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危険な賭けの結果

 ファインデイの遊撃の結果、チューンドに対応するバニッシャーの数は減少した。これを好機と捉えた波動生命たちは、各地で一斉に行動を起こし始める。


「負け戦では被害を抑え、勝てる時には最大限の戦果を得る。今は、勢いに任せて暴れる時だ」


 煩わしいネイキッド・バニッシャーに悩まされていた同胞達に、ボスは号令をかける。動けるチューンドを総動員した、人間に対する一大攻勢を。


 ビル街の一角、開けた場所で複数体のチューンドとバニッシャーの混成部隊が交戦している。

 部隊員やドローンが放つ波動弾、火力重視型チューンドの衝撃波が飛び交い、バニッシャーと高機動型チューンドが火花を上げてぶつかり合う。


「この機にぶっ潰してやるぞ、人間ッ!」

「こちらのセリフだ、波動生命。ここでまとめて殲滅してやる」


 バニッシャー達が身につける強化装備は、普通の人間にチューンドと戦えるだけの力を与える。被害が大きくなるため格闘戦は推奨されていないが、戦力不足のため彼らも前に出ざるを得ない。

 AIのサポートを受けても、チューンドと人間には大きな反応速度の差がある。その差を埋めるのが、元チューンドであるネイキッド・バニッシャー達だ。


 彼らは人の姿を取り戻すため、デチューンに相当する処置を受けた。『ソロ』が操る現役のチューンドと比較すればパワーに劣るが、アキラと同様にスピードを活かしてバニッシャーを援護できる。


 乱戦の中、一人のネイキッド・バニッシャーが倒れこむ。仲間をかばう為、無理をして攻撃に割り込み体勢を崩したのだ。


「判断ミスをしたな。これで退場だ!」


 厄介ではあるが脆い敵、ここで戦闘不能にと波動生命は追撃を仕掛ける。

 そこに横合いから乱入する一つの影。もう一人のネイキッド・バニッシャーが、チューンドに攻性波動を叩き込み追撃を妨害した。


「大丈夫か?」

「すまん、助かった! ……お前、アキラじゃないか!? 出てくるなって言われてたんじゃ」

「話は後だ。下がるぞ」


 手を取り起き上がらせた彼と共に、アキラはその場から飛び退く。

 攻性波動で動きを封じられたチューンドへ、彼らの退避を確認した後衛から波動弾の集中砲火がかけられた。対処不能な量の波動を撃ち込まれた波動生命は、肉体の放棄を選択する。


「悪い、やられた」

「バカ野郎、応援呼んで来い!」


 それは周辺で戦う仲間の肉体を伝い、撤退していった。拮抗していた戦況が、一体のチューンドが離脱した事により、人類側へ傾き始める。

 アキラも、体勢を立て直したネイキッド・バニッシャーと共に戦線へ加わる。


「で、何でこっちに来れたんだ?」

「奴を、どうにかする算段がついたんだよ」


 頭数の減ったチューンドへ、彼らは同時に攻撃を加える。

 力任せな傾向はあるが、同じ手が何度も通用する程波動生命は愚かでは無い。足を止めてしまった仲間を援護するため、後衛に向けて衝撃波を放つ。前衛も互いに援護し合えるよう、距離を詰め始めた。


「アレをどうにか出来るってのか……」


 彼は、襲撃を受けて負傷した同僚を思い浮かべる。幸運な事に、彼自身はファインデイと直接交戦していない。しかし、仲間が受けたダメージからその恐ろしさは容易に想像できた。


「大分、無茶する事になるけどな。オマワリが考えてくれた」


 実際は二人とも決死の覚悟が必要な作戦だが、そんな事を言う訳にはいかない。

 また、そもそもファインデイを引きずり出せなければ、作戦の意味が無い。ここに現れる応援は奴かどうか。もし出てこなければ、このまま押し返して別の戦場へ移るだけだ。


 アキラがそう考えていた所で、辺りにエンジン音が響く。

 圧倒的な力で刻み付けられた、奴の音。ファインデイが来ない等という考えは、杞憂に過ぎなかった。


 接近してくるそれの姿を探して、彼は周囲を見回す。方向は特定できたが、位置がおかしい。


(上か!?)


