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戦闘終了、そして帰宅

 バニッシャー達の活動拠点は、基本的に警察署と併設されている。『ソロ』達が、チューンドによる破壊活動と同時に、窃盗や誘拐などを行うからだ。


 チューンドを倒し、被害者達の救助活動を済ませたアキラとオマワリが、バイクを押してガレージへ向かう。

 そんな彼らに声をかける者が一人。簡素なアキラの装備とは異なった、白地に黒の塗装がなされた強化装甲に身を包む、正規のバニッシャー。


「よっ、お疲れさん。また一体倒したそうじゃないか」

「ジョウさん、お疲れっす」


 パトバニッシャー、警察に所属する本来のチューンド鎮圧担当。

 アキラ達ネイキッド・バニッシャー本来の役割は、パトバニッシャーより先に現場へ向かい、『ソロ』達の破壊活動を妨害する事。ジョウ達が到着するまで時間を稼ぎ、操られた人々に攻性波動を打ち込んで数を減らす。

 彼がチューンドを倒すのは、それが出来る能力を持ち、一体倒す毎に報奨金が出るからだ。


「お前さん達にゃ楽させてもらってるよ。いつか借りを返さなきゃな」

「いやぁ、こっちも儲けさせてもらってますよ。元チューンドだと、就ける仕事が限られるんで……」

「話に割り込んで済まない」


 ジョウとアキラが言葉を交わし、オマワリが口を挟む。


「ネイキッド・バニッシャーの活躍を快く思うのなら、装備の改良を上申してはもらえないか? 常人の着用を想定した装備では、常にギリギリの戦いを強いられる」

「上申、ねぇ」


  アキラが身に付けているのは、バニッシャーの補助要員が使う簡易防御装備だ。チューンドとの交戦を想定した防御力はあるが、装着者がチューンド並みの運動能力を発揮する事を想定していない。

 戦闘をする度に、彼らの装備は大きなダメージを受けている。アキラの場合、酷使している脚部のそれは特に深刻だ。


 今日もこれから、アキラは装備のメンテナンスをメカニックに依頼する。波動発生器やグローブ、ボディアーマーはともかく、ブーツは廃棄して新品と交換した方が早い。


「一応俺からも言ってはみるが、どうなるかは分からんぞ」


 『ソロ』の改造を受け、チューンドから人間に戻れなかった者。そんな彼らの能力を有効利用するため、そして増加する波動生命の破壊活動に対応するために、『ネイキッド・バニッシャー』は生まれた。


 アキラのようにチューンドを倒せずとも、ネイキッド・バニッシャーならば足止めくらいは出来る。

 『ソロ』に対抗できる戦力を安く簡単に用意でき、取り回しが良いというのが彼らの利点だ。


 正規バニッシャーの装備を一部支給する、ネイキッド・バニッシャー用に装備の強度を上げる。オマワリの要望に応える手段は複数あるが、彼らの利点を損なう案は採用されないだろう。


「頼むから、無茶はせんでくれよ。ヤバイと思ったらこっちにお鉢を回してくれりゃ良い」


 そん時ゃこいつの腕を見せてやる。

 ジョウはそう言って、手に持った波動投射装置「ウェイブガン」を揺らした。


「奴らにやられちゃ仕事ができませんからね。いざって時はお願いします」

「装備の件も含めて、頼んだぞ」


 これからメカニックの下で装備を交換して、彼らはパトロールに復帰しなければならない。ジョウもこれから訓練に向かう。

 人間社会の秩序を守る、彼らの仕事に暇は無い。



――――



 今日の仕事を終わらせたアキラ達は、自宅へ向けてバイクを走らせた。

 彼らが住むのは、波動生命に身体を奪われた人間の中でも、特に重症だった者たちが共同生活を送る集合住宅だ。


 波動生命が脳へ干渉した事に起因する記憶の混乱。無遠慮な調整による容姿の変化、身体機能の異常。

 アキラは、治療や撃破の方法が確立されていない初期の被害者だった。姿こそ人間に戻ったが、全ての記憶を失ってしまい身体機能はチューンドだった頃のままだ。


 現在でも彼は、オマワリの手によるリミッターの設定が無ければまともな生活が送れない。

 通常、『コーラス』に属する波動生命は人間の提供するコンピュータ内に住み、人の体内に立ち入らない。同じく『コーラス』であるオマワリがアキラの中にいるのは、彼の介助をするためなのだ。


