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バイク・チューンドの猛攻

 先手必勝。速さで多くのチューンドと渡り合ってきたアキラは、地面を蹴って敵に接近する。スピードを乗せた、重い一撃を見舞うつもりだ。


 彼に一拍遅れて、ファインデイは足のタイヤを始動する。


 地面を抉るほどに力強い回転が、バイク・チューンドを瞬時に加速させて彼我の距離を縮めた。振り上げられた銀色の腕が、タイヤの生み出す速度と共にアキラへ迫る。


(まずい!)


 当たれば致命的と見た彼は、回避を選択した。自身に向けられた腕を打ち、強引に体勢を変える。敵の攻撃を凌いだアキラは、崩れた姿勢を立て直し距離を取る。再び突撃をかけるためだ。


 ファインデイは、アキラの意図を理解しそれに乗った。ついては離れ、二度三度と激突を繰り返すが、彼らは互いに有効打を与えられなかった。


(今までの奴らとは、違う)


 基本的に『ソロ』はパワーやスピードなど、チューンドの長所に頼る傾向が強い。付け入る隙は十分にあり、アキラ達はそれを利用し彼らを倒してきた。


 目の前の相手には、そういった力任せな部分がほぼ無い。手も足も出ないという程ではないが、やりにくい相手だ。


 彼らは一旦距離を取ったまま足を止め、互いの機を窺って睨み合う。


「身体能力も相当だが、勘もかなりの物だな。潰してしまうのが惜しい」

「潰す? ……貴様、何をするつもりだ」

「オマワリ、という名だったか。お前には死んでもらうぞ」


 バイク・チューンドから放たれる波動が、ファインデイの殺意をオマワリに伝える。


「脅しのつもりか?」

「違う。……これは、宣誓だ!」


 言い終えると同時に、バイク・チューンドがアキラに向けて加速した。

 彼らの装甲が擦れ合い、火花を上げる。


「持ち主であるお前を殺して、その身体を頂く」

「何だと!?」


 『ソロ』が人体を求めるのはいつもの事だが、「特定の人物」を狙うというのは前代未聞の出来事だ。

 オマワリは、ファインデイの動機が理解できない。わざわざ襲撃をかけてまで、肉体の奪取を企むのは何故か。


 後ろに跳んで突進を凌いだアキラに、バイク・チューンドは追撃を仕掛けた。


「私は、人類への攻撃が開始された頃から戦い続けていてね。いくつものチューンドを使ってきた」


 猛烈なラッシュをかけながら、ファインデイは穏やかな口調で語る。

 バイク・チューンドが放つピストンのような連打は、手数のみならず一撃の威力も侮れない。下手に受けてしまえば、次以降に対応出来ずジリ貧になってしまうだろう。


「昔は『素体なんてどれも変わらない、強さはチューニングの腕次第』と思っていたんだが、ものの良し悪しが分かるようになったと言うべきか。自分に合った良い肉体が欲しくなった」