 ビルの壁面を走り、飛び移りながら向かってくるバイク・チューンド。大きく跳躍し、バニッシャー達を飛び越しながら衝撃波を撃ち下ろす。


 威力を絞った連射の大多数は外れ、命中したものも大きなダメージにはならない。ギリギリのタイミングで防御が間に合ったからだ。

 しかし、ファインデイの目的は達成された。バニッシャー達に攻撃を防がせて、チューンド達に体勢を立て直す時間を与えられたのだ。


「待たせたな、諸君!」


 仲間を鼓舞するためか、敵への示威のつもりか。着地したファインデイは自身の存在をアピールする。


「そして……」


 急加速をかけ、アキラの元へ突撃。

 その行動を予想していた彼は、巴投げのような形でバイク・チューンドの突進を逸らす。


「数日ぶりだが、会いたかったぞ。アキラ」


 マフラーからの衝撃波、キックを兼ねた跳躍。互いの武器で背後からの敵を迎撃し、彼らは再度接近し合う。


「お前がおしゃべりなせいで、こっちは出たくても出られなかったんだよ」

「それは悪かったな」


 避けられた突きが地面を抉る。回避のついでにアキラが打ち込んだ打撃は、何の痛痒も感じないといった様子だ。


「だが、こうして出て来れたという事は」

「よく分かってんじゃねぇか」


 僅かなやり取りが、パワー、タフネスの差を強く示す。


「俺が! お前を! 倒せるって事だよ!」


 アキラは、流れるような三連撃を、言葉と共に叩き込んだ。能力差は大きいが、これに勝たねば未来は無い。自身を奮い立たせるために、彼は腹の底から叫ぶ。


「……興味深い」


 動きを止めたバイク・チューンド。その隙を見逃さず、後衛から波動弾の斉射が行われた。


「一体、どうするつもりだ?」


 最低限の、自身に当たる弾のみを撃ち落として、ファインデイは問う。


「以前と比べて、何一つ違いは無い様に見える。どんな策を用意した?」

「……お前は、決闘って好きか?」

「何?」


 反撃の衝撃波を放ちながら、予想もしない返答にファインデイは聞き返す。


「もう一度、一対一でやり合わないかと言ってるんだ」

「私がそれに、乗ると思うのか」


 彼以外のチューンドが、アキラに接近戦を仕掛けてきた。だが、彼もバニッシャーとしてはトップクラスの能力を持っている。そう簡単に倒す事は出来ない。


「そういうの、好きだろ?」

「……良いだろう。その誘い、乗った!」


 短い時間に、戦況は再びほぼ拮抗した。チューンドの増援もあと少しで到着する。多少早くファインデイがこの場を離れても、問題は無い。

 返事と同時に加速するバイク・チューンド。アキラもその後を追って走り出す。


「二人きりで踊ろうか、なんてな」

「ハハハ、この言葉を返そう。よく分かっている」

「どういう趣味してんだ!」

「趣味というよりも、美学だ」


 交戦する2つの集団から離れた彼らは、移動しながら戦闘を再開した。


「それがあるから、私は強くなれた。アキラ、君もそうだろう?」

「ねぇよ、そんな物」


 強大な相手との戦いの日々。何かにこだわる余裕なんて、無かった。


「ならば意地でも、何でも良い! 譲れない何かと、それへの執着。絶対にあるはずだ」


 それが、波動生命が二派に分かれて争う原因の一つでもある、とファインデイは考えている。彼が知る限り、強力な『ソロ』は何かしらそういう物を持っていた。アキラにも、彼らに劣らぬ何かがある。


