ユニークスキル『セーブ&ロード』持ちの俺は、何度やり直しても勇者パーティーを追放されるので、いっそ開き直ります 〜不遇扱いされた俺は勇者をざまぁ〜
「ブロード……おまえは今日を以て、オレ様のパーティーから追放だ」
……これで四回目か。『勇者』のヒュンが俺に宣言してきた。
どうやら、俺は何をやってもこのパーティーに残ることはできないようだ。
それなら――追放されるまで、好き勝手やらせてもらうとしようか。
俺は小さく息を吐きながら、世界を『ロード』した。
〇
目が覚めたのはベッドの上。
まもなくベッドががさがさ、と揺れ、ひょこり、と一人の女性が顔を見せた。
同じパーティーメンバーのラフィーアだ。少し幼い、利発そうな顔たちをしている。
「何やってるんだ?」
「夜這い」
あっけらかんと言ったラフィーアにため息を返しつつベッドから追い出した。
彼女はぺたんと床に座り、竜人族の証である竜の尻尾を揺らしていた。
「今日は人魔歴610年4月1日で間違いないか?」
「うん、そうだよ」
……よかった。問題なく『ロード』できているな。
俺は『セーブ&ロード』というスキルを持っている。
この能力は、時間の『セーブ』と『ロード』を可能にしたスキルだ。簡単に言えば、この世界の一ヵ月前の時間を『セーブ』し、『ロード』することで過去に戻ることができるというわけだ。
「どうしたの? なんだか深刻そうな顔をしているけど」
「いや、何でもない。明日はAランク迷宮の攻略だからな。少し心配していたんだよ」
「そっか。でも、きっと大丈夫。だって、ブロードがいるんだし」
「とにかく、明日に備えて休めって」
「うん、わかった。おやすみ」
ラフィーアを部屋から追い出したところで、俺は小さく息を吐いた。
……深刻そうな顔の理由は簡単だ。
今俺は、『勇者』、ヒュンのパーティーに所属している。
だが、先ほど宣言されたように、一ヵ月後このパーティーから追放されてしまう。
ヒュンの表向きの理由は、俺が弱いからだ。
だが、違う。俺は三度やり直したから知っている。
一度目。俺は「使えないから」とパーティーを追放されるのが分かったので、やり直した。
二度目。俺はこれまでスキルの性能を隠していた。時間を巻き戻せるようなスキルだ。親しい相手にも中々話しにくいことだった。だけど、追放されたくなかったのですべての事情を説明した。
その結果、みんなは俺のスキルに驚き、同時に理解してくれた。……だが、一ヵ月後、同じようにヒュンは俺を追放した。
理由は簡単だ。『おまえよりも優秀な奴を見つけた』というものだった。
……だが、本当の理由は違った。
ヒュンは、ラフィーアが好きなのだ。だから、ラフィーアと俺との仲を引き裂きたかったのだ。
三度目は簡単だ。仕方がなかったので、ラフィーアと出来る限り距離を置くようにした。しかし、その努力むなしく、俺はヒュンに追放されてしまった。
四度目は……もう完全にふざけていたな。ヒュンに好かれれば大丈夫だろうと思い、恋する乙女のように付け回してみた。気持ち悪がられて一ヶ月もたず追放された。
俺がここまで『勇者』に拘るのは金が欲しいからだ。
『勇者』に届く依頼の報酬はどれも高額だ。俺は孤児院出身であり、今も稼いだお金のほとんどは自分の孤児院に寄付している。
だから、金が必要だった。
これで、五度目の人生だ。
『勇者』に追放されるのなら、俺が『勇者』になってやろうじゃないか。
〇
三週間が経った。
俺は黒いローブを身にまとい、姿を隠して歩く第五王女の後をつけていた。
彼女の隣では同じようにローブを纏った騎士二名がいる。……彼女らが、姿を隠して移動している理由は簡単だ。
――命を狙われているからだ。
本来、国の跡目は男が引き継ぐものだった。
だが、運が悪いのか、呪われているのか……生まれた子どもはすべて、女だった。
そのため、国は方針を変えることになった。
王ではなく、女王でも良いのではないか、と現国王が言いだした。
……しかし、誰が継ぐかの具体的な案が出されないまま、現国王は暗殺されてしまった。
……だから、現在。国内は大きく乱れている。
誰が王座を引き継ぐか……それは――もっとも力のある者という結論になった。
その力の証明は?
