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アルクーザ  作者: GGD
おやすみ
1/2

おやすみ*01

 夢の終わりが幸せだった。愛する誰かを抱きしめ、涙を流した。彼は微笑むと静かにその場に倒れ込んで、瞼を閉じて眠りについた。私はその軀に涙をぼたぼた落として覆い被さった。これは何世紀にも及ぶ記憶と現実になる。それがよくわかる最期だった。

 鼻呼吸ができず、目が覚めた。どうやら洟を喉奥に詰まらせるほど、夢に感情移入していたらしい。私は苦しくなって、無意識的に両手を突いて起き上がり気道が確保できるように項垂れたと同時に、私は掴んだものに驚いた。土だ。私はどうやら地面に臥していたらしい。まるで刑事ドラマで自分が撃たれたことが理解できない警察官が、自分の腹部から溢れ出る血に愕然とするように掌を見つめていると、聞いたこともない甲高い鳴き声がすぐそばを駆け抜けた。本能的な恐怖を覚えた私は、思わず肩をすくめて周り全体を見渡すと、木々と藪に囲まれていた。ここは森の中のようだ。おかしい。理解が追いつかない私は、もしかしてまだ夢を見ているのではないかという結論に至った。なるほどこれが世に言う明晰夢。しかし、動こうにも竦んでしまって、首を回すこともできない。ひたすら目玉をキョロキョロさせるしかないから、夜の冷ややかさに鳥肌がいっそう奮い立ったのを即座に感じ取った。どうやらこれは夢ではない。本当に私は森林の中にいる。

 私はまずできることをしようと思った。

 状況整理をしなければならない。私は昨夜、消灯時間ギリギリまで来週に控えた期末テストの勉強をして、そこからベッドに入って就寝したはずだ。施設長が見回りに来た記憶がないから、その前には疾っくに眠りについていたということになる。なのに私は森の中にいる。そもそもうちの地域には森なんてない。自然がある区域に向かうには正味1時間は車を飛ばさなければならないような住宅地の一角だ。私は誰かに運ばれたのか? でも流石にそんなことがあったら、愚鈍な私でも目が覚めるはず。第一、ここは寒すぎる。洟は一向に収まる様子もないし、外気も梅雨の湿気を微塵も感じられない。これでは風邪を引いてしまう。……嗚呼、なんと私は愚かな。私は全裸ではないか!

 何故、今の今まですっぽんぽんだったことに気がつかなかったのか! 状況が混乱を極めている今、あまりに視界の不自然さに集中しすぎるあまり、自分の装いに何一つ違和感を覚えなかった! 恥ずかしい! 何故、服を脱がされた!? これではまるで私が変質者みたいではないか! 不幸中の幸いか、無人だから見られることはないというものの。……いや、まさか、これは誘拐だろうか? 拉致をしようとした何者かが、私が逃げられないようにあえて身包みを剥がしたとでもいうのか! だとしたら、その人はどこに消えて、施設長は何故私を助けようと……はしないな、絶対に。 ……嗚呼、もう! 本当に何から何まで飲み込めない!

 と、そんな思考を遮るように、耳を劈くあの地鳴きが先程よりも離れた、しかし複数の場所から同時に拾えた。齢十四、生涯動物園など来園したことがなく、人以外の声など、近所に棲みつく犬か猫か鳩か烏か、あとはアニメで見たモルモットくらいしか記憶にはないが流石に判る。これは明らかに都会暮らしの私には馴染みのない野生動物のものだ。それに数体増えていることを考えると、仲間を呼んだのだろう。もしや私が餌として認識されたのだろうか。まずい、このまま頽れていてはすぐに奴らに肉を啄まれてしまう。

 私は凍える軀に鞭を打って、何とか立ち上がると一目散にその場から逃げた。方角や距離、目的など一切わからない。ただあの場に留まっては危険だと勘が訴えていた。泥に掬われて縺れる脚と、蔦に絡まって傷つく腕。次第に環境音より自分の心拍が騒ぎ出す。途中何度か動物の影らしきものが視界を掠めたが、気にしていられなかった。呼吸が浅くなり、酸素が脳に届かなくなってきている。息を吸う次の瞬間には、息を吸いたい衝動に駆られる。気息のサイクルは軈て、肺に強烈な痛みを与えた。途中何度も転びそうになる度、上腕を杖のように泥濘んだ地面に突っ刺しては、爪に泥が入るのも構わず、ただひたすらに走った。持久走やハードル走の方が何倍もマシだ。私は根っから運動神経が悪く、スタミナもない自分を呪い、そして貧乳の有り難みを知った。

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