初雪
今年の冬はどこに行こうか。そうやってよく話していた。あの日々はもう、戻っては来ない。壊れた、壊した、失った。私の所為で。珍しく意見があったのに、珍しく綿密な計画を立てることができていたのに。私が壊した。私が、あの優しくて暖かい日々と、それに連なって続くはずだった未来を壊した。
新居に移って二ヶ月が経つけれど、あの人が家のどこかにいるんじゃないかと今でも感じてしまう。一人分の安っぽい食事を作る時や、ドライヤーで思いっきり風を感じている時。夜遅く、何をするでもなく時間を潰した無駄の後で、眠りにつく時。忘れかけていた痛みが、生々しい鋭さで私を傷つける。
熱い紅茶も、僅かな甘味も、私を癒し続けることはできなかった。いつまでも、この痛みは体のどこかに残り続ける。私が私であり続ける限り、きっと。今更拳を握っても、あの時涙を流さなかったことを後悔しても、過去は変えられない。私がどれほど願っているか知ったとしても、神様は少しも優しさなんて分けてくれない。
寒さが強まる新年も、私は一人だった。穏やかに、落ち着いた生活を夢見てはいた。だけど、こんなのは私の理想じゃない。私の思い描いた未来じゃない。何度諦めようとしても、私は過去に描いていた幻想から逃れることはできない。現実なんて見ていたくない。もう、理想を描くことさえ許されなくなったのだから。
罪の意識と、被害者根性。どう足掻いても美化できない薄汚れた私が、確かに私だ。この弱さの塊のような人間が、私だ。詰まらないし、綺麗でもない。どうしてこうなったのかなんて知らない。だけど、私だってこんな風になりたかったわけじゃない。誰の所為でもないはずなのに、誰かの所為にしたくてたまらない。もうこのまま、消えて無くなってしまえばいい。
窓の外で微かに舞う、儚い白粉を私は見つめた。無遠慮に世界を照らす、暴力的な灯りの前でも、それは綺麗だった。そして、地面に堕ちると同時にアスファルトの黒に掻き消されていった。綺麗だから消えていくのか、消えていくから綺麗なのか。私には分からない。私も白いままで消えていくことができたなら。儚さと美しさを失う前に無くなっていけたなら。
もうできない。私にあんな消え方は残されてなどいない。泥に汚れて、無様に生にしがみついて、最後は誰からも疎まれて消えていくのだろう。それは、とても私らしい。とても。
カーテンを乱暴に引っ張り、私は外の幻想的な景色を切り離した。それは私を傷つけて止まないから。それは、私を決して慰めなどしてくれないから。