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最終話 はわわ!

 ナタン王太子殿下の叫びを皮切りに、クリミネラを守るように立っていた婚約破棄ーズの面々も元婚約者に近寄り叫び出す。


「イレーヌ! 私も惑わされていたんだ、イレーヌ! どうかもう一度私と婚約してくれ、すぐに結婚してくれてもいい。愛しているんだ!」

「やめてください、ジョルジュ様。私はもう結婚しております」

「公爵家の坊や、人の妻に求愛するのは止めてくれないか?」


 近衛騎士団の精鋭であるシュザンヌ様の弟君も、辺境で魔獣の大暴走(スタンピード)の前線で戦う辺境伯を前にしては貧弱な坊やにしか見えなかった。

 まあ近衛騎士団の相手は魔獣じゃなくて人間だしね。


「アンヌ、ごめん! 今からでも遅くないよね!」

「遅いに決まっているでしょう?」


「マリー、私は……」

「教師が婚約者でもない女生徒と仲良くしただけで問題じゃなくて?」


 婚約破棄ーズの面々は捨てた婚約者に告白して玉砕していっている。

 クリミネラはそれを怒りに燃えた表情で見つめていた。


「リュシー、リュシーはどこですか?」


 豪商の跡取りの恋人だった幼なじみ(リュシー)はエレノア商会が引き抜きました。

 今は一足先に帝国へ行って移転の準備中でーす。

 学園の生徒じゃなかったのに、わざわざ卒業パーティに呼ばれた上で婚約破棄されたのよね。ムカつくよね。


「お義姉様!」

「ん?」


 クリミネラに呼ばれて、彼女を見る。

 なお、父はこの場にいません。

 アザール侯爵家はパイロンに譲ったので、婿養子の父は追い出されて実家の男爵家に帰りました。針の筵みたいだけど、男爵家もお爺様の築いた侯爵家の財産を食い潰すのに加担してたんだから最後まで世話してほしいわ。


「アンタの仕業ね! アンタも転生者なんでしょう! そんなDL配布アクセサリーを持ち出して、アタシの幸せ奪おうなんて!」

「エレノア嬢の幸せを奪ったのは貴女のほうでしょう?……まあ、こんな方を手に入れても幸せとは言えないでしょうが」


 ユジェーヌ様はご自身を睨みつけていたパイロンをくるりと回し、私へ向かって歩いてきたクリミネラに突き出した。


「すまない、クリミネラ!」

「パイロン?」

「君は身代わりだったんだ! エレノアが商会の仕事で忙しくて、あまり会えないのが寂しくて、私はエレノアによく似た君を身代わりにしたんだ! 本当は、初めて会ったときからエレノアが好きだった。だけど素直になれなくて……」

「……」


 パイロンの突然の発言に、クリミネラはぷるぷると震え出した。

 ……えー? 今さらそんな言葉が通用するとでも思ってるの? 相変わらず脳に蛆湧いてんなあ。

 確かにエレノア商会の仕事はあったけど、私は無理にでも時間を作ってパイロンと会ってたよ? だって今世の(エレノア)にとっては初恋の人だったんだもん。


「付き合ってられませんね」


 ユジェーヌ様が溜息をつく。


「浮気男が本命と会えないとき、手近な相手で間に合わせるというのは常識です。そんなことを言ったからって、パイロン殿下がエレノア嬢を傷つけた罪は消えません。……ナタン王太子殿下、ご婚約おめでとうございます、お幸せに」


 すかさずバンジャマン陛下が続いた。


「お幸せに、ナタン殿。今夜の醜態は見なかったことにしよう。帝国と王国はこれからも友好国だ」


 安堵の空気が大広間に満ちる。

 そうだよねえ、これ以上ややこしいことにはしたくないよねえ。

 ナタン王太子殿下はがっくりと肩を落とし、バンジャマン陛下に肩を抱かれたシュザンヌ様から視線を外した。ほかの婚約破棄ーズも元婚約者から離れていく。


 真っ赤な顔で言葉も出せずに震えていたクリミネラだけが姿を消し、当事者のひとりがいなくなった状態で婚約式は続行された。

 ……続行っていうのかな?

 ダンスは中止になり、早々に閉会式が行われ解散になったが、婚約式自体が中止になったわけではない。だからやっぱり続行かな。


 ナタン王太子殿下とクリミネラは正式に婚約したわけだけど、エンドスチルの未来にはならない気がする。

 この世界は乙女ゲーム『真珠の涙の少女』の呪縛から解放されたのだ。……たぶん?

 略奪がテーマで悪役令嬢モードもないということで評判悪くて続編もファンディスクも出なかったから終わりだよね、一同解散!


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「エレノア嬢、私と結婚してくださいませんか?」


 驚いたことに婚約式の帰り道、馬車の中でユジェーヌ様に求婚された。


「な、な、なんでですか? なんで私なんかと? あ、エレノア商会の収益目当てですか?……って、失礼なことを言って申し訳ありません!」

「いいえ、そう思われても仕方がありません。昨日お会いしたばかりなのですから。でも私は、私以外の男女を見て幸せそうな笑顔を浮かべている貴女の顔を無理矢理私に向かせて、心も視線も独り占めにしたいのです。そんなことをする権利は、夫にしかないでしょう?」

「あー……」


 ユジェーヌ様のことは好きだ。

 好みから来た好きだけど、好きは好きなのでどうしようもない。

 今も胸がトゥンクトゥンクしてる。でも──私はカプ廚をやめられない。今夜はいろんなカップルが見られて楽しかったなあ。


「ふふっ。男女を見て楽しむなと言っているのではありませんよ。途中で邪魔する権利を私にくださいと言っているのです」

「邪魔しないでくださったら嬉しいんですけど」

「それは駄目です。……私の求婚をお断りになるのも駄目ですよ? ね? 結婚してくださいますね?」


 紫の瞳に吸い込まれそうになって無意識に頷いてしまった私は、アントワーヌ小父様を始めとした身内すべてに祝福されて迎えた二度目の初夜の床でさっきクリミネラが口にした『転生者』という言葉について問い詰められることも、前世やカプ萌えについて話してもユジェーヌ様が変わらず私を愛してくださることもまだ知らなかった。

 あ、外交官として帝国へ赴いたシュザンヌ様とバンジャマン陛下はいい感じです。……てぇてぇ。

 大したことは出来なかったけど、これもひとつの『ざまぁ』ってことでいいのかな。

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