帰省
夏季休暇最終日、1年振りに実家へ帰省した。
「相変わらず変わらないなぁ...ここは。」
斜陽の差すその日本家屋は、青々と茂った葉を身に纏い寛大な面持ちで1年越しの来客を迎え入れた。
「ただいま。」
設置の悪い扉を開け、声を上げる。返事は無い、いつもの事だが。玄関に置かれた家具達はくすんだ色をしており、そこに住む者達と時を過ごしてきた事が伺える。目の前には居間があり、畳の青臭さに混じって線香の香りがする。その奥、部屋の奥の方に懐かしい背中が見える。使い古された水色のポロシャツを着た父の姿は前に見た時より小さく見えた。
「そっちはどうなんだ、元気でやっているのか?」
「まあ、ぼちぼちって所。そっちは?」
「こっちはお陰様で元気だよ。」
他愛の無い会話が続く。ふと庭を望むと夏の勢いを吸ったであろう向日葵が傾いた太陽の方を誇る様に向いている。生気を失ったこの家とは対照的に感じられた。
「何か用意するか。」
食べてきたから大丈夫という声を無視し、隣の台所から枝豆とビール、コップ二つを取ってきた。その一つにビールを注ぎ、私の前に置いた。元々少なかった二人の口数は目の前の物を片すのでさらに減っていた。
泡が無くなったビールの入ったコップを持っていきながら父が
「そろそろ帰る頃か。」
時計を確認する。確かにそろそろ帰らないと不味い。
「送り火、準備するか。」
太陽が辛うじて顔を出す頃、父の準備は終わった。
「またくるよ、1年後。」
ぼんやりとした炎の中に父の顔だけが浮かぶ。
夏季休暇が終わった。