17話 光満ちてゆく
俺がこの部屋に引きこもって4週間以上がたった。
時間感覚はとうの昔に狂ってしまっている。
昼過ぎに目を覚まし、部屋の前に置かれている冷えた飯を食っては絶望感に苛まれた。
1人椅子の足を虚ろに見つめながら今後のことを考えた。何度も何度も考えた。
…………良くなる兆しは見つからなかった。
いくら考えていても、自分はこれからどうしたら良いのかが分からない。
それどころか、長い時間1人で考えていると、どんどんネガティブになっていって良くないことばかり考えてしまう。自分はきっと誰からも好かれていない。
ハリーやオリバー、アメリからも俺は嫌われてた。
でも、俺がここの貴族だから仕方なく相手されてたんだ。きっとそうだ。
それに、師匠だって俺のことを好いてはいなかっただろう。こんな子ども、気味が悪かったに違いない。
…………あぁ、俺はなんて空気の読めない男なんだ。
こんなことなら、最初から昔のように人を怖がってみんなのことを避けていれば良かった。
そうすれば、みんなは嫌な思いをせずに済んだのに。俺のせいで…………。あーーそういえば、家族にも迷惑をかけてるんだったな。俺。
こんなところに何週間も引きこもって、その上飯まで貰っちゃって。
どうせ悪魔の子の俺が引きこもった所で母たちは心配なんかしていないと思うが、さすがに少しは迷惑をかけていると思う。本当に何やってるんだ、俺は。
こんなんじゃ前世と同じじゃないか。
みんなに迷惑をかけて、最期には死に散った前世と。もういっそここで死んでしまおうか。
どうせあと1ヶ月後にはどっかの誰かに連れ去られる運命なんだ。
そんな怖い目に会うぐらいならここで今、俺の命を終わらせた方が楽なんじゃないか?
俺は第2の人生を短い間だけど充分楽しめたよ。
親に大切に育てられて、優しい師匠に出会って魔法とかいうファンタジーでしか見たことのないものを自分の手で操って、友達…………とはみんな思ってなかったかもしれないけど同世代の子と遊ぶことが出来て…。
あぁ!挙げだしたらきりがない!
本当に楽しい日々だった……!
本当に……。やり残したことはないよ。
……いや、そんなことは無い。
この顔、俺の新しい顔は結構いい素材をしてると思うんだ。だから成長して超絶イケメンになって女の子からモテモテーみたいなところを見てみたかったな。
ごめんな?ディビット。
お前の中に入る男が俺じゃなければきっとそんな世界線もあったんだろうな……。
もっと母親にもバレないようにやって、友達とも上手くやってこんなことになるなんてこと無かったかもしれないんだよな。
……本当に、ごめんな。
………………ん?何だか騒がしくなってきたな。
どうしたんだ?あぁ、この声は………ハリーたちか。俺のことなんかに気を使わなくていいのに。
本当に優しい子たちだなぁ。
何度もこんな俺のためにわざわざ来てくれるなんて。ここだって同じバルミーの中にある場所だとは言え、教会とはかなり離れている。
子どもの体力では少し辛いだろう。
…………でもごめん、みんな。俺はここを出てまたみんなの所へ戻るつもりはないよ。
今の俺にそんな資格はないから。
そもそも俺は16で命を絶ったので今の年齢は21歳、みんなのことを騙してるんだ。
最期に色々ごめんってだけ謝りたかったけれど、もうみんなとは会わない方がいいよね。
きっとみんなその方が幸せにやっていけるよ。
「ディビット!また来た。顔だけでも見せてくれ!」
そんなことを考えていると、外からオリバーの声がした。ディビットは一瞬ハッと振り向きドアの方を見たが、すぐに視線は床へと戻ってしまっていた。
すると間髪入れずにアメリがやってきた。
アメリは「一緒に遊びたい」とディビットに訴えかけていたていた。ごめんなぁ、アメリ。
俺も遊んでやりたかったけど、もう無理なんだ。
俺に残された時間はもうほぼないし、俺と一緒にいたらみんなまで悪魔だとか、仲間だとか思われて危険な目に会うかもしれない。
そんなこと、絶対にあっちゃいけないんだ。
すると次にハリーが来た。
ハリーの言葉にディビットは涙を流した。
その切実な言葉はディビットの不安定な心を動かすには十分すぎるほどのものであったのだ。
ディビットは必死に涙を拭うが涙は一向に止まらない。
……………そんなに悲しそうな声、出さないで。
俺だってみんなと一緒にいたいんだ!
悲しませるつもりなんて毛頭ない!
ただ、みんなに幸せでいて欲しいと願っているだけ。それなのに、みんなにこんな反応をされてしまったら決意が揺らぐじゃないか。
俺はもう死ぬって決めたはずだったんだ。
……でも俺の今の気持ちは…………前世ではあっさり飛び降りたじゃないか!後先のことなんか何も考えずに!今もそうしろよ!俺!