「それを思い切り、ぶつけ合おうじゃないか。もし本当に無いならば、今度こそ君と言う存在は、消える」

「簡単に、出来ると思うなぁっ!」




――――




 前傾姿勢で市街地を走行するバイク・チューンド。周囲に人間の姿はない。相対するネイキッド・バニッシャーは、その跳躍力を活かして高所に位置取る。その理由は、二つ。


 初戦でも使用した、稲妻のような軌道を描く飛び蹴り。周囲に壁、柱、蹴る事が出来る物を利用して再び放つ。


「何度も、同じ手は食わんぞ!」


 バイク・チューンドはそれを腕で受け、反動を使ってスピンしアキラを弾き飛ばす。反撃を予期していた彼は、足から着地し再度跳躍する。

 理由の一つ、脚力を利用した攻撃ならば多少は通用する。飛び蹴り自体は予備動作が大きいため、まず当たらない。だが、そこから別の攻撃へ派生させる事はできる。


「攻め手が足りないのは、お互い様だろうが!」


 追撃に放たれた衝撃波を、アキラは空中で軌道を変えて避ける。靴底に仕込まれた発生器を応用し、大気を蹴っているのだ。


 もう一つの理由は、バイク・チューンドは跳躍力に劣るという事。

 機動力を足のタイヤに依存するそれの脚部は、跳躍に向いていない。普通の人間と比べれば速く、高く跳ぶ事は出来るが、垂直方向の機動力はアキラに劣る。

 上下方向に移動していれば、バイク・チューンドの有効な攻撃手段を、衝撃波に限定できるのだ。後は三箇所の発射口の向きに注意していれば、回避は容易い。


 アキラは戦闘前の事を回想する。出来れば自分の手でバイク・チューンドを打倒したい。何か弱点は無いかとオマワリに質問をした時の事を。跳躍力と火力の不足に加えて、もう一つ。


「マフラー? 首についたアレか?」

「ああ、狙うならあの部位だ」


 バイク・チューンドのもう一対の長く強力な腕であり、ほぼ全方位に向けられる衝撃波の発射口でもあるマフラー。それを弱点だと言われても、アキラにはピンと来ない。


「奴に一泡吹かせられた時の事を、思い出して欲しい」


 バイク・チューンドの喉元に波動を打ち込めた時、その直前にアキラはマフラーへ攻撃していた。

 強力な発振、増幅器官も兼ねているであろう部位。ここに攻性波動を打ち込まれ、ファインデイは大きな隙を見せた。波動を打ち消す事も出来たはずだが、そうはならなかった。何故か。


「あくまでも推測だが、マフラーに複数の機能を同時に使わせることは出来ないのだろう」


 腕として使用しているマフラーは波動を発生させられず、用途の切り替えには多少の時間がかかる。胸部まで攻性波動が伝わってしまえば、トランペット・チューンドが撃破された時の二の舞だ。

 この理由はオマワリの推測でしかない。だが、ファインデイが腕として使用しているマフラーへ、高出力の攻性波動を食らい大きな隙が出来たのは事実だ。


「腕として使用しているマフラーに攻性波動を打ち込む。難しいが、これ以外に大きな弱点は心当たりが無い」


(何でもいい、奴のマフラーを腕として使わせられれば……)


 アキラは再び、壁や柱を蹴って加速し始める。これを飛び蹴りの予備動作と見たファインデイは、当然いつでも防御できるよう身構えた。()()()()()()


 移動のリズムから攻撃のタイミングを読んだファインデイは、再び腕で受けようとした。アキラが同じ事をしていたならば、確実に防御できたであろうタイミング。


 そうして構えた腕に、蹴りの衝撃が来ない。


 何が起こったかは分からないが、何かを見逃していた。咄嗟に身を捻ったバイク・チューンドの脇腹を、蹴りが掠める。


 緊急回避を優先した結果バランスを崩し、派手に転倒するそれを尻目に着地するアキラ。彼は命中の直前、相手の腕に足を掛けて蹴る足を入れ替えようとしたのだ。もし当たっていれば、有効打になり得たかもしれない一撃。


 沿道の建物へ突っ込んだバイク・チューンドは、瓦礫を散弾のように弾き飛ばしながら再び立ち上がった。

 自身へ向けて飛ぶ飛礫を打ち落とし追撃が遅れたアキラの元へ、路上から引き抜かれた道路標識が投げつけられる。


(これは、チャンスか?)


