いや、いい。
今から子どもらしくしたって今更って感じだろう。
友達と喧嘩したってことにしておこう。
相手は…………うーん。オリバーでいいか。
で!部屋から出てきた理由は仲直りしたからだな!
………………………。
そう思っていた時、玄関の扉が開く音がした。
……父親が帰ってきたか。
さぁ、そろそろ戦いの時間だ。
俺は部屋の扉を握った。
今から敵陣に乗り込むんだという決意をこめて。
俺はなんだかいきなり家族みんなの前に現れるのが気まずい気がして、そろそろと廊下を歩いた。
ん?前方から誰かが歩いてくるな。
それに気がついた瞬間、俺は反射的に物陰に隠れてしまった。
………あれは……リリーか。
リリーはあの日、俺の事を悪人に引き渡す手配をしたと自ら語っていた敵だ。でも何故だろう。
その事実を踏まえても、俺はリリーと話すことにそこまで抵抗がないのだ。
俺は意を決して、リリーの前に現れることにした。
リリーは俺の事をじっと見て固まる。
俺はと言うと、久しぶりのモルガン家関係者との対面にもじもじとしているだけである。
数秒、沈黙の時が流れた後にリリーが言う。
「………デ、ディビット……さま?本当にディビット様でありますか!?今までなぜ部屋に……!いいえ。失礼しました。そんなことどうでもいいんです……。ありがとうございます、部屋から出てきてくれて。」
リリーは俺の手を両手でぎゅっと握りしめて言う。
「ごめんなさい、リリー。引きこもっていたのは大した理由じゃないんだ。心配してくれてありがとう。」
俺は握られた手を見ながらそういった。
………何なんだ。この感覚。
リリーは間違いなく敵なのにまるで敵とは思えない。
この安心したような顔も、喜びでたかぶった声も、感極まり震えている手も何もかもが演技とは思えない。
あの日見たリリーは幻だったのか?
そう思っているとリリーがボソリと口走った。
「本当に良く出来た人です。奥様とは違って……。」
ん?今何か言ったか?あまり聞き取れなかったな。
まぁいい。今日からはいつも通りの生活に戻るって早く伝えないと!
「リリー、今日からは前みたいに生活しようと思うんですが………。夜ご飯、一緒に食べてもいいかな?」
するとリリーは目を輝かせて言う。
「もちろんです!ここはディビット様の家ですから。それに……私は常々思っていました。今までのご飯、廊下に放置されていたものでは冷えていて美味しくなかったでしょう?ぜひ温かいお夕食を食べて下さいね!!……ただ、ですね……?夕食前に1つ込み入ってお話があります。ここではなんですから私の部屋まで着いてきてください。」
……!??まずい!!
突然、超危険そうなハリケーンイベントが発生してしまったじゃないか!!
どうする?早く、もしもの時のために少しでも身を守れるようにしておかないと!
襲われた時に役立つアイテムはこの辺にないのか?
…………………。
ない!
終わった。身一つで敵陣に潜入かよ!!
……仕方ない。ここは最悪、魔法でねじ伏せよう。
ま、怪しまれないように最初は出来るだけ自然に〜。
「僕、リリーの部屋には初めて入るよ。」
「あら?そうでしたっけ?質素な部屋ですが、ゆっくりしていってくださいね。」
リリーはそう微笑んで言う。
だから俺はリリーのその言葉に甘えて、窓のすぐそばに置いてある勉強机の椅子に座ることにした。
するとリリーはそれを見てベッドに腰を掛ける。
リリーは変わらず、柔らかな笑顔だ。
「早速ですが本題に入ります。ディビット様がどこまで知っているのかはわかりませんが、きっと大体は気付いているのでしょう。手短に言います。ディビット様はあともう少しで悪人に引き渡され、殺されます。一刻も早く逃げてください。」
………………………。
どういうことだ!?状況が理解できない。
リリーは敵なんじゃなかったのか??
逃げて。…………か。
そんなこと敵が言うのか?リリーは味方?
………いやっ!そんな訳はない、きっとこれは罠だ。
俺に魔法の才能があることを知った母親たちが、俺のことを恐れて、これで油断させようって算段だな!?
