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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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三つ巴の一斉攻撃

●55 三つ巴の一斉攻撃


 敵編隊が散開し、さっそく二十機ほどの戦闘機たちが攻撃をしかけてきた。甲高い敵機のプロペラ音が響き渡る。


 ブイ――――ン!


 素早い動きで駆逐艦の間をすりぬけると、赤城の周辺でバンクする。あきらかに熟練のパイロットたちだった。


『なにかを撒いています!』


 対空監視塔からの声が聞こえる。おれはびくっとして艦橋の窓に駆け寄った。


 丸くキャノピーの盛り上がった小さな機体が、上空へと駆けのぼると同時に、ひらひらと舞うなにかをばら撒いているのが見えた。


(チャフだ!)


 それは前回の北太平洋での海戦でも、苦衷を舐めさせられた電波妨害技術だった。


 どうやら連中はこの最終戦のために、ここまで温存してきたらしい。前回の海戦では連動高角砲をとめ、その後風上への回避行動でなんとかしのいだが、今回もその作戦がうまくいくかどうか。


 だが、今はそれしかなかった。


「連動高角砲を止めろ」

「連動高角砲撃ちぃ方やめぇ」


「直掩機に戦闘機を墜とさせろ。迎撃隊はグラマンとは巴戦をせず。高度五千から一撃離脱を狙え」


「艦隊距離を二千とせよ。くりかえす、迎撃隊は戦闘機を撃墜せよ」


 おれはとにかく高角砲をやめさせ、その攻撃阻止を直掩機に命じた。二十機ほどしかいない味方の戦闘機では、あきらかに不足だ。


 ここは補給を終えた戦闘機が増えるまで、なんとか時間を稼ぐしかない。


「チャフ投下の間は注意が散漫になる。そこを狙え!」


 その間にも、敵機はおれたちの輪形陣をあざわらうかのように、つぎつぎにやってきては、チャフを四方に撒き散らした。


 同じ機体が旋回しながら数度にわたって撒いているところを見ると、今回はこの手法に有効性ありと見て、かなりの量を積み込んでいるらしい。


 わずか一分たらずの攻撃で、おれたち艦隊の周囲には、キラキラと光るチャフがまるでコンサートの紙吹雪みたいに舞い散ることになった。


 さらなる投下を企図しようと、高度三千ほどの空を舞う彼らに、直掩機が高高度からの一撃離脱をしかけていく。


 ダダダダダダダ!

 ボボン!


 何機かのグラマンが火を噴くが、彼らはチャフの投下をやめようとしなかった。相当覚悟をきめて来ているのだ。


 高度五千ほどで撒かれたチャフは、周囲に散乱しながら舞いながら落ちていく。この時代の精度を考えると、その落下速度はおそらく一秒で二メートルってところだろう。したがって、三千メートルなら千五百秒、つまり半時間は空を舞っていることになる。


「全艦隊取舵で風上に回頭せよ」


 ごおっとタービンが唸り、右に大きく傾く。ゆっくりと空母赤城が左方向に回頭していくのがわかる。


「ら、雷撃機が来ます!」


 ふたたび監視員から報告が上がる。


「方位角、右二十、四十五、五十、九十、左十、三十……まだまだ来ます」


「くっ!」


 おれは頭の中でその様子を描く。


 空母艦隊の周囲を十機もの雷撃機が取り囲み、一斉に迫ってくる映像だ。


 息をつく間もなく、さらに声がする。


「三時の方向、爆撃機!」

「照らせ!」


 投光器が上空に向けられる。


 おれは窓から上を見あげた。ほとんどなにも見えない薄ぼんやりした空に、キラキラしたチャフと、こちらをめがけて飛来する一機のアヴェンジャーが、その翼をピンと張っているのが見えた。


 サーチライトが横ぎるように、その姿をさっと照らして消えた。


 なんだ?!

 いま一瞬、翼の下になにかが見えたぞ?




