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3話

僕は大きなモニターを見ていた。

手元に名刺ぐらいの大きさの紙を持っている。

モニターには馬に乗った人が、パドックを歩いていた。

地方競馬場の様子がモニターで見ることができ、競馬場以外で馬券が買える場外勝馬投票権発売所に来ていた。

ギャンブルをするためだ。いや、それが目的では無い。目的はセレナが言った、ギャンブルで大勝させてあげるという言葉により、お金をたくさん得るために来たのだ。いつもそう思って馬券を買ってはゴミ箱に投げ入れるだけの日々とは今日でおさらばできると信じる。

セレナは僕の隣で会場の自動販売機で買ったアイスクリームを舐めていた。右手に1本、左手に4本持ち、それぞれ味を楽しんでいた。左手にアイス4本持っている様子はアイドルなんかのライブのときに持つサイリウムという光る棒を持つオタクを思い出す。僕はバルログ持ちなんかよくするが、アイスのバルログ持ちなんか初めて見たぞ。

そんなセレナと目が合った。楽しそうに笑みを浮かべられる。僕は目を反らした。

こいつといると目立つ。一人だと何の気なしにあるける場所でも女性連れだと余計に視線を集める。まして見た目のいい女性なら尚更だ。セレナを見てから僕を見て「なんであんな奴と」と聞こえるように言って来た奴が3人はいた。悔しかったら雨の日の公園に行ってみろとしか言えないね。

セレナと一緒に歩いていると、鼻が高くなって良い気持ちが半分、視線のうっとうしさが半分感じるようになった。

「アイス一本ちょうだい」

そう言って4本刺さっているアイスのうち小指と薬指の間に挟んであるチョコチップクッキーのアイスクリームを引ったくった。

「ダメ。あーっ、それあとで食べようと思ってたのに」

非難がましい声が上がる。

「僕がこのあと大金を手に入れられたなら、もっと美味しいアイスを買ってやろう」

「本当? じゃあ1本だけあげる。その変わり美味しいのじゃないと許さない」

「さんきゅ。あと、さっき買ったばかりの服にストロベリーが付いてる」

「えっ、うそ。やだ、早く言いなさいよ」

ホワイトジーンズに白いノースリーブのパーカー、白いスポーツシューズというラフな格好でいるセレナだったが不思議と様になっていた。スタイルが良い。それだけでこれだけ服を着こなすのは卑怯だ。反対に農耕民族の僕はどんな洋服を着ても着られている感が出た。ズボンのサイズが合わなくて、ついには服に謝れとアパレルショップの女店員に言われたことがあった。冗談めかして言われたその言葉が僕をどれだけ傷付けたことか。

会場の雰囲気がピリッと引き締まった。

レースが始まる。雑談が無くなり、しんと静まり返った。

胸の動悸が聞こえてきそうだった。手にした馬券はこれマジで当たったらとんでもない事になるぞと期待するしかないような馬券。セレナが番号を指定して買った3連単。ちなみに1万円ぶっこんだ。

熱い体を冷ますようにアイスを食った。セレナの食べかけだとかこれっぽっちも意識してない。ちょっと普段より美味しい気がするのも気のせいだ。胸の高鳴りと罪悪感がすごい。

レースが始まり、ドタドタと馬の足音が聞こえてくる。ちなみにこれは合成音らしい。

1万円と引き換えた紙きれを見る。

1番から始まり、12番、14番と続いている。

いや、ねーわ。これはねーわ。こんなの入ったら万馬券どころか10万馬券だわ。そう思うも期待してレースを見ていた。

すごい人気の馬が1番のゼッケンを背負って悠々と先頭を走っていた。その後ろに12番14番は続かない。すごい後ろのほうを走っていた。

もしかしたら勝つかも?から、僕の1万円泡に消えちゃうだろ、やめてくれに心象が変わって来た。

セレナが袖をくいっと引っ張った。

それを合図にしたように12番と14番が集団から抜けて来た。

魔法を見ているようだった。

1番が伸び伸びと走る少し後ろに12番と14番が集団先頭で最後の直線を走っている。

会場がとんでもない声量の野次と非難と差せという声に溢れた。びっくりしたセレナが身をすくめたが「差せー」と声を張って応援し出した。

僕は出てくる手汗で馬券を濡らさないか心配だった。

見守るのも束の間で、すぐにモニターはただいまのレースの結果という画面になった。

画面に、僕が買った番号が表示された。

3連単が当たった。

僕は興奮のあまりセレナを抱きしめた。

「これリアル?まじで?なんで?」

そう言いながらセレナの細い腰を抱き寄せる。

「だから言ったでしょ、勝たせてあげるって。信じてくれる?異世界があるって」

「ああ、信じる。そうか10万馬券に勝っただけじゃないんだ。異世界に行けるんだ。あ、お金ムダになっちまうな。ははっ」

「そういうこと。今日得たお金は何らかの形でこっちの世界に反映させるから安心して」

目の前の神々しい少女に言った。

「天使かよ」

少女はいたずらっぽく言う。

「いいえ、神様です」


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