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序章
王は太陽の化身。天杖を以って妖獣を従え、聖紋を以って世の理を正し、徳を以って天下に遍く太平を齎す。
王無き国に太陽は昇らず。月の沈みし後は、ただ黒夜の広がるのみ。転じて王無き時代を墨節と呼ぶ。
甘叙、諡号を乖王。その在位は二百二十九年。額に天通紋を頂く、青天の王であった。
良く地を治め、民を慈しむ賢帝と謳われた甘叙も、王朝末期は圧政を敷き民を苦しめた。
太甘三十七年十月二十一日。
陶国国王、甘叙崩御。
その日、終に太陽は昇らなかった。
黒夜の始まりである。
圧政からの開放を告げる黒夜の到来に、歓喜の叫びが、陶国を揺らした。
乖墨五年。未だ新王登極せず。
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