番外『彼がオマワリと名乗るワケ』
『撤退、そして出動禁止』の、病院送りにされた時の話。
「なあオマワリ、何故ああなったんだ?」
ジョウがオマワリに問う。彼らの戦闘ログを見返していた時の事だ。
「短い付き合いでもないからなぁ。お前が熱くなるタイプなのは知ってるが、今回はちと異常だ」
「……ワタシが、ここに来る前はどこにいたか。名前の由来は何か。ジョウには以前、話した事があったはずだ」
「ああ。医者みたいな事をしているのに、何でオマワリなのか。いつだったか質問したな」
バニッシャーとなる前、オマワリは医療機関に所属していた。
小児科というには範囲が広い、未成年の波動生命被害者を治療する施設。
「確か、子どもが多い所だから童謡を元に名前をつけたんだったな。『いぬのおまわりさん』から単語を取って『オマワリ』」
「歌詞は知っているか?」
歌の中の迷子の子猫は、泣いてばかりでどこの誰なのかまるで分からない。
施設で出会った子供たちは、記憶を失い自分が誰なのかを忘れてしまった。容姿が変わってしまった為に、親も誰が我が子なのか分からない。
彼らの記憶は『コーラス』の手でも復元できなかった。いつまでも、彼らは『迷子』だ。
「ワタシは何人も、そんな人達を見てきた。あまりにも惨い行いを見て、『お前は人間じゃない』と思う。人間にもある事だろう?」
歌の中の『おまわりさん』と違い、彼は『迷子』と一緒に泣く事すら出来ない。名乗った頃は意味を持たなかった名前に、今は「彼らのために何かをしたい」という想いがある。
共通のハードウェアを持たないためか、波動生命の価値観は個体差が大きい。人に対してのスタンスで二つの勢力に分かれてはいるが、どちらも一枚岩では無いのだ。
「ワタシが初めて出会った時のアキラは、どんな状態だったと思う?」
「俺が聞いても良いのか? それ」
アキラ本人の目の前で、オマワリからそれを聞くのは気が引ける。ジョウは遠慮気味に言ったが、当のアキラはそれを大して気にしていない。気が引けるのならと、アキラ本人がそれを語った。
「確か、頭の中がごちゃごちゃになってて、意識はあるけど指一本ろくに動かせなくなってたはずだ。オマワリが治してくれなきゃ、病室から出られなかったと思う」
今も、オマワリがリミッターのオンオフをしなければ、アキラは力の加減が出来ず日常生活を送れない。
「ワタシは戦いが下手だ。今回もアキラを危険に晒してしまった」
力の無い声が、低く圧力のある物へ変わる。
「だが、ワタシは奴を、ファインデイを許せない。刺し違えてでも、殺す」
「……頼むからそんな事、言わないでくれよ」
彼らしからぬ弱々しい声で、アキラが割って入った。
「オマワリに死なれたら、俺は一体どうすりゃいいんだ? 病室に逆戻りは、嫌だ」
「他の誰かと組んでくれ、というのは無責任すぎるか」
勝手な事を言っているのは、オマワリ自身も十分に理解している。だが、これだけは譲れない。
「それでも頼む。ワタシの全てを賭けて、ファインデイと戦わせてくれ」




