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「ど、どどど……ど、どうするの!?」


「どどどどどうしようか!?」


 スミカとレンヤがあたふたしながら言う。

 この二人がこんなふうになるなんて珍しい光景かもしれない。


 僕はその様子を見て、かえって冷静になることが出来た。


「二人とも落ち着いて。あまり大きな声を立てたら、ドラゴン起きちゃうよ」


 そんなふうに二人を諫めるくらいには。

 そして、僕は目の前に『でんっ!』と横たわって道を塞ぐ巨体を観察する。



 ……うん。

 紛うことなきドラゴンだね。

 ゲームや漫画なんかで出てくるイメージそのものだ。

 目を閉じて眠っているようだが、そのいびきは地鳴りのように辺りの空気を震わせていた。



「……ユウキって、けっこう肝が据わってるわよね」


「……だな」


 落ち着きを取り戻した二人がそう言うけど、三人が三人とも取り乱す訳にはいかないでしょ。



 とは言っても……さて、どうしようか?


 大して広くもない道を塞ぐどころか、その巨体は森の繁りにまではみ出して完全に通せんぼ状態だ。



「……こうなると、避けていくしかないけど」


「え〜……この格好で藪の中に入ってくのぉ……?」



 僕たちは下校してから家には帰らず直接ここにやって来たので、まだ学校の制服のままだ。

 肌の露出が多いまま藪に分け入るとなると、細かな擦り傷切り傷も覚悟しないとならないだろう。

 スミカが渋るのも無理はない。

 僕だって御免被りたいところだ。


 こんな場所を彷徨う事になると分かっていたなら、相応の服に着替えたのだろうけど……そんな事、予想できるはずもない。



「とは言ってもな……こいつを起こすわけにもいかないし、この先に進むにはそうするしか……」


 と、レンヤが言いかけたところで、彼は何かに気がついたように言葉を切る。

 その違和感には僕もすぐに気がついた。


「あ、あれ……?い、いびきの音が……」


 あれほど周囲に響き渡っていた、ドラゴンのいびきの音が……いつのまにか止んでいる?



 ……僕たちは三人揃って、そ〜……っと恐る恐る視線をドラゴンの方に向けた。


 すると。


 ……バッチリ目が合った。




 先程までは閉ざされていた瞼が開かれ、縦長の瞳孔をした金色の瞳がこちらをしっかりと見据えていた。



「「「起きたぁっ!!!???」」」



 流石に今度は僕も落ち着いてはいられなかった。



「どどどどどどうする!!??」


「にににににに逃げなきゃっ!!」


「どどどどどどこにっ!!??」



 三人ともパニックになって喚きながら右往左往する。


 とにかく落ち着いて行動しなければ……!

 と、何とか冷静になろうとした時。



『騒がしい(わっぱ)どもだな。そんなに怖がらずとも、別にとって食いはせぬ』


「「「シャベッタァッッッ!!!???」」」



 再び大混乱。


 目の前のドラゴンから、確かに意味のある言葉が聞こえてきたのだ。



『何を驚いている。竜が喋るのは当たり前だろうに……ん?あぁ、そうか。お前たちは異界の者か』


「い、異界の者……?」



 まだ頭の中は混乱しているけど、言葉が通じる事が分かったのと、襲いかかって来る様子もないので、多少は冷静になる事ができた。



『何百年ぶりにか【道】が開いたのでな、古い友人に会いに行くところだったのだが……どうやら途中で眠りこけてしまったようだ』


「友人……?」


『うむ。この地の守護を司る龍神だ』

 

「龍神?……確か、千現神社には『千現雷火権現』と言う神様が祀られていて、それが龍神の姿だって伝承があるな……」


 流石はレンヤ。

 その手の話は得意だね。


 しかし、このドラゴンが会いに来たと言うのが、その龍神なんだろうか?

 と思っていると、当の彼 (?)がそれを肯定する。


『確かそんな名前だったような気がするな。長ったらしいから我は『ライカ』と呼んでいるが。ああ……我の名はゼアルと言う』


 ドラゴン……ゼアルさんが名を名乗ってくれたので、僕たちも自己紹介する。

 何とも不思議な感じだ……



 それにしても、千現神社に祀られてる龍神に会いに来たと言うことは……その龍神は実在するってこと?



