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カードゲームの中の人!  作者: 鈴木彗星
1章 はじめましてとまたあおうねのおはなし
15/17

1-13

「しまった、イリアが捕まった!」

 遺跡ときたらお宝を守る魔導生物が定番じゃあるが、この数は異常じゃねえ?

 いやしかし、あのぬらりとした触手につかまっているお堅い聖女様、いつもは分厚いローブに隠されている体の形がはっきりと見えて、おお、いい尻してやがる。

「ライト! ぼけっとしてないでイリアを助けて!」

 へいへい、わかりましたよっと。

 それじゃあいっちょ、囚われのお姫様を助けるとしますか。

                           ――勇者ライトの冒険譚



 ────────


「うおまぶし、あ、見える?」


 カードの準備をしてからすぐ両目をバスカリに取り除いてもらい(痛みはほぼなかった)、準備していた「悪意ある監視者ウォッチャー」を即座に『まぐ』としてキャスト、少しだけ不安ではあったが監視者ウォッチャーはこちらの指示にすんなりと従い、取り除かれた目の代わりになってくれた。


 呼び出し、目のあたりに少しだけ何かに触られたと感じると途端視界は甦り、あっけないほど簡単に光を取り戻すことができたのが今であるが、


「視界が、ピントが合わない」


 起き抜けのようにうまく焦点が定まらずぼやける視界を、四苦八苦しながら目の前の骸骨に定める。


「お、なおった。あれ」


「どうした」


 焦点があったと思ったその瞬間、彼の頭上にぼんやりと浮かんだのは薄っぺらい長方形。

 見慣れたデザインが描かれたそれは、どうやらよく知ったカードのようだ。

 髑髏騎士の頭上に浮かぶカードという違和感に思わず凝視していると、ぼんやりしていたものは次第に輪郭を成していく。


「バスカリさんの頭の上にカードが浮かんでるんですが。なんだろう、このカード」


 カード内容を確認しようとすると、まるで距離など関係ないかのように、離れていても不思議とそのテキストごとはっきり読むことができた。

 ただそのカード名に覚えは全くなく、ただただ疑問符が浮かぶ。


「ぎのうカードみたいだけど、『警戒する』? キストは、『奇襲を無効化する』か。知らないなあ……ああ、もしかして」


 悪意ある監視者ウォッチャーの能力に思い至り、ある考えが頭をよぎる。


「すいません、バスカリさん。ちょっとその辺に向けて剣を振ってもらえませんか。なるべくゆっくり、私にも見えるにお願いします」


「む……これでよいか」


 ヒュオッと、赤黒い刀身が音をたてた。

 律儀に加減されたその斬撃は、それでもなお鋭い。

 そして彼が剣を振る直前、彼の頭上に浮かんだ『警戒する』のカードが変化していたのを見て確信する。


「『斬りつける』から振り終わったら『警戒する』に戻った。デッキトップ(山札の一番上)公開ってこっちだとこういう扱いになるのか。これは強いな」


「なんなのだ」


「あ、ありがとうございます。実は……」


 剣を傍らに置きながら不思議そうに尋ねてくるバスカリに、悪意ある監視者ウォッチャーの目の能力を説明する。

 恐らく、魔具として呼び出したこの目は対象の次にとる行動をカードとして見ることができる。


「ふむ」


 興味深そうにそう言った彼の頭上のカードが『斬りつける』へ変化した。

 いつの間にか剣を持ち直していた隻腕に、じぶんは斬られるのかと驚いて硬直していると


「ほほう、面白いではないか……が、貴様はまだ鈍いな、励むように」


 再び剣を置きながら、彼は不出来な弟子にそうダメ出しをした。


「ずるしてる気分ですが、生き死にがかかわってますし、ありがたいと考えるべきですかね……」


 少しいじけつつも監視者ウォッチャーの想像以上の有用さに思いを巡らせていると、彼からせかすように声がかかる。


「じきに慣れるれるであろう。それよりも話の続きだが」


「あ、はい」


 視力を失いかけるという一大事で忘れていたが、前の話題が中途半端なところだったことを思い出す。


「すいません。ニンバスのことでしたね。目が見えてなくてよくわからなかったんですが、あの後どうなりましたか」


「斬った……が、間を置かず甦るであろう。ゆえに、貴様は即座にここを離れよ」


「さすが、倒したんですか。まあ復活はニンバスの強みですからね……え、離れる?」


 驚いて彼の鎧を観察する。

 細かい傷やへこみが歴戦の勲章であろう重厚な鎧は、記憶にあるものと比べて大きな損傷も見当たらない。


「ワレは無傷だ。あれは目覚めたばかりであるから、本来の半分の力もなかったであろう。が、それも長くは続かん。すぐに力は戻るであろうし、何度もやりあえば、そのうちこちらも限界が来る」