――そんなもの、生き残っていた者しかいないだろう?
あとは、血で血を争う戦いだ。姉妹たちで、今もなおお互いの命を狙いあっている。
第五王女は、まだ十五歳と五人の中でもっとも幼く、頼れる人間がほとんどいなかった。
そのため、彼女が唯一信頼できる二名を連れ、夜の闇に紛れるように、王都を脱出しようとしていたのだ。
……俺が彼女らを見つけられたのは、まさに『ロード』による力があったからだ。
四度のやり直しにより、王女が王都で殺害されることは知っていたので、片っ端から捜し歩いてやった。
そして、どのようにして殺されるかも――俺は知っている。
第五王女の隣にいた騎士が、ちらと周囲を一瞥した。次の瞬間だった。彼は腰に差した剣を握りしめた。
「覚悟ッ!!」
……第五王女は、信頼していた側近に裏切られ、その命を散らす。
彼女の死体は絶望に染まった顔をしていたといわれている。
二人の側近が第五王女に剣を振りぬいた瞬間に合わせ、俺は飛びこんだ。
ぎりぎりで間に合い、二人の剣を弾いた。
実は一回失敗して、目の前で殺されてしまったというのは胸の内に秘めておこう。
かっこよく、ナイスタイミングで救出に入った俺に、騎士たちは驚いていた。
それでも、彼らはプロだった。すぐさま飛びかかってきて、俺は死んだ。
うん、俺別に剣の才能はそんなにないからな。
だから、『ロード』する。勝つまでやるだけだ。
――一度で無理なら、百回やればいい。
何より――技術、経験はどんどん蓄積されていくからな。
完璧な剣術は学べないが、この側近の動きの癖、剣術はどんどん積みあがっていく。
簡単にいえば、この側近にのみ勝てる剣、を学んでいくことはできる。
――五十一回。
まあ、わりと早いほうだったか。
俺は騎士二名を殺し、フードをはいで倒れていた第五王女に手を伸ばす。
警戒した様子で彼女は俺の手を握り、立ち上がった。
その顔は、絶望に染まっていた。
「大丈夫か?」
「……は、はい。あなたはえーと……?」
「俺はブロードだ。あんたは?」
「わたくしは――リリィと申します。ただの、しがない、町娘ですわ、おほほっ」
「リリガル・アバリンガ第五王女」
俺がぼそり、というと、彼女は驚いたように俺の手を払った。そして、腰に差した剣に手を伸ばした。
「……し、知っていましたの? 私が第五王女であることを……っ!」
「ああ。知っている。そして、これから北の地の辺境伯の元に避難しようとしていたところもな」
「……ど、どうして――それは先ほどの側近二名と、辺境伯しか知らないはずなのに……」
「そんでもって、その側近には裏切られた、と」
「……」
彼女は悲し気に目を伏せ、俺が切り倒した二人を見ていた。
「彼らは……わたくしが幼い頃から一緒にいてくれた人たちですわ。それが、どうして――」
「知らないが、人質か、あるいは金でも積まれたんじゃないか? まあ、それはいいんだよ。俺がおまえを安全に辺境伯の元まで送り届けてやる」
「……何が、目的ですの?」
「『勇者』の爵位だ。第五王女なんだ、そのくらいはできるんだよな?」
『勇者』、というのは一定の迷宮攻略を達成したものに与えられる爵位だ。
他の爵位との位の違いは単純な比較こそできないが、持っていることで高難易度迷宮の攻略依頼がバンバン届くようになる。
その報酬がかなり良いものなので、俺は『勇者』になりたかった。
「……『勇者』、はい、できます。……でも、あなたを信じられません」
「じゃあ、もうこの世に信じられる人はいないんじゃないか? 幼い頃から親しかった側近も何に目がくらんだのか知らないが、裏切ったんだからな」
「……」
「その点、俺は『勇者』の勲章さえ確約してくれるなら、この命に賭けてでもあなたを守り抜きましょう」
彼女にすっと騎士のように手を差し出した。
……今日から俺が追放される5月1日まで、パーティーでの活動は休みだ。
