英雄
色んな人々が、今でも俺の所へやってくる。どいつもこいつも、俺を苛立たせるプロフェッショナルだった。だけど仕方ない。彼らに、彼らの望むような理想の物語を聞かせて生きていくのが俺の使命だ。そう、皆俺の話を待っていた。俺自身ではなく、俺の語る英雄譚を。俺の親父が、嘗て歩いたその人生を。俺にこれっぽちの興味さえない奴でさえ、俺の親父の話をすれば飛んでくる。俺はそいつらが大嫌いだった。
親父の顔は覚えている。家庭にいる時間は僅かで、幼い日の大部分を母親と過ごした。厳格な父親ではなかった。帰ってくるたびに俺を抱き上げ、幸福そうに笑っていた。何をしているかは、子供なりに察しがついていた。俺の学校の教師や親族、近所の大人たちまで皆が皆、親父を褒め称え、尊敬していた。自然と俺も、その息子として心地の良い立場へと収まっていた。
そんな親父は、俺が16の時に死んだ。死体は家に届かなかった。目立った葬式すら行われなかった。ただ、二度と帰ってくることがない。その事実だけが端的に突きつけられた。母親は泣いていた。俺は無理にでも泣いた。それまで一度も泣くことがなかった俺が、泣かなければいけないタイミングが来たからだ。これで、親父の死は美しく飾られた。俺は、悲しくもなく、嬉しくもなかった。ただ決められた仕事の様に、親父を悼んでいた。
それからしばらくして、母親も後を追った。その時にはもう、俺は立派な仕事を手に入れていた。英雄の息子という肩書は、どこにいても俺を支えていた。そして、俺を縛り付けていた。俺は、どれほどの時間を経ても彼の息子だった。抵抗しても無駄だということはずっと昔に分かっていた。彼は英雄で、俺はその息子だ。それに相応しい立ち回り方をするだけで、俺はそれなりに幸福に生きていけた。その立ち位置を、捨てる覚悟はできなかった。
俺の話を望む奴は幾らでもいる。彼らが欲しいのは、俺の言葉じゃない。俺の口から出た、『彼』の美しい物語だ。嘘っぱちだろうと何だろうと、俺にはそれを語り続ける義務があった。寂しさも、虚しさも語るわけにはいかなかった。常に価値の高い『彼』を演出する小道具としてしか、俺が何かを語る資格はなかった。だから俺は、まだ自分の人生を語る言葉を見つけられない。
どんな話をしようと、彼らは簡単に捻じ曲げる。より美しく、より洗練された言葉へと。それは、皆が望んでいることだ。俺にも求められ続けるのだ。美しい英雄の物語が。