 自身の塊のような男のめずらしい弱音めいたものに、思わずたじろく。


「……あれは何なんですか。ニンバス・バルバリア、というのはもちろんわかっていますが」


 この『最も深き迷宮』で遭遇するモンスターはその人物の力量に比例する。

 ただバスカリは、自分は守護者だから例外だといった。

 しかし、あの怪物はどうあがいてもじぶん一人では手も足も出ないもの(・・)だ。

 まるでこの迷宮のルールにそぐわない。


「ワレがこの迷宮の守護を担っていることは覚えておるか」


「はい、それはまあ」


「うむ。あやつはワレの後継として生み出された新たなる守護者である」


「後継? でも、バスカリさんはまだ」


 果たして骨だけとなったその姿は、生きていると呼んでいいものか。


「『管理者』にワレの叛意を悟られたのであろう。従属の強呪(ギアス)をどうにか抑え込んでおったが、しびれを切らしたと見える。天敵でワレを抑え込む腹積もりであろうな」


 思わず宝物庫を見回す。

 以前と変わらず薄暗いそこは、中央には相変わらずうすぼんやり光る女の像が鎮座している。

 しばらく像を眺め、視線を彼に戻す。


「『管理者』、ですか?」


「ワレをここに縛る、憎らしいやつよ」


 吐き捨てるようなそのことばには、隠しきれない憎悪が見て取れる。


「新しく生み出したからといってもワレがおる。即座にすげ替わるというわけではないが……我より上位の『管理者』があちらについておるからな、時とともに秤はニンバスに傾いく。ゆえに、あまり猶予はないのだ。ヤツの権限がワレを上回れば、迷宮はワレの命に従うことをやめる」


「直接手を出しては来ないんですか、その『管理者』というのは」


「詳しくはわからぬが、恐らくは」


 音もなく立ち上がるバスカリを見上げる。


「だが今ならまだ、迷宮はワレの命を聞く。そこな像の転移術式を使えば、即座に外へ出られるであろう

 。本来であれば守護者を討伐したもののみが使用できるものであるが……」


 守護者が命じれば、それは可能であると彼は告げた。

 あれで戻れるのかと、うすぼんやりとそこにある像を眺めながら、先のことへ思いを巡らせる。


 外に出ることができるという言葉に今一つ実感が持てない。

 薄暗く埃っぽい空気、太陽は見えず風を感じることもない無機質な石造りのこの迷宮に随分長くいたためだろうか。


 一月ほどハードに鍛えてもらったおかげである程度の心構えはできた。

 自分に降ってわいた奇妙なカードの力もそれなりに把握できている。

 正直、彼の庇護から離れることに不安を感じないわけではないが……


「私は、外で一人でも生きていけるでしょうか」


 少しうつむき、考え込むバスカリ。


「うむ、辛うじてというところではあるがな」


 苦笑するかのような彼に、なるほど、及第点はもらえたようだ。


「それでは、バスカリさんはどうするんです」


「さて、管理者より不要とされたこの身ではあるが……最後にあやつの邪魔をするのも一興であるな」


 叶わぬとも、抗うと。

 誇り高く告げるその姿に、かつての姿を幻視する。


「うむ、では貴様に……いかん、思ったより早い」


 そう言って扉へ視線を投げる彼につられてそちらを見ると、ゴゴッ、ゴゴッと重々しく扉が左右へ割れていくところだった。


「……すまぬ、間に合わなんだわ」


 徐々に開かれていく扉から漏れ出す寒々しい気配。

 己の四肢はまるで金縛りにあったようで、ピクリとも動かない。



 やがて、開け放たれた扉の向こうで――邪悪はにたりと笑いかけてくる。



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