この期間に『勇者』ヒュンは俺をパーティーから追放するための仲間探しを行っているのだが、まあ、それはもうどうでもいい。
「……分かり、ました。あなたに護衛の依頼をお願いします」
リリガルは少し迷っていたが、俺の手を掴んだ。
〇
そして、俺は色々あったが、リリガル――リリィを無事辺境伯の元まで送り届けた。
リリィにとって、唯一といってもいい後ろ盾だそうだ。
辺境伯もまるで孫のようにリリィを受け入れ、問題なさそうなのを確認して、俺は急いで王都へと帰還する。
「てめぇ、おせぇよ! 一時間遅刻だ!」
待ち合わせ場所である宿に戻ると、ヒュンが俺に怒鳴りつけてくる。
「悪い、それで何だ? さっそく、迷宮攻略に行くのか?」
「はっ、そうだな。てめぇはいけないけどな!」
ニヤリ、と笑ってヒュンは俺の首を斬るように指を動かした。
「ブロード、おまえは今日を以てパーティーを追放する」
その言葉を俺は待っていた。
席を立ちながら、懐から一枚の紙を取り出した。
「ああ、そうか。それなら、何の未練もなく、頼めるな」
「あぁ?」
俺はリリィから受け取っていた、推薦状を彼に見せつける。
『勇者』の爵位は、五十人だ。『勇者』の爵位は実力によって奪い合うものとなっている。
そのため、新しく推薦される者は序列最下位の者と戦い、その権利を奪う必要があった。
俺の推薦状には、序列50位の、『勇者』ヒュンと戦う旨が記載されている。
「……なっ!? な、なんでてめぇが第五王女様と……っ! それに、オレへの決闘だと?」
「そうだ。俺が勝てば俺が『勇者』になるというわけだ」
「……」
ヒュンは始めこそ驚いていたが、すぐにその顔が笑みに染まる。
そして、腹を抱えて笑い出した。
「はっはっはっ! おまえ、本気で言っているのかよ!? おまえは俺のパーティーの索敵者だ! パーティーの中じゃ最弱の癖に、オレに本気で勝てると思っているのかよ!?」
「やってみないと分からないだろ? 決闘は勇者ギルドの訓練場で行われる。日付はそっちの指定で構わないが」
「今すぐやるに決まってんだろ? てめぇなんて、数秒で片付けてやるよ」
「そうか……それじゃあ行くとしようか」
俺はヒュンと他の仲間たちを連れて、宿を出た。
〇
勇者ギルドに話こそ通していたが、まさか今日すぐに行われるとは思っていなかったようだ。
少しだけ準備のために待機して、それから俺とヒュンは訓練場内にて向かいあう。
「うっかり、冒険者として再起不能なくらい傷つけられても、知らねぇからな?」
「そっちもな」
ヒュンがにやり、と笑って剣を鞘から抜く。
俺もそれに合わせ、鞘から抜いて、一歩迫る。
決闘の前の軽い挨拶として、お互いの剣を触れさせてから、一歩離れた。
「それでは、序列50位『勇者』ヒュンと、ブロードの決闘を執り行う。お互い、殺すのは禁止だ」
こくり、と俺たちは頷いた。そして――審判が手を振り下ろした。
同時、ヒュンが地面を蹴りつけ、一瞬でこちらに迫る。
俺もそれに合わせて踏み込み、ヒュンの剣に剣を当てる。体当たりのような衝撃を与え、ヒュンを怯ませる。
「テメ……!」
次のヒュンの動きは――もう経験している。
彼の動きを潰すように剣を振りぬき、ヒュンの腕を浅く斬る。
すでに、俺は、ヒュンを倒せるまでに経験を積んでいる。
「雑魚の癖に……オレの邪魔をするんじゃねぇ!!」
怒鳴りつけるようにヒュンが声を荒げ、剣を振り下ろしてきた。
しかし、すでにそこに俺はいない。
未来を見るような目は持っていない。だが、未来を体験できる力は持っている。
彼の背後をとった俺は、彼の背中を浅く斬りつけ、その体を蹴り飛ばした。
顔面から大地に転がり、土まみれになって慌ててこちらに向き直ったヒュンの喉元に、剣を突き付けた。
それでもまだ動こうとした彼の喉に掠るように剣先を近づける。つー、と僅かに血が浮かぶ。
