7話 初めての対人戦
初めての戦闘回です。
「じゃ、行ってくるからメイスとお留守番よろしくな。」
湊夜は「はい」と言ってメイルを送り出した。
この道場は村の警備も担当しているため、何かあったら解決しなければならない。今回、村の近くにある迷宮で、強い魔物が出たらしい。今回はその魔物を倒しに、わざわざ師匠が出た。
「久し振りに弟子達の戦いぶりを見なければな」ということらしい。
「じゃ、いつも通り二人で稽古しようか。」
「そうだな。」
いつも通り二人で稽古をした。先ずは訓練所300周。500周はもうしない。地獄だったらしい。
二人は難なく300周を終え、魔力操作のトレーニングを行う。約30分操り続ける。
「いつもはいろんな声が聞こえるのに、今日は何も聞こえないからすごく不思議…」
「そうだね、師匠の大きな声とかも聞こえないしね」
「おばさまもいないもんね。本当に二人っきりって感じだね」
メイスは少し顔を赤くして言った。湊夜は気付いていないが。
「う、うん。そうだね…」
(い、今二人っきりなんだ…こ、こんなに美人な人と…)
「ん?顔赤いよ?熱あるの?」
「い、いや、大丈夫!」
「そう…よかった…」
(うっ…やっぱり可愛い…)
湊夜はメイスのことが好きになっていた。1ヶ月間、いろんなことを教えて貰って。色んなことをして。いつの間にか好きになっていた。
「よ、よし!もっと鍛錬して黒に辿り着いて、旅をしてやる!」
「うん!ソウヤ、その意気だよ!」
(でも…旅に出たら…メイスに会えなくなっちゃうな…)
湊夜はそのことを気にしていた。彼にとって2番目に大事なことだ。好きな人と離れたくない…そんな想いだ。
(1回誘ってみる…?ま、無理だろうけど!はぁ…悲しい…)
なんか自暴自棄になり始めた湊夜。
「なんか考え事?」
「い、いえ!なんでもありません!」
(そんなこと考えてないで、特訓特訓!)
気持ちを入れ直し、魔力操作の練習をしようとした時。
「ん…?気配感知に引っかかった?」
「うん。私も引っかかった。」
気配感知とは、クローズ流の技の一つである。あたりの魔力を操作し、気配を感知する魔法である。魔力操作より難易度が上がる。二人は鍛錬のために常時展開している。
「この不穏な気配…害意があるわね。」
湊夜も無言で頷く。だんだん近づいてきている。
「どうする?」
「もし襲ってきたら、メイスは少し時間稼ぎを頼む。その間に減少魔法で相手のステータスを下げる。」
「了解したわ」
場に緊張感が漂う。気配はもう扉の近くまで来ていた。
「小っこい道場だ。そこのガキども、ここで一番強いやつを呼べ。」
「まずは貴方のお名前を教えてください。」
「ア゛ァ゛!?ガキが調子乗ってんじゃねえぞ。まあいい、俺の名前はトールだ」
「知らない方に、それも事前に連絡もなかった方に名前を聞くのは当然でしょう?トールさんですか、今日はどういったご用件で?」
「ふんっ。ガキじゃ話になんねえんだよ!さっさと呼んで来やがれ!」
「呼ぼうにも、うちの師匠は外出中です。後日来てください。」
「あ?使えねえガキだ。丁度いい。暇だから相手しろよ。」
「俺達が相手してイイっすか?旦那」
「あ?いいぜ、お前らがやっちまいな。」
ボスっぽいやつの後ろから、わらわらと人が出てきた。
「メイス。俺は援護する。メイスは前衛をよろしく頼むぞ!」
「分かってるわ!はあっ!魔力強化!!」
メイスの身体から黄色の魔力が溢れ出した。身体中に魔力が行き渡った後、彼女は敵の懐に入り、溝落に向かって殴る。
「グハァ」
「グベッ」
「オエッ」
「『汝に罰あり 憑依』」
「うっ…なんだこれは…体がすごく…重…い゛…」
