撤退、そして出動禁止
両手に受けた衝撃波で、アキラは後方へ吹き飛ばされる。虚を突かれて受けたダメージに、彼は一瞬意識を手放し無防備に倒れた。
両手の発生器は、もはや使い物にならない状態だ。
まともなダメージを与える手段は無くなってしまったが、諦めるわけにはいかない。全身の痛みに歯を食いしばりながら、両肘で地面を打って彼は飛び起きた。
まだ最大の武器、脚は生きている。
倒せずとも、増援が来るまでの時間稼ぎくらいは何とか出来るはずだ。隙があれば、前回同様に蹴りを叩き込んでやる。
弱者の側で、ギリギリの戦いを続けてきた彼の闘志は、萎えない。
「その状態で、なお立ち上がるか」
バイク・チューンドの口が、歯を剥いて笑う。
肉体の状態とは反比例した、電流のようにビリビリと感じられる彼の戦意が、ファインデイにはたまらない。
「お前が、私と同じ波動生命だったなら。そうでなくとも、その肉体がチューンドとして万全の状態なら」
敬意を払うに相応しい敵と、より能力差の少ない状態で戦えたなら。詮無い事ではあるが、ファインデイはそんな「もしも」を考えずにはいられなかった。
「それに引き換え……」
バイク・チューンドはタイヤの急加速でアキラに肉薄し、首を掴み地面へ引き倒す。
「オマワリ、だったか。貴様には失望した」
先程までとは、一段温度の下がった声。
『コーラス』の思想はあまり理解できないが、自身をとことん力で打ちのめしたなら従っても構わない。ネイキッド・バニッシャーを彼らの使うチューンドと勘違いしたとき、ファインデイはそう考えていた。
半端に期待をした為に、落胆も大きい。
オマワリの波動からは一欠けらの戦意も感じられなかった。代わりにあるのは狼狽、あるいは後悔。
大きな口を叩いておきながら、この有り様か。落胆や怒りが、ファインデイの殺意を増幅した。
「無力を悔いて、ここで死ね」
ネイキッド・バニッシャーの様に、バイク・チューンドは手に波動を纏わせる。人間や電子機器を乗っ取る、自身の一部でもある波動。
背後でマフラーがかま首をもたげる。アキラの装備を剥がし、内部のオマワリを確実に殺すつもりだ。
「そんな事、させるかっ……」
この言葉に反応し、アキラは残った力を振り絞り拘束から逃れようとする。しかし、元々のパワーに差がある上に消耗が激しい今、相手を振りほどく事は出来ない。
「その通り、そうは問屋が卸さん」
乱入者の手による複数の波動弾が、バイク・チューンド目がけて飛来した。
馬乗りの姿勢からはすぐに跳躍が出来ない。ファインデイはアキラに向けていたマフラーで、地面を叩き宙へ跳ぶ。
空中では、自身に向けられた追撃弾までは回避しきれない。彼は波動を纏った腕でそれらを打ち落とした。
ネイキッド・バニッシャーと同じ装備に波動銃を持った人員、空中に浮かぶ攻撃型ドローン。増援としてこの場に現れたのは、それらを率いたジョウだ。
バイク・チューンドに回避、防御されようとも、彼らは射撃を続ける。
「狙いに構わず撃て! 奴に自由を与えるな!」
彼らに支給された発生器は、アキラのそれと全く同じ物だ。連射を前提とした場合は、痛いで済む程度の波動しか生成できない。
しかし、そんな波動弾でも数が揃えば厄介な物となる。出力が足りないとはいえ、当たれば僅かに注意を削がれ、行動も阻害されるのだ。防御もせずに無視をするという選択肢はない。
「この程度の弾幕、私には通用しないぞ!」
複数の銃から雨あられと放たれるが、避けられ、弾かれ、一つとして有効打となる弾は無い。
しかし、そんな挙動の隙を突いて、一発の波動弾がバイク・チューンドに迫る。他の物よりも強力な、出来れば避けたい一発だったが、ファインデイは防がざるを得なかった。
「だろうな。だから、俺がいる」
命中した一発は、ジョウの持つウェイブキャノンから放たれた物だ。
彼のアーマーに装備された発生器は出力が高く、防御の上からでもチューンドにダメージを与えられる。隊員たちの援護を受け、確実に波動生命を制圧するのがパトバニッシャーの役割だ。
