第一話「連続殺人」
お父さんの首が飛んだ。目の前で。
男は父の髪を鷲づかみにして悲鳴も上げれない私の方を見る。
惨劇の後、男は言った。
「罪有り。」
断罪の天使が舞い降りる。
それは凶兆だろうか。それとも禍々しい吉兆であろうか。
「神」は人を殺すなと人間に告げ。神は人を罰する。いや、殺す。
「神」は正しかるか。それとも過ちはあるか。天道は是か非か。
「人」の身にそれは語れず。
欲望に溺れ、欲望を求め、偽善に浸る。
300人の奴隷を従えた現代人。そこに善はありか?なしか?
「善」とはいかなるや。「悪」とはいかなるや。
それは死に値するや。それとも生きるに値するや。
断罪の天使舞い降りる。
「人」ならざる「人」は今、死す。
また殺人事件がおこった。刃物での惨殺。刃物で心臓を一刺しで心臓を刺し貫いた後、
首を刎ね、家人にそれを見せ付ける。完全に狂った男の仕業だ。男は顔を隠そうともしないらしい。事件はもう五件もおこっている。それなのに男は捕まらない。警察の怠慢だとの声も大きくなっている。連日の報道。連日の言い訳。歪んだ社会とかそんな言い訳がメディアを通じて流される。俺は思う。メディアは事件を殊更誇張し、いつも善悪の善の立場に立って見せる。メディアが社会の味方と言うならば、何故どの事件でも、自首しろと訴えかけないのか。俺は偽善を感じる。ようは視聴率が稼ぎ、大衆に事件という名の娯楽を与える事が、きっと彼らの使命なんだろう。
模倣犯も数多く出ている。模倣犯のせいで3人が死亡。模倣犯は全員捕まっているが、肝心の事件の犯人は捕まっていない。
今の時代、誰の目にも触れず、凶行を繰り返す事が可能だろうか。まず、不可能だ。今と昔はきっと違う。過去よりも人類は進歩しているはずだ。人は皆そう言う。だが、犯罪の検挙率は下がるし、どれ程時がたっても同じような犯罪が繰り返される。科学は進歩しても人はきっと進歩も進化もしないだろう。
俺はそこまで考えて微笑を浮かべた。
「どうしたの?」
ガールフレンドの久保 彰子が俺の方を見た。
「いや、今回の事件を整理してたのさ。」
「今回の事件って?」
「例の連続殺人さ。」
彰子は一拍置いてから
「僚君て、推理マニアだもんね〜。」と言った。
「難事件だからね。推理マニアとしては食指が動くよ。だけど、確かに難事件だ。犯人に結びつく手がかりは現状限られるよ。犯行時間が夜から深夜。身長は170センチ前後。犯人の年齢は20〜25歳くらい。刃物の切り口から右利き。顔を見られているのに、まるで見つからない。例えば犯行時刻だけど、夜から深夜。これは、大抵の人間がその時間は空いてるから、データとしては無意味。170センチ前後の20代前半なんて幾らでもいる。右利きって日本人の大半は右利きだよ。犯行現場も東京が3件だけど、全部区が違う。残りの二つは広島と秋田。似顔絵が出回ってるし、ここまで騒がれれば警察も総力を振るうだろうに捕まっていない。ちょっと有り得ないんだよね。警察とかマスコミとかあざ笑うように犯行を繰り返してる。そうとしか思えない。」
彰子がちょっと困ったように首を捻る。
「うーん。」
「この性質から考えるに、犯人は自己顕示欲が強いんじゃないかとか、どこかに引きこもっているんじゃないかとも思えるけど、平然と犯行を繰り返す割りに、マスコミあての犯行声明や警察あての挑発もない。聡明なようにも見えるけど、それじゃあ犯行を隠す意図がないのが説明がつかない。」
「んんー頭良かったら、人殺しなんかしないと思うけどな?」
彰子は興味なさげに言った。
「それは置いとくとして、分かる事は。犯人は反社会的な存在で、捕まる事をなんとも考えていないにも関わらず、捕まっていない。はっきり言って無茶苦茶だ。普通の推理じゃ行き詰るよ。」
「あんまり考えないでいいんじゃないの?五人以上の目撃者による似顔絵でしょ?すぐに捕まるわよ。気にしなくていいんじゃない?」
彰子はあっけらかんとして言った。
「そのはずなんだけど・・・・・・・何か、引っかかるんだよね。」
「んんー私達に出来る事ってないじゃん。せいぜい見かけたら通報するとかさ。そんな事しか出来ないじゃん。」
彰子は話題を変えたいかのように言った。
「そうだね。俺が考えても仕方ないかあ。」
俺、景山 遼一は彰子の機嫌を取るようにそう言った。
その夜、六件目の事件が景山 遼一のすぐ側でおこった。