………………………………………………。
なんでこんなに生きていたいと思ってしまうんだよ。
その時、今までとは違った声色の男が現れた。
「おい、ディビット。なーに不貞腐れてるんだ!!
出てこい!!わしが稽古でもつけてやる!」
…………し、師匠……!?なんでここに!?
師匠が森から出てきたのか?
いや、そんなのありえない!
師匠はこの領地に不法滞在してるんだぞ!?
今まで何年間も森の中にひっそりと生活していたって……。それにここは仮にも領主の家。
師匠だってここに来たい訳が無いよな……。
…………でも、もしこれが本当に師匠の声だったら?
もし本当に俺のことを心配して、あんなに嫌がっていた森の外に出てきてくれていたとしたら?
…………あぁ、気になる。
今すぐにここで扉を開けて外を確認してみたい。
外の世界はどんな風になっているんだ?
何が起きているんだ?
……確認してみるだけ。
確認してみるだけだから扉を開けてみてもいいんじゃないか?ほんの一瞬だ。みんながこの扉の前から居なくなるのを見計らって、扉を少し開けてみよう。
複数人の足跡が聞こえた。
ハリーたち4人はこの場から撤収したようだ。
よし、今の内に4人の帰り際の後ろ姿を覗いてみよう。この部屋の扉は立て付けが悪くてギイギイと音が鳴る。だから慎重に、音がならないよう、ゆっくーりと扉を開けて……。
そこには、もう4人の姿はなかった。
………………ということは、玄関へ向かっているはず!じゃあ、コソコソと後ろ姿を見に行かずとも、部屋の窓から外を覗けばいいじゃないか!
よし!誰かに姿を見られる前に部屋に戻ろう!
その時、目の前に突然オリバーが現れた。
「いたぞ!アースウォール!!」
オリバーがそう言うと、俺の目の前には壁が現れ、進行方向を塞がれた。
このままじゃ部屋に戻れない……!
仕方ない!この壁壊すか。
エアカッター!
俺はオリバーが作った壁を破壊し、前に進もうとした。しかし、俺の行く手はまた阻まれる。
アメリ!?なんでここに!?そんなことを考えていると、アメリは俺に向けて魔法を放った。
「ライトボール!!」
光の球が豪速球で飛んでくる。
うわっ!危ねぇ!!ライトソード!!
俺は刀で全ての球を払い除けた。
……よし!やっとこれで部屋に戻れる!!
しかし、………はぁ、やっぱり部屋の外になんて出なきゃ良かった。
この扉を開ければまた俺は1人ぼっちになる。
なんだか部屋の外に出る前はそんなこと平気だったのに、今はもう、寂しい気がしてしまうよ。
俺は部屋に入る扉を開けた。
「みーつけたっ!もう、逃がさないよ?」
ハリーはそう言い、無邪気に俺に飛びついた。
俺はそのハリーの顔を見て、また涙がこぼれた。
あぁ、なんて君は!なんて俺は!このハリーの顔には一切の嘘偽りを感じなかった。
…………俺は馬鹿だ。
初めっからハリーは、嘘なんかをつくような子ではないだろう?
俺に遠慮をするような器の子でもなかっただろ?
それなのに、俺は本当は自分のことを嫌ってるだとかねちねちと考えて、勝手に落ち込んで…………。
本当に馬鹿だ、最低だ。
みんなはこんな俺のことを許してはくれるのだろうか。また一緒に遊んでくれるのどろうか。
「ったく!世話のかかるやつだなお前は。」
扉の前には、そう言いながら笑うオスターの姿があった。アメリやオリバー達もそうだそうだ!と俺に野次を飛ばしている。
…………あ、そういえば俺、顔をこんなに上にあげたのはいつぶりだったかな。
世界はこんなに光に満ちていたのか。
俺なんかが、光を求める必要なんて、はなからなかったんだな。
元からこの世は暖かい光でいっぱいだったんだ!
……それになんだ、こんなに悩んでいたのは自分だけだったのかもしれないな。
「ごめんなさい。みんな。また僕と一緒に遊んで欲しいです!ダメ…………ですか?」
「わーい!!またわたしたちと遊んでくれるの?」
「俺はいつでも大歓迎だぞ!!」
「僕はディビット、君をずっと待ってたよ!」
……みんな…………みんな!本当にありがとう!!
俺は口々に告げるその言葉に先程の悲痛に満ちた顔とは相異なる満開の笑顔になった。
「よし!話はまとまったみたいだな!さっさと森に帰るぞ!早くわしのことを箱に詰めろ!…………ん?ディビットがいるんだから風魔法で森まで飛んでいけばいいんじゃないか?ディビット!早くわしらを飛ばせ!」
「はい!わかりました!みんな、行くよ!」
俺は今、前を向いている。先が少し見えた気がした。