 クエゼリン島では元前頭の西村雅夫一等水兵がうずくまっていた。


 仮設電波塔そばの塹壕で、上空に向けた機関砲を構えているのだ。でかい身体に、大型の兵器が良く似合っている。


 一辺が六メートルほどもある電波塔は、下半分だけが屹立していた。


 全高三十メートルほどの塔を半分で割り、別々に制作したものを、今日の夜半に一体化するつもりでいた。塔の上半分は、まだ地面に転がっていた。


 横に十メートルほどしかない塹壕には、ともに建設に協力してくれた兵士たちが歩兵銃や機関銃を構えている。


「班長、機材の退避が終わりました」


 塹壕の端から、伝令の兵が駆け寄ってきた。


 固い岩場を選んだために、この塹壕は深さが一・五メートルしかなく、どの兵も移動はかがみながらである。


「ファクシミリは大丈夫か」


「はい。ご指示通り、重要器物は大発動艇で沖に出し、油材はリヤカーで分散しました、発電所は動かせませんのでダイナモだけ取り外して埋めてあります」


「ようやった。ごくろうさん」


 うなずいて西村は突き出た腹をなでる。


 おかしなもので、電波塔設置の責任班長となってから、西村は部下から大きな信任を得ていた。自ら汗をかき、部下の面倒見もよかったからだが、なによりその巨体と、大阪弁とは裏腹の、頭脳の明晰さが頼もしく見えた。


「それから、司令部から重ねて命令がまいりました。総員交戦せず森に退避せよとのことです」


「言わせとけ。ワシらがここ守らんでどうする」


「では、せめて班長だけでも」


「あほなこと言いな」


 西村は笑って機銃を撫でた。

「手柄は渡さへんでえ」


 兵士は呆れたような笑いを浮かべて下がっていく。


 それを見つめながら、西村はふと真面目な貌になった。


(!)


 海のかなたから、エンジン音が響いてくる。それはあっというまに海岸線へと近づいて来た。海岸を見つめる西村の目に、二十機以上の編隊が見えた。


「来よったぞ!」


 敵が低空から機銃を撃ちかけてくる。


 ガガガガガガガガ!


「撃てええええ!」




 アメリカ艦隊の周囲を、さきほどから一機の航空機がつかず離れず飛行していた。大鳥島と命名されたウェーク島守備隊の百式司偵である。


 百式司偵――太平洋戦争期につくられた名機中の名機だ。


 三菱重工業が空力性能を重視して開発したジェット機のようなすらりとしたデザインと、双発の強力なハ二六エンジン。常用高度は六千メートルに達し、最大速度も六百キロという、敵の戦闘機をも振りきれる高速性能を誇った。


 乗員は飛行士と偵察員の二名である。


 武装こそ、後部機銃しかなかったが、偵察機としてはそれで必要十分だ。


「少尉どの、そろそろ見えなくなってきましたよ」


 後部座席から、偵察員の織田一等兵が飛行士の真栄田まえだ准一少尉にマイクで話しかけた。


 この百式司偵は機上場所が前後で離れており、肉声はほとんど聞こえない。彼らは南雲の要請で、急遽、ウェーク島からこの海域に米機動艦隊の位置偵察へと狩りだされていた。


 そう言われて、真栄田は軽くバンクして遠くの海面に目をやる。たしかに、空を映して煌めく海面は黒く沈み、敵の艦隊はほとんど見えなくなっていた。


 むろん、敵にはもうこちらの存在はバレている。


 ただし、バレたところで、攻撃されない限りどうってことはない。十キロほども離れた空域では砲撃は当たらないし、直掩機がやってくれば、高速性能をいかして逃げるだけだ。米軍も少ない直掩機を無駄に消耗したくないのだろうと、真栄田は思っていた。


「そうだな、敵に大きな動きもないし、南雲艦隊からも攻撃隊がこちらに向かったと連絡があったしな」


「なら、自分らはお役御免ですかね」


「そういうことだ……そろそろ」


 帰ろうか、と言おうとして、ふと悪戯心が湧いた。


 たしかに、直掩機は数えるほどしかいなかった。


「なあ織田」

 後席にマイクから声を送る。


「はい、なんでしょう」

「一発、撃ってみないか」


 一瞬息をのむ気配があり、しばらくあって、織田が声をあげる。


「本気でありますか少尉どの?」


「おうよ。こいつらに最初の弾を撃ったのが陸軍だったってのも、面白いんじゃないか」


「は、はい……」


 あまりのことに、思わず織田の声が小さくなる。


「おい、元気がないぞ。気をつけ!」


 真栄田が理不尽な命令を下す。


「アメリカ機動艦隊に最初の弾を撃ちこむのは、誰なん、だ!」


「じ、自分であります!」


「よし、準備しろ」


 言われて織田が後席の機銃に手をのばす。そこには換装されたばかりの二十粍機関砲が据えつけられてあった。点検して、試射する。


 ガガガ!