「審判の私が判断させていただきます。勝者は、ブロードとなります。序列50位の『勇者』のバッジをこちらに返却してください」
「……ふざっ、けんな!! こんなの卑怯だ! やり直しだ!」
「いえ、それは認められません」
審判が近づき、鋭くヒュンを睨みつける。
……この審判は、序列10位の勇者だ。基本的に勇者ギルドを管理し、『勇者』決闘を取り持つ人間だ。
そんな彼に睨まれたヒュンは顔を顰めながら、勲章を外し、地面にたたきつけた。
「お、おまえら! 行くぞ!」
ヒュンがそういって、仲間たちに声をかける。
しかし、誰もヒュンの後にはついていかなかった。
「……私、あなたにはうんざりしていた。『勇者』の強制権で仕方なく一緒にパーティーを組んでいた。けど、『勇者』じゃなくなったのなら、それも無効」
ラフィーアがそういうと、残り二人もこくこくと頷いた。
「ああ、オレもだ」
「私もよ。もう一緒にパーティーは組みたくないわ」
「ふ、ふざけんじゃねぇよ!」
三人は、ヒュンの後にはついていかず、ヒュンは今にも泣きだしそうな顔をしていた。
しかし、彼は唇をぎゅっと噛んでから、俺を一度睨む。
それから、聞き取れない雄たけびを上げた後、勇者ギルドを立ち去った。
静かになったところで、審判がこちらへとやってきた。
「おめでとうございます。これからあなたは序列50位の『勇者』です。こちらのバッジを紛失した場合、権利も剥奪されますのでご注意ください」
彼はすっと、ヒュンからとった『勇者』の勲章をこちらに渡してきた。50、という数字の入ったバッジを渡してきた。
それを受け取り、ヒュンがつけていたように左胸につけた。
これで、『勇者』としての仕事が続けられるな。
そう俺が思ったときだった。ぱちぱち、という拍手とともにこちらへ一人の女性がやってきた。
……リリィだ。
「リリガル様、どうしてこちらに?」
俺が他人行儀にそういうが、彼女はむっと頬を膨らませる。
「リリィ、でしょう?」
護衛とともに近づいてきたリリィが、にこりと微笑む。
突然の第五王女の登場に、皆が驚いているようだった。
王都まではリリィとともに来ていたので、彼女が王都にいることは知っていた。
だが、リリィが来ていたのはあくまで俺の見送りだった。俺と離れたくないとわがままを言ったリリィが、無理やりついてきたにすぎない。
つまり、彼女は俺を見送った後、北の地に帰る予定だった。
勇者ギルドに来るなんて一言も言っていない。俺が困惑していると、リリィはにこりと微笑み俺の上を掴んできた。
「あなたは、私の、私だけの『勇者』ですわ」
「……ちょっとまて、俺は『勇者』として、迷宮攻略をする予定があるんだが――」
「知っていますの? 推薦した『勇者』は推薦者の管轄に入りますわ。つまり、あなたは私のしもべのようなものですの」
「……それは知っているさ。でも、おまえは俺を『勇者』に指名することしか言っていなかったよな? それ以上は拘束しないって」
リリィはぺろっと舌をだして微笑む。
「知りませんわ。私第五王女ですわ。命令に従わないのなら、『勇者』の推薦もなかったことにしますわよ?」
わがままな王女様は、俺にぎゅっと抱きついて離れない。
ラフィーアたちは、ぽかんとこちらを見て、助けてくれない。
……どこから『ロード』すればこの状況から抜け出せる?
「ブロード? ほら、私と付き合ってください」
考えたが、答えは出ない。
別の貴族を頼ってもいいが、そうなれば俺はリリィを見殺しにすることになる。
……それもまた嫌だった。
「……ああ、わーったよ」
それに、またやり直すのも面倒だしな。
俺は小さく息を吐いてから、彼女とともに歩き出した。
まあ、リリィが嬉しそうに微笑んでいるのだから、この結末も悪くない。
今はそう思うことにした。
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