「よし、俺も行くぜ!はあっ!魔力強化!おりゃっ!」
湊夜もメイスに負けじと相手をなぎ倒していく。しかし…
「くそっ…蟻のようにわらわらと湧いてきやがって!」
「ソウヤ!ここは先ず、二人でアレを打ちましょう!」
「分かった!今っ、そっち行くから!おらっ!」
メイスに向かうため、敵を薙ぎ払う。
「よし、いつでも行けるか?メイス」
「大丈夫よ。ソウヤ」
そう言って、二人は手を繋ぐ。こんな時でもドキッとしちゃう湊夜くんはもう末期かも。
「「『魔力合成!魔力連射!』」」
二人の魔力が辺りに爆ぜる。刹那、魔力が矢となり、相手を襲う。一人の魔力では量、威力がたせないと判断したメイスの作戦である。辺り一面には血が広がっていた。大体の奴がもう死体だ。
「ほう…俺の部下を全員倒すとはなぁ…中々効いたぜ?だが、おもしれえ!お前らをここで倒してやるよ!オラァッ」
「火球!?魔力障壁!」
(流石メイス、油断がない。だが、どうやって無詠唱を…そんな事考えてる暇はねえな)
「『汝に罰を 落識』」
「な、なんだ…体が動かねっくそっ」
「はあああ!」
メイスがトールに突っ込む。そして、見事に顔面に決まった。
「よし、今のうちに。『闇の精霊よ 何時に与えるは罰 落識』」
しっかりすべて言い切り、魔法を発動した。詠唱を省略はできるが、イマイチ威力がまだ出ない。なので、しっかりと詠唱することにより、本来の威力が出るわけだ。
「ぐっ…舐めんじゃ…ねえ…ぞ…うっ………」
落織は、相手の意識を刈り取ることができる。しかし、完璧に詠唱しないと完全に刈り取れない。ここは要練習だな。
「こいつらは道場破りかしら…?」
「多分そうだろ…それにしても、怖かった…人を殺すのは初めてだからな…」
「そう、ね…怖かった、わ…」
メイスはふらっと湊夜の方に倒れてきた。
「おい、大丈夫か?」
「気を抜いたら、力抜けちゃって…軽く魔力切れを起こしてるわ…少し、休ませて…?」
「ああ、いいぞ。」
少し声が裏返ってしまっていた。何せ、メイスは今、湊夜の肩に頭を乗っけている。メイスは、疲れているのか、少し潤んだ目で湊夜を見ている。やはり湊夜はドキッとしてしまった。
「ふふ…ソウヤとは息がぴったりだったなあ…やっぱり運命かなあ…」
「ん?何か言った?」
「え!?な、何でもないよー?」
「そうか、ならいいけど。」
何処ぞの鈍感難聴主人公だよ!と、ツッコまれそうな事を平気でいう湊夜さん。
メイスに意識を向けつつ、ほかのことを考えていた。初めての人殺し。湊夜は罪悪感に押し潰れそうだった。どんなにここが異世界でも、人殺しをすると、罪悪感で溢れた。
「ソウヤ、無理することは無かったんじゃない?あなた、今罪悪感で溢れてるでしょ?」
「どうして、分かったの?」
「これでも1ヶ月は一緒にいたのよ?何となく分かったわ」
「よく見てくれてるね。ありがとう。」
「あなたは私の友達でもあるんだからね、悩み相談くらい乗るわよ?」
「ホントにありがとう…凄く嬉しい…今の俺には、君がとても暖かく感じるよ…」
「え、えと…あの…あうぅ…」
かなりの時間とても甘い空気が流れていた。しかしここで甘い空気は終わるらしい。知ってる気配が近づいてきていた。
「そろそろ師匠が帰ってくるね…って寝てる!?お、おい起きてくれ!」
「ただい…ま…な、なんだいこれは!?私の孫娘がソウヤにとられた!?」
(そこなの…?)
前回の前書きに「毎日更新するつもり」みたいなこと書きましたが、8/3~8/6まで、予定が入ってしまったので、毎日は厳しいと思われます。なので、この期間は多くて2本になると思います。ご了承ください…。