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01

 

「物語なんかでさ、よくあるじゃん?後付け設定とか、こじつけや辻褄の合わない出来事がさ」


 音の無い世界で。


「俺、嫌いなんだよね、そーゆうの」


 男は溜息を漏らす。


「だからさ、聞かせろよ」


 残った右手で指差し。


()()はいつからこうなる事を知っていた?」


 相対するそいつは答えた。


「壊れ始めた時に...ね」



 _____________________________________________________


 少し前からこの辺の田舎で一つの噂が広まりだした。


 その噂とは、「メディアで公表できない自然災害がある」というもの。


 最初は誰が言い出したか分からない荒唐無稽な話だと思った、そもそもなんだよ、公表できないって。


 メディアが取り上げるまでもないとかならまだしも、認知していながら公表できない自然災害?まったく訳が分からない。


 賄賂や圧力なんかで公表できない事件や事故があるのは何となく理解できても、自然災害に誰が賄賂や圧力なんてかけるんだ?


 噂自体がひとりの人間の悪ふざけでも、SNSを通じて噂が事実に成るこの時代において偽造映像や画像一つで犯罪にまでなりうるのに、囃し立てて何が楽しいのか。


 今まで思ってた。そう、今の今まで。


「君が見たもの、聞いたもの、すべて口外しないと約束できるなら、私は君を見過ごしてあげてもいいよ」


 仲間にジェシーと呼ばれていた黒髪の女性は、僕のこめかみに銃を模した人差し指を突き立て言った。


 こめかみに伝わる体温が僕には死ぬほど恐ろしく、うなずくこと以外の行動ができなかった。


 目の前に広がる凄惨な現場を、現場に成るのを、現状に至るまでの出来事が僕に断る選択肢を捨てさせていた。


 何の変哲もない学校の屋上が、たったの数分でアニメや漫画の世界でしか見ることの無い、血にまみれた非現実へ。


 先ほどまで在った校舎の半分は崩れ落ち、僅かばかり残された屋上部分は生暖かい血で染められ、見知った場所の筈なのに、見知った部分を探すことができないほど壊れている。


 この現状を作り上げた犯人はもう一度語り掛けてくる。


「そう。それでいいのよパンピーはね」


 ジェシーは僕のこめかみから手をおろし、少しの静寂の後。


「でもね少年、この事を口外したらどうなるかはわかるよね?私はいつでも監視してるから、そこんところよろしくね」


 ジェシーは数歩離れた所で、手刀で空を切り、そこに生まれた歪みへ仲間と共に入り、歪みは消えた。


「なんなんだよ、これ...」


 吐き出せた言葉が僕の思考を加速させ、今日起こった出来事が脳内リプレイし始めた。


 卒業式、そう、今日は卒業式があった。


 先輩が卒業し自分たちが最高学年になり、本格的に進路に悩むことになるんだろうなって今朝は考えてたんだ。


 卒業式自体はつつがなく終わり、何もない生徒は帰っていいと指示が出てたので、僕も早く帰ろうとしてたら声をかけられた。


「ひーくん」


 ヒロキだからひーくんなんて安直な名前で呼んでくる人は一人しか知らない。


「芦澤先輩ですか、卒業おめでとうございます」


 部活動の先輩で、もう卒業生となった彼女が後ろに立っていた。


「あれ~、思ってた反応とちがったな~」


「思ってたのって...どんなの想像してたんですか?」


 芦澤先輩はいたずらな笑みを浮かべ。


「いや~、私の顔見ちゃうと寂しくなって言葉に詰まったりしちゃうんだと思ってたからさ」


 先輩は嬉しそうだった。


「さすがにそんなことになったりしませんよ...」


「でもさ、だれにも会わないようにささっと帰ろうとしてない?靴も履いちゃってさ」


 図星だ、早く帰りたかったのだからしかたないだろう。


「早く帰りたかっただけですよ、他意はないです」


「そうなのー...用事でもあるの?」


 珍しく食い気味な話し方は、卒業したから少しハイにでもなってるんだろうな


「用事はないですよ、帰りたいってだけです」


 先輩はクスっと笑うと嬉しそうに話し始めた。


「よかったらさ、私の卒業最初の思い出作りに行こうよ、ひーくんにとって最高学年最初の思い出をさ」


 ‘お別れ‘や‘最後の‘思い出ではなく‘卒業最初の‘という言い方にとても先輩らしさを感じた。


「それならいいですよ。どうします?今からですか?」


 なんだか心躍る誘い方に思わず快諾してしまった。


「んー、いや、一回帰ってからにしよっか。荷物とか邪魔になってしまうもの多いし」


 そうして僕らは一度家に帰り、「準備できたから校門集合ね!」と言う先輩のメッセージを受け、学校に集合した。


「それから......それからどうしてこうなった?」


 先輩と何か話しながら歩いた、のぼった、開けた、一番最近の出来事なのに記憶が曖昧で現実味がない。


「そうだ、先輩...]


 一緒に来た先輩はどこへ?ここまで一緒に来て...


 辺りを見渡そうと振り返ろうとした僕の足に重く柔らかいものが当たった。


「ああ、そうだ、そうだったんだ」


 後ろに転がった先輩だったものを視認した時、改めてこの場に飛び散った血液が誰のものだったのか思い出した。


 先輩とジェシーの戦いで校舎は半壊し、無傷のジェシーが帰った、つまりそういうことだ。


「噂なんてって思ってたけど、本当の事もあったりするんだな。...こんなの自然災害みたいなもんだ」


 吐き出さないとやってられなかった。言葉も思いも。


「にーちゃん、おうち帰ろう」


 聞き覚えの無い少女の声が聞こえ、裾を引かれるがまま振り向いた


「...君はだれなんだ?」


 それが僕らの出会いだった。

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