 アキラは駐車場にバイクを停め、バニッシャーとしての装備を外して家の玄関へ向かう。


「ただいま、誰かいるか?」

「おかえり、今日はいつもより早いね」


 アキラと同い年、といった外見の青年が彼を迎えた。


「おぉ、トオルか。今日は昼頃チューンドを一体倒したから、その後に装備を交換したんだよ。だから、終業時の装備交換は無しにして、警察署に向かわず直帰させてもらった」

「今日も! スゴいなぁアキラは……」


 トオルという名のこの青年とアキラは、病院でチューンド化の治療を受けていた頃に同じ病室だった。似たような境遇で、外見上の年齢も近い彼らに仲間意識が芽生えるのは、不思議な事ではない。そんな縁が元で、彼らは今も同じ屋根の下で暮らしている。


 彼らのように、同じ病室、同じ施設にいたという縁が元で親しく付き合う人々は多い。身元不明となり親類縁者も分からない彼らには、他に頼れる者がいないからだ。


「まぁ」「ワタシの手にかかれば、こんなものだ」

「そこは俺に言わせろよ、オマワリ」


 アキラは軽口をたたくつもりで返事をしたが、途中でオマワリに割り込まれてしまう。


「こういうジョークは、先に言った物勝ちだろう。……ワタシは、戦いの役に立てているか?」

「いきなり何だよ!」


 帰宅して気を緩めたところで、いきなり真面目な話をされた。アキラは戸惑うしかない。


「波動をこっちのタイミングに合わせて出すとか、装備の状態確認や周囲の状況把握。体を動かす以外、ほぼ全部オマワリがやってるだろ」


 今日、トランペット・チューンドに勝利できたのはオマワリの力による所が大きい。四方八方からの攻撃を把握し、適切な対応を指示したのは彼だ。


「今日の戦いも、直撃こそ受けていないが敗北と紙一重だ。これからもギリギリの戦いは続いていくだろう。……まだワタシに、出来る事があるのではないか。そう考えてしまった」

「下手に悩むと足元をすくわれちまいそうだ。程々にしといてくれ」

「……僕にも、もっとパワーが残っていたら。アキラと同じ事が出来たのかな」

「トオル、お前もか!」


 トオルはアキラと異なり、治療で身体を人間に近づけられている。まだ常人以上の能力は残っているが、『ソロ』のチューンドと戦うには足りない。『コーラス』達の介助が無くとも生活を送れるレベルだ。

 ここまで回復できれば、職業の選択肢は大きく広がる。


「何で今日に限って、どいつもこいつも妙な事を言い出すんだ」

「ぼくも、オマワリみたいに考えちゃったんだ。もしバニッシャーが出来たら、アキラが無茶する理由が減るかなって」


 ここの運営費は一応国から出ているが、独立採算であることを推奨されている。余裕のある今ならともかく、『ソロ』との戦いが不利になれば仲間達はどういう扱いをうけるか。

 アキラは、そうならないように日々体を張っていた。


「勘弁してくれよ。トオルが俺と同じ事やるなんて、心配でしょうがない」


 パワーがどうこうと言う以前に、トオルは性格が戦闘向きではない。軽症者の鎮圧くらいならともかく、チューンド相手の時間稼ぎは難しいだろうと、アキラは考えていた。


「適材適所ってやつだよ。俺もお前の仕事は出来ないんだから、今いる所で頑張ってくれ」


 力の加減ができないアキラとは違い、トオルは自力でその制御が出来ている。それを活かして仲間たちの社会復帰を支援する、彼の仕事。バニッシャーとは別の形で世の中に必要とされている、大切な仕事だ。


「そう、かなぁ」

「はい、この話終わり。今日の夕飯は何だ?」


 今日は戦闘があって疲れている。出来ればこういう話は、一息ついた後にして欲しい。


「今日はコロッケだよ」

「またかよ、この間やったばっかだろ」

「ヨーコちゃんが食べたいって言うから……」

「先に注文をつけておくか、帰り道で食事を買うべきだな」


 穏やかな日常。アキラにとって、何よりも大切なもの。



――――



 日が暮れて、家路につく人で溢れた駅前。トランペット・チューンドとバニッシャーの戦いを見ていた男が、缶コーヒー片手に時計を確認している。


「お待たせしました。あなたが、アメリカからの『助っ人』でしょうか?」


 スーツにカバン、髪型は七三分けのいかにもサラリーマンという外見の男が、彼に声をかけた。


「いかにも。……ボスの所へ案内してもらえるか。挨拶がしたい」

「ご案内します。どうぞこちらへ」


 雑踏の中へ、二人の姿は消えていった。

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