 回避に専念し、避けきれない攻撃は向きを逸らして対応するアキラ。まるで雑談のようなファインデイの言葉に、反応する余裕はない。


「私の言いたいことは、分かるだろう?」

「ああ、よく理解できた。実に貴様達らしい考えだ」


 その考え方が大嫌いだから、オマワリはこうして彼の前にいる。


 彼の反応に向いた注意が、隙になったのか。アキラに反撃の機会が生まれた。バイク・チューンドが伸ばした腕を掴み、投げをかける。


 相手を地面に叩きつける感触が、無い。

 危険を察知したアキラは、即座に手を離し距離を取った。


 腕のようにマフラーを使い、体を支えていたバイク・チューンド。上下逆の姿勢から、マフラーを軸にした回し蹴りが放たれる。

 回避の判断が早かったため、アキラは直撃を受けずに済んだ。回転していた足のタイヤに、掠った部分の装甲を僅かに抉られただけだ。


 もし無防備な部分に当たれば、スーツごと肉を持っていかれただろう。タイヤで加速した蹴りを受ける可能性もあった。その威力を想像し、アキラは冷や汗を流す。




「まさか、これほど食い下がるとは。多数のチューンドを倒してきただけはある」

「……舐めやがって」


 しばらくの間、格闘を続けた彼らのダメージには差があった。


 アキラの装備は、避け切れなかった攻撃で所々に大きな傷がある。機能を損なう程ではないが、長時間の戦闘継続は厳しい状態だ。

 一方、バイク・チューンドに大きな損傷は見られない。アキラの攻撃も当たってはいたが、元チューンド故のパワー不足がダメージの差を生んだ。

 また、改造されているとはいえチューンドも生物である。治癒能力を持ち、僅かな傷なら彼らは短時間で治してしまう。


「応援の到着を待とう、無理をする事はない」


 身体能力は、明らかに相手の方が上。アキラの技術や経験で食らいついてはいるものの、このまま戦い続けても勝てないとオマワリは判断していた。

 興を削ぐような事をと、それを不快に感じたファインデイは、ある事を思いつく。


「野暮なお前に、やる気の出る話をしてやろう」


 トランペット・チューンドとの戦いを見て予想し、実際にアキラと交戦し確信した事。


「その身体、チューンをしたのは私だ」


 アキラは、体内に響くオマワリの波動がかつてない程に激しくなるのを感じ取った。速く、強くなっていくそれからは、普段の穏やかなリズムと共通点が見出せない。


「数え切れない程の身体を使ってきたので、いつの事かはまるで覚えていない。だが、他人の手による物とは思えないほど、能力のバランスが理想的だ。まず間違いない」


 体内の波動が爆発のようになると同時に、両手の発生器から攻性波動が放たれる。


「貴様ぁ!」

「オマワリ、無駄に波動を使うな!」


 挑発に効果があったと判断したファインデイが、再び距離を詰めてきた。

 ただでさえ相手の方が強いというのに、相棒が冷静さを失えば僅かな勝機も掴めない。


「君から、全てを奪った奴が目の前にいるんだぞ!」

「んな事ぁ言われんでも分かる! 頼むから、頭を冷やしてくれ。マジでやられちまう」


 両手に帯びた攻性波動も、当て所が悪ければ大した効果は望めない。どう当てるかをアキラは必死に考える。

 一方、彼らの様子から挑発が利き過ぎたと見るファインデイも、出力の高いそれを警戒する。致命傷にはならずとも、油断は出来ない。


 波動を無駄にしたくなければ、敵に掌を接触させられない。腕の使い方を制限された上、腕の装甲も心許ない今のアキラには、回避しか選択肢が無かった。


「捉えたぞ」


 普通に戦っても押される相手に、そんな状態が長続きする訳がない。バイク・チューンドのマフラーに指が生じ、腕のようにアキラの両手首を掴んだ。

 その口には強烈な衝撃波、増幅器から直接出力される特に強力なもの、が解放の瞬間を待っている。


(今だ!)


 アキラは掴まれた手首の拘束を外し、相手のマフラーを掴み返して攻性波動を流し込む。

 大したダメージにはならずとも、バイク・チューンドを怯ませるには十分な出力だ。そうして作った隙にもう片方の手を振りほどき、彼は相手の喉元へ波動を打ち込む。


 発射寸前の衝撃波が見当違いの方向へ暴発し、体勢を崩すバイク・チューンド。アキラは追撃をかけようとするが、ファインデイも多くの戦いを切り抜けてきた戦士だ。そうはいかない。


 脚に違和感を感じたアキラは、次の瞬間地面に叩きつけられた。

 マフラーがいつの間にか足元に行き、彼の足を掴んでいたのだ。一往復、二度の叩きつけを食らった彼は、街灯めがけて放り投げられる。


 半ば、殺すつもりの力でアキラを投げたファインデイ。相手はもはや戦えまいと判断して、ゆっくり彼に歩み寄る。


「その闘争心。やはりお前は素晴らしい」


 彼のその判断は、間違っていた。アキラは確かに大きなダメージを受けたが、それは生命維持に支障をきたすレベルではない。そして、そんなダメージで彼は止められない。


 彼はありったけの攻性波動をオマワリに準備させ、バイク・チューンドが近づくのを待った。相手が間合いに入った所で、両手にそれを纏い一気に接近する。


(装甲が、少しでも薄い場所。そこだ!)


 残った力を振り絞り、脇腹と首元を挟み込むように全力の掌打を打ち込もうとする。


「だが、無謀が過ぎるのは玉に瑕だったな」


 バイク・チューンドの背後に待ち構えていたマフラーが、彼の手に向けて衝撃波を放つ。

 攻性波動が防壁代わりになったものの、アキラの手は少なくないダメージを負った。また、衝撃波と相殺して、起死回生の波動は消滅してしまう。

 逆転のチャンスは、潰えた。

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