 地に伏せてそれをかわした彼に、ファインデイは相手は周囲にある物を、衝撃波を混ぜながら投げ始めた。攻撃が激化して接近するのは辛くなったが、これで弱点を狙うことが出来る。

 この機会を逃すまいと、バイク・チューンドへ接近するアキラ。迎え撃つファインデイは、掴んだ標識を鈍器のように振り回す。


 大きな横凪ぎの一撃。

 波動を纏った手の片方で、マフラー部分を思いきり叩く。跳び箱のような要領で、アキラは攻撃と回避を一動作で済ませた。


 もう一本のマフラーによる突きも回避し、バイク・チューンドの首筋に掌打を打ち込もうとした瞬間。アキラの後方から衝撃波が放たれ、彼の足を撃ち抜いた。


「先の一撃は、ヒヤリとさせられたぞ。……もう少し、慎重に攻めるべきだったな」


 波動を纏った腕は、バイク・チューンドに掴まれてしまい動かせない。

 拘束から逃れるため、アキラは腕を基点に膝蹴りを放とうとする。だが、ファインデイがそんな事を許すはずが無かった。


 掴んだアキラを宙に投げ、タイヤの加速と全身のバネを使った、マフラーによる全力のバックナックルを打ち込む。

 街灯の支柱をへし折り、砲弾のように飛んだ彼の身体は、路上の電力設備に激突して停止した。


「なんとも、あっけない幕切れだ」


 僅かに寂しさを感じさせる、そんな声色で呟いたファインデイ。

 今度は横槍を入れられぬよう、タイヤを使って一気に距離を詰める。アキラもそれを黙って見ているつもりは無かったが……。


(くそっ! 動け、動いてくれ! 俺の手足!)


 ファインデイの一撃によって強い衝撃を受け、彼の体は意思に応えられない状態になっていた。ほんの少し時間があれば、再び動けるようになるかもしれない。だが、今の彼にそんな余裕は無い。


 ファインデイは腕部の装甲を剥がし、侵食用の波動をアキラへと流し込む。


「……居たのか。静かだから、別の誰かと交代したのかと思ったぞ」


 アキラの体内に居る波動生命、オマワリとファインデイによる主導権の奪い合いが始まった。


「お前の事は嫌いだが、今日は良い事聞かせてもらった。……譲れない何かと、それへの執着。ワタシもお前に出会って、それを得たぞ」


 貧弱なソロとは思えない抵抗の激しさ。一蹴できると考えていたファインデイは認識を改めた。しかし……


「この状況で時間を稼いで、一体何になる? 弱者を弄る趣味は無い。一気に勝負をつけてやる」

(確かに、ワタシの力では遅かれ早かれ押し切られるだろう。だが、ほんの少し時間を稼げれば、それで十分だ!)




――――




 バイク・チューンドと、一人のネイキッド・バニッシャーが戦う場所から遠く離れた、ビルの屋上。一人のパトバニッシャーが、自身の全長以上に長い砲身の波動砲を持ち、各戦場へ支援射撃を行っていた。 護衛のドローンが数機、彼の周囲を警戒している。


「ジョウ、オマワリから合図が来ました。座標の転送と波動の増幅を開始します」


 火器管制を担う『コーラス』の一人が、狙撃の準備を開始した。転送されてきたデータがディスプレイに反映され、それを元にジョウは狙いを定める。


(嫌な役回りだ……)


 仲間もろとも敵を撃つ。そういう作戦であり、撃たれる側の提案とはいえ、良い気分にはならない行為だ。


「増幅完了。いつでもいけます」


 砲の準備は完了した。狙いも既についている。あとは、引き金を引くだけ。


「……了解。ロングレンジ・ウェイブキャノン、発射」


 例え『ソロ』でも、直撃すればただでは済まない出力の波動砲弾。時間をかけて増幅されたそれが轟音と共に発射される。狙いは、アキラとバイク・チューンド。


 アキラの体内でオマワリと戦い、外界へ注意が向いていなかったファインデイは、これを回避できなかった。


「命中を確認した」

「了解、……次弾の準備にかかります」

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