入学試験
ある人は喜びに浮かび、ある人は悲嘆に暮れる。十人十色の次の未来と、それぞれの反応。それらに少しばかり疲れながら、僕は自分の番を待っていた。正直、どうなったっていいという投げやりな感情が僕の中にはあったと思う。それは、今一つ記憶の薄い前世から受け継がれた性質なのか、それとも僕が、彼らを見過ぎて疲れてしまったからだろうか。僕は、次の未来への興味をとことんまで削がれていた。
ここで出会った多くの人――正確には人ではなかった何かの方が遥かに多いが――は、『人間』として生きることを欲していた。自由に、充分な時間を堪能できる、身勝手で美しい種族。だから、僕が微かに残る前世の記憶、『人間』としての記憶をうっすらとでも語ってやれば彼らは喜び、その先にある享楽に思いを馳せるのだ。僕は、期待を抱く彼らを冷めさせるような言動は慎んだ。それは、下手をすれば彼らの次の生涯に大きな傷を残すかもしれないからだ。そして、彼らなら僕より上手に、『人間』を生きられるのではないかという期待もあった。
だから、僕は『人間』に生まれることなど望んでいない。僕は下手なプレイヤーだったから。『人間』という恵まれた環境から、ロクでもない、誰の役にも立つことなく貴重な生涯を費やしたのだから。恐らく、神様の中での僕の株は大きく下がったことだろう。そして僕は、もう来世に期待することさえ飽きていた。だから、この生まれ変わりの入学試験でも無表情のまま待ち続けている。周囲の彼らが、一喜一憂するのに心を痛めながら。
僕の番が来て、如何にも崇高そうな光の前に僕は立たされる。穏やかな声色で、語りかける声に僕は耳を疑った。それは確かに、『人間』と囁いていた。僕にもう一度、人として生きろと告げていた。そして、その声はこう続けた。
「君の疲れた魂には、他のどんな種よりもこれが適している。彼らは増えすぎ、発達し過ぎた。これからは、君の様な魂を人間社会に送り込み、緩やかに衰退させなければならない。多くの魂が活気に満ち溢れてしまう故、これを選び出すのが中々難しいのだ。君には期待しているよ」
バカにされたような、期待されたような、妙な気持ちのまま僕は次のドアに立たされた。『人間』で生涯を送ることになるのが、とてつもなく面倒だった。直に、この感情も忘れていく。僕はただ、新たな体の奥底に宿り、この腐りかけの心髄を遺さなければならない。それが、僕に課せられた使命らしい。神様と言うのは、何とも身勝手だ。僕は、最後にそう思い、意識を消した。
新たな体が、僕を待っている。