足を止めてしまった自身に放たれる波動弾を迎撃しながら、ファインデイは考える。
このまま戦闘を継続する事は可能だ。勝利への筋道も思い浮かび、実際にそうなるのかにも興味はある。
しかし、アキラとの戦闘による消耗を考慮すると、敗北する可能性もゼロではない。ボスからの依頼を済ませていない今、リスクは避けるべきだ。
「ここは日を改めるか……。また会おう!」
二本のマフラーから放たれる衝撃波が舗装ごと地面を抉り、その粉塵に紛れてバイク・チューンドは姿を消した。
――――
戦闘不能寸前の状態だったアキラは、昏睡した被害者たちと共に病院へ搬送された。
人間の姿形を取り戻したとはいえ、彼も歴としたチューンドである。安静にしていれば、強化された治癒能力により短時間で回復できる。
一日で動き回れる程度に傷は治癒したが、全力での戦闘が可能になるまで、さらに数日が必要だ。
彼の装備もまた、装着者と同様に大きなダメージを受けていた。ブーツとグローブは交換、波動発生器にはオーバーホールが必要で、どんなに急いでも数日は使用出来ない。
一方、ファインデイのバイク・チューンドは大したダメージを受けておらず、治癒能力もアキラ以上だ。当日の内に全快し、アキラが戦えるようになるまでの間に依頼を遂行し始めた。
別のチューンドを囮にバニッシャーをおびき出し、奇襲をかける。バイク・チューンドの機動力とパワーは、無防備な彼らを確実に戦闘不能へ追い込んだ。
彼が数をこなす事を優先したため、再起不能になった者はいない。装備の破損や負傷をどうにか出来れば、彼らは戦線に復帰できる。
問題は、、彼らが抜けた穴を埋める人員がいないという事。ファインデイが野放しになっているため、さらにその穴が広がる可能性があるという事。そしてもう一つ。
「許可が下りるまで、アキラは出動禁止になった」
体が治り、修理、整備の終わった装備を受け取りに行ったアキラは、ジョウに自分が出動禁止になった事を知らされた。
現状、バイク・チューンドへの対処法は確立されていない。
これまでで唯一、あれを仕留める可能性があったのはジョウと交戦した時の状況。あの時と同様に、制圧射撃で動きを封じる事が出来れば、勝機はある。
しかし、現状奴は遊撃に徹していて、捕捉する手段が無い。唯一それを釣り出せる可能性があるのは、ファインデイが執着していたアキラだ。バイク・チューンドを倒す算段が整うまでは、戦闘に参加させられない。
また、ファインデイがアキラの身体を手に入れる事を望んでいた、という事も危険視されていた。
現状、ベースになる肉体とチューンドの性能に相関があるのかは不明だ。しかし、万が一にもバイク・チューンドが強化されたなら。現状でも手を焼く相手が対処不能になる可能性がある。
「誰か他のバニッシャーと動いても、ダメか?」
波動生命に対応する人手が足りていない現状、指をくわえて見ているなんて事は出来ない。
アキラは食い下がったが、バイク・チューンドへの対応が決まるまでは出せない、と否定されてしまった。
「奴を、ファインデイを倒す手段があれば、出撃は許可されるという事か」
「オマワリ、何か考えがあるのか?」
奴は、命に換えても倒す。
オマワリはファインデイを倒す手段を、敗北してから現在まで模索し続けていた。
ほぼ全ての能力が上のバイク・チューンドに、多少の武器を持って正面からぶつかってもまず勝てない。罠にかけようとしても、戦闘経験豊富なファインデイ相手では見抜かれる可能性がある。
ならば、奴がかからざるを得ない罠を仕掛ければ良い。
「ワタシは、奴を倒せるなら何だってする。アキラ、……付き合ってくれるか?」
「今更聞くか? あいつを倒せなきゃ、俺達に明日なんて無いんだ。……勝算は、あるんだよな?」
「ジョウに協力してもらう必要はあるが、まず負けることはない」
圧倒的な機動力を持ち、勘の良いファインデイが隙を見せざるを得ない瞬間。オマワリには一つだけ心当たりがある。
「奴は私を殺そうと、再びアキラに侵食をかけるだろう。ジョウ、出来る限り時間を稼ぐ。その瞬間を狙い、最大出力で波動を撃ち込んでくれ」




