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第四話 なんかやっちゃってます。

 ──あった。ありましたよ。

 なにがあったって? 乙女ゲーム『真珠の涙の少女』に出て来た、攻略対象の好感度を下げるアイテムですよ。

 学園の図書室に浮かぶそれは白銀の髪飾り。私の元夫、パイロンの主人公(私の異母妹クリミネラ)への好感度を下げて、装着時は上がらないようにするアクセサリーだ。


 はーあ、あったんだ。

 妙なところに浮いているけれど、私以外の人間は存在自体気づいていない。

 あー、そうね。アドベンチャーゲームの『真珠の涙の少女』は基本平面で場所ごとに背景固定だったから、背景に浮かんでクリックしてゲットするアクセサリーは、立体的に見るとこういうことになるわけだ。


 とりあえずゲット。

 応接室に浮いていたパイロンの兄である第一王子ナタン殿下対応の黄金の髪飾りもすでにゲット済みだ。食堂に浮いていた公爵令息(シュザンヌ様の弟)対応の紅玉の首飾りも、渡り廊下に浮いていた王立魔法研究所所属の天才少年(ショタ枠、伯爵家養子)対応の青玉の首飾りも、職員室に浮いてた子爵(教師枠)対応の黄水晶の腕輪も、裏庭に浮いていた豪商の跡取り対応の水晶の腕輪も。

 問題は、これをどうやってクリミネラに受け取らせるかよねえ。ずっと装着させて好感度を上げさせないようにするのは無理としても、たぶん触らせたら今の好感度はリセットさせられると思う。こうして存在しているのがなによりの証拠だ。


 初夜から半月経つ。

 正直私は、クリミネラに復讐する情熱を失っていた。

 分家のアントワーヌ小父様のおかげで、パイロンとの離縁が成立したからかもしれない。分家にも影響することなのに、アントワーヌ小父様はアザール侯爵家の財産と領地をすべてパイロンに与えることで彼を黙らせたのだ。エレノア商会さえ死守すれば、生きていくのに問題はないとおっしゃって。


 あ、エレノア商会っていうのは、ゲームには出てこなかった今世オリジナル。

 はっきり自覚する前からぼんやり前世の記憶を持っていた私が提案する前世商品をアントワーヌ小父様が生産してくださって、この王国や東の帝国がある大陸全土に販路を広げた世界的な商会だ。

 リバースとかプリンとかシャンプーとか、お約束通りに作っちゃったんですよ。この国の魔法技術では思うように作れないので、昔からアントワーヌ小父様は大陸で一番魔法技術が発達している東の帝国へ拠点を移したがっていた。会長(名誉会長に過ぎない。実質的な経営者はアントワーヌ小父様)である私と第二王子パイロンの婚約を理由に、王国から移転を止められてたんだよねー。


 婚約破棄された時点で帝国に行っときゃ良かったんだけど、当時は侯爵家を父に譲り渡すのが嫌だったのだ。

 母より身分の低い男爵家子息だった父、男爵家には財産もなかったし、父は女癖の悪さで評判だった。母がメロメロになるほど美男子だったわけでもない。

 魔法技術に劣る我が国で常に多大な被害を出す魔獣の大暴走(スタンピード)で死にかけていた祖父が先代の男爵家当主に救われた礼としての縁談だったんだけど──男爵家ってボロボロになった侯爵領に火事場泥棒しに来てただけだったんじゃないかなあ。お爺様に見つかって援軍の振りをしただけだったんじゃないの? お爺様も晩年はそれを疑っていたよね。


 パイロンもムカつくけど、父に譲り渡すよりはマシ。

 婚約破棄でケチがついた上での再構築なのに、第二王子が初夜に浮気相手の名前を呼んでの離縁でありながら侯爵家は譲渡──これで王家がエレノア商会の移転に文句言ったら笑いものでしょ。

 ああ、王家が勝手なことを言い出さないよう、初夜にパイロンがクリミネラの名前を呼んだことは王国中に広めてある。エレノア商会の店舗で働く皆様が、良い仕事をしてくださいました。侯爵家にいた使用人達も、もちろん一緒に帝国へ行きますよ。


 え? そんな噂が広まったら王子兄弟の仲が壊れる?

 未だ寝込んでらっしゃる国王陛下ご夫妻はなにも言ってこないんだから、問題ないでしょ。

 家庭の問題は家庭で解決してください。というか、兄が弟の恋人略奪した時点で普通は絶縁ものでしょ。


 そんなわけで私自体に復讐の情熱は無くなってるし、第一王子の婚約者だったシュザンヌ様は──


「ダンスは好きです。でもベッドの上で踊ったら、寝具が泥だらけになってしまいますわ」

「いや、ベッドでダンスというのは、な?」


 明晩開催される、この国の第一王子ナタン殿下と我が異母妹クリミネラの婚約式に招かれた(婚約破棄&弟からの略奪で、よくそんな派手な真似ができるよねー)帝国の皇帝バンジャマン陛下と噛み合わない会話をしている。

 流れる黒髪に黄金の瞳、逞しくも均整の取れた肉食獣のような浅黒い体躯。

 バンジャマン陛下はセクシー系俺様キャラだ。


「……天然のシュザンヌ様をからかっても流されて、戸惑いながら惹かれていくのが手に取るようにわかるわ」


 ああ、図書室の壁か空気になりたい!

 天然令嬢シュザンヌ様とセクシー系俺様バンジャマン陛下って最高の組み合わせじゃない?

 問題はバンジャマン陛下が隠しキャラその2だってことなんだよね。ナタン殿下と違って、彼には好感度を下げるアクセサリーが存在しない。


「……気に入りませんね」

「ぴゃ!」


 耳元で囁いたのは、バンジャマン陛下の腹心ユジェーヌ様。

 帝国支配下の王国出身の王子だが皇帝陛下への忠誠は真実である、たぶん。

 乙女ゲーム『真珠の涙の少女』ではバンジャマン陛下のエンドスチルの隅っこに立ってただけだから、よく知らない。

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