きっとそうだ、そうに決まっている。
その驚いてフリーズする俺の様子を横目に見て、リリーは言葉を絞り出すようにして発する。
「……驚かれましたよね。突然こんなことを言って。私は何も、ディビット様を怖がらせようと思って意地悪を言っているのではありません。本当に心配しているのです。ディビッド様のこともジェンナ様、あなたの母のことも。ディビット様がもし何も知らなかったのなら、ごめんなさい。でも、もし何も知らなかったのだとしても、その時は何も言わず私に従って逃げてください。お願いします。」
リリーの言葉はとことん切実であった。
その言葉を信じなかったら、失礼なのではとまで感じさせられてしまうほどに。
「リリー、なんで僕にそれを教えてくれたの?」
俺はリリーの熱意に押されて、ついそう口走った。
この言葉に深い意味など毛頭なかった。
ただ未熟な俺が考え無しにそう言った。
ただそれだけ。
しかし、この緊張した状況だ。
リリーはこの言葉の意図を汲み取ろうとした。
ディビットは今適当なことを言うはずがない、これは何かのサインなのではないかとか思っているのだろうか………………。
否、そんなことは全然ありえない話である。
俺は頭の切れない人間だ。
リリーはディビットを買いかぶりすぎである。
「………なぜ、と言うとそれは単純です。ただ、あなたに生きていて欲しいから。それだけです。………それ以上に理由はいりますか?」
その言葉に俺は言い返すことができなかった。
だって俺を助けようとする理由としては十分に筋が通っていたから。
そして動揺していた俺は、それ以外の話題においても、これ以上深堀をできないまま会話を終え、ついにはこの部屋を出る流れになっていた。
本当はもっと、色々と聞くべきだったのに。
リリーの言葉の意図がわからないまま会話を終えてしまい、後悔をしていると、俺の前を歩き、部屋を出ようと扉に手をかけていたリリーが突然に振り返って言った。
「あ!1つ言い忘れていました!この家には探知魔法が仕掛けられているんです。だから、家を出入りすると体から出る微細な魔力が探知に引っかかりますので!そのような際はそれだけご留意ください。それに安易に魔法を使うのもだめですよ!奥様には出来るだけ魔法の才を隠しておくのが得策です。………最後に大事なこと!私は最後までディビット様の味方ですから。いいですね?」
リリーはそれだけ言うと、俺に背を向けてこの部屋をあとにし、取り残された俺には静寂のみが訪れた。
………リリーのやつ、全然話は1つじゃなかったじゃないか。
しかし、である。俺は不思議と暖かな気持ちになっていた。
食器が机に並ぶ音がした。
カチャカチャ、コトンと言う音は自分にとって軽快で心地よい音だと感じると共に、久々の家族との再開を示す、象徴の音でもあった。
「あら?食事が3つあるわね。今日の夕飯はリリーも一緒に食べることにしたの?」
母のジェンナがきょとんとして、そう言った。
それにすかさずリリーが返事をする。
「いいえ、私はいつも通り後から食事をとります。ディビット様がここで食事をとるそうですので、3人分のお食事を用意いたしました。」
そう言うと、ディビットの父親であるアーサーが勢いよく立ち上がって言った。
「本当か!?………良かった。」
アーサーは喜びに満ちているような顔だ。
そして、相当心配をしていたのだろう。
目にはうっすらと涙が浮かんでいるようにも見える。
「おーーい!!ディビットーー!!共に夕飯を食べるぞーー!!こっちへこーーい!!」
げげ!!呼ばれた!?
今までずっと引きこもってた息子にこの扱いかよ。
ちょっと配慮が足りないんじゃないかーー??
…………でもまぁ夕飯、歓迎してくれてるみたいだな。
みんな、心の中では俺のことを疎んでいるんだとわかってはいるのに、こんな対応をされたら勘違いをしてしまいそうになる。
まだ俺は、モルガン家の一員で居続けられるんじゃないかって。
俺はリビングの入口から顔をひょっこりと覗かせてから、少し伏し目がちで言った。
「お久しぶりです……。」
引きこもりからの復帰、こんなに気まずいものなんだなぁ。
俺は前世で引きこもりから復帰することなく、そのまま死を選んだ。
だから、引きこもりを卒業する日が俺に来るなんて想像すらもできなかったし、本当は絶対に来るはずのない日だったんだ。
俺は、その事実をまだ受け入れられて居なかったようだ。
俺は、困惑する気持ちと気まずいと言う気持ちがごちゃ混ぜになって、よそよそしい態度をとってしまってた。
………はぁ、情けない。転生してもう5年も経つのに……。
しかし、アーサーは大人だった。
そう俯くディビットとは対称的に、次々に言葉を発した。
「ディビット!……体調は悪くないか?どこか痛いところはないか?ちゃんとご飯は食べれていたのか?」
アーサーはディビットの前に駆け寄ると、ディビットに目線を合わせて膝立ち、肩を持った。
俺はというと、緊張と意外にも歓迎されていることに動揺して、アーサーの質問にも答えず固まっている。
しばらくの間アーサーと俺は見つめ合うと、突然アーサーが口を開き言う。
「よし、夕飯を食べよう!ほらほら、こっちだ。」
アーサーは俺の席を指さしながら、そう言った。
俺の席は、普通の椅子にクッションを重ねて置くことで座高を調節されている。
今まで俺はずっと部屋に引きこもっていた訳だが、そのクッションのカバーは最後に一緒に食事をとった日から変わっていて、食卓に並ぶ食事を覗き見ると、その食事の皿すらも俺専用らしき物が新調されていた。
「さぁディビット、これからはずっとみんなでご飯を食べような。リリーの作るご飯は美味しいぞ〜!」
部屋へ帰ってきた。
特に事件などはなく、普通に引きこもりからの復帰を成し終えて、少し拍子抜けをしている。
……しかしまぁ、何だ?
なーんだか、今日は情報量が多かったな。
ハリーたちの説得で半ば強引にひきこもり卒業。
みんなと感動の再開を果たし、師匠宅へ。
そして師匠と今後の予定を練った。
師匠には転生バレたかと思ってあせらされるし、家に帰ってみればリリーと久々の会話をして疑問は深まるわで…………もう……。
…………………疲れた。
今日はもう寝よう。
明日すぐ死ぬ予定でもないしな。
明日のことは明日考えればいい。