「準備よし!」

「行くぞッ!」


 旋回し、真栄田は敵の艦隊に機首を向けた。高度五千のまま接近し、一気に敵艦隊に近づいて、低空を飛行して抜け出るつもりだった。


「目標、敵空母。追い抜きざまに撃て」

「はッ!」


 スロットルを押し、加速する。双発のエンジンが回転数を上げ、プロペラが唸りをたかくする。艦隊がはっきり見えてきたあたりで、真栄田は高度を落としていく。降下角度は三十度ほど。


 ババババババ!


 複数の駆逐艦から砲撃の白煙があがる。それを見た瞬間、がっと操縦かんを倒して左にバンクさせる。


 ドンドンドンドン!


 少し遅れて発射音がし、さらに右後方でと爆発音が響く。今度は右に倒し、一気に低空へと機体を落としていく。


 駆逐艦の間隙から空母群の斜め後方に切り込み、左へ右へと機体を振る。機銃の曳光弾がはげしく飛来するが、当たりはしない。


 波を蹴立てるほどの低空から一気に高度を上げる。


 ドンドンドンドン!

 バシャ!


 高角砲が至近距離で爆裂して榴弾が何発か機体に食い込む。しまった、近接信管か! 一瞬ひやりとするが、もう止められない。スロットルを全開にして操縦かんを引き上げる。目の前に空母の艦橋が迫り、横転して掠めるように上空へと逃げる。


「いけ織田あ!」

 一瞬織田の機関砲が一瞬遅れる。


 ……ガガガガガガガガガガガガ!


「ああああああ!」


 真栄田は全速で空域を離脱して、上空を目指す。

 雲に突入して、後席をふりかえる。


「おい大丈夫か?!」

 後席から応答がない。


「織田!おい!」


 しばらくして、はあはあという息使いが聞こえてきた。


「は、はは。や、やりました少尉」


「ケガは?!」


 そう言いながら、真栄田は自分の身体を点検する。どこにも異常はなかった。翼にも、燃料にも、なにも損傷はない。


「だ、大丈夫です。ケガありません」


 身体の力が抜ける。 ふう、と真栄田は息を吐いた。


 その時、無線から見知らぬ声が聞こえてきた。


『こらあ!偵察機が余計なことするなあ!』


 位置情報を送るため、チャンネルはとうに海軍に合わせてある。


『百式を操縦するのは誰か!』


「こちらは陸軍大鳥島守備隊、真栄田少尉だ。キサマこそ誰だ!」


 雲の上に月が見える。


 その先には雲霞のような大編隊が見えた。


 わずかな沈黙がある。


『……真栄田少尉、少尉のおかげで勢いがつきました。これより南雲艦隊坂井飛曹長が突撃を開始いたします。大鳥島守備隊に栄光あれ……』


 大編隊が近づく。


 見えるかどうかわからないが翼を振る。


 すると、何機もの飛行機が返礼に翼を振り返した。

いつもご覧いただきありがとうございます。それぞれの戦いが始まりました。それにしても南雲艦隊、ピンチです。 ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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[良い点] 日本の技術って素晴らしい 上野の国立博物館に零戦と世界一精密な時計が並んで展示されていたのが素晴らしい [一言] チャフと書いてミノフスキー粒子と読む・・・・
[良い点] 誉の一番槍ですな。 実史でも343空の勇士、本田稔少尉が新兵の頃、陸軍の上陸部隊がグダグダしてて上陸出来ない時に、敵に7,7粍機銃を射撃し、上陸部隊を鼓舞したそうです。
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