「結構わたし達の町も、ファンタジーしてたのねぇ……」


「それは今更だね……さっきも目の当たりにしたばかりだし」


「それはともかく……すみませんが、そこを通してもらえませんか?」



 そうだった。

 もうかなり空は薄暗くなってきていてる。

 完全な暗闇になる前に、どうにかここを脱出したい。



『おお、そいつはすまなかったな。ちょっと待っていろ』


 そう言うと、ゼアルさんの巨体が眩い光に包まれる。

 そして、それはみるみるうちに縮んでいき……


 光が収まると、そこには赤髪赤眼の青年が立っていた。



 僕とスミカは、あまりにも不思議な光景に絶句するが、レンヤは感慨深げに呟く。


「ドラゴンが人型になるのはお約束だけど、実際に目にするとは……」


「これで通れるだろ。……俺もこの姿のまま進んだほうが良さそうだな」


 竜の姿のときより少し砕けた口調でゼアルさんは言う。

 確かにあの竜の姿まま神社まで行ったら、巫さんが腰を抜かすだろう。


 ……いや、もしかしたら彼女なら、それほど驚かないのかも知れないけど。



「お前たちは向こうに行くのか。……だいぶ空間が不安定になっているな。よし、お前たち、これを持ってけ」


 と言って彼が僕たちに手渡してきたのは……



「あ、これ……竜の鱗?ゼアルさんの?」


 深紅の金属光沢を持つそれは、先程までの竜形態の彼自身の物と思われた。



「おう。こうなると危険なヤツに遭遇する可能性もあるだろう。見たとこお前たちは戦闘とは無縁そうだが……ソイツを持っておけば雑魚は近寄ってこねえはずだ」


「ありがとうございます。……『無事カエル』よりはご利益がありそうな御守りだわ」


「巫さんに失礼だよ、スミカ」


 ……とは言ったものの、ちょっとだけ僕もそう思った。

 僕の手の中で宝石のように煌めくそれは、いかにも特別な力を持っているように感じられる。


 そうして竜の鱗をつぶさに観察している時、ふと視線を感じた。

 そちらを見ると、ゼアルさんと目が合う。

 彼は僕を不思議そうに見ていた。


「どうしました?僕が何か……?」


「あぁ……いや。お前さん……ユウキだったか?何となく知り合いに似てる、と思ってな……」


「知り合い?」


「雰囲気が少しだけな……。まあ、気にすんな。とにかく、気を付けて帰れよ」



 そう言うとゼアルさんは、神社の方に向かって道を歩き始める。

 僕に似ている人というのは気になるけど、もうこれ以上話をする気はないみたい。



「ゼアルさん、ありがとうございました!」


 歩き去る背中にお礼を言うと、彼は振り向かずに森の道を進みながら片手を上げて応えてから……やがて姿が見えなくなった。


 そして僕は再び手の中に視線を落とし、紅玉(ルビー)のような美しい輝きを放つそれを見つめるのだった。







◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆







「あ!!あれっ!!」


「入口のところの鳥居か!?」


「か、帰ってこれた……のよね?」



 ゼアルさんと別れて再び道を進むこと暫し……30分くらいは歩いただろうか?

 とうに日は落ちて、空は茜から群青を経て闇に沈むところ。


 スマホを見れば、時刻は19時を少し過ぎたところだった。

 更に、先程まで圏外を示していた電波状態も今は正常となっている。


 そして、鳥居をくぐった先は見慣れた住宅街。

 ようやく僕たちはここまで戻ってこれたんだ。




「二人とも、門限は大丈夫か?」


「ギリギリね。少し小言は言われるかもだけど、まぁそこまで大事にはならないわ」


「僕も大丈夫だよ」


 ウチはそこまで五月蝿くはない。

 もう少し遅かったら流石に心配するだろうけど。


「そっか、良かった。じゃあ帰ろうか」



 僕たちは三人とも家は近所同士、帰る方向は同じだ。

 少し足早に帰路に着く。






 こうして、朝の妖精との邂逅から始まった不思議体験は終わりを告げた。

 レンヤじゃないけど、もっと色々と調べてみたい気持ちはある。

 だけど、ちょっと僕たちの手には負えない危険性がありそうだし、冒険はここまでにしておこう。

 明日から再び何の変哲もない日常が続いていくんだ。





 この時の僕は、そう思っていた。


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