自動不売機
暑い。
今日は猛暑日だと天気予報で言っていた。
こんな炎天下の中かれこれ二時間近く水分を摂っていないのは俺ぐらいのものだろう。
けれども、行く道の両脇は一面畑だらけで、コンビニ一軒見当たらない。
ああ、喉が乾いた。
そんな俺に渡りに船と言うべきか、田舎道の道路の傍らにぽつんと立った自動販売機を発見した。
「イラッシャイマセ!」
近寄ると、自販機は女声で俺を迎えた。
そういえば声を出す自販機も最近は減ったなあ。
やはりうるさいから苦情が出たのだろうか。
「オ金ヲ入レテクダサイ」
「はいはい、わかってますよーっと」
財布を取り出し小銭を探すが、百円玉が見つからない。
「早クオ金ヲ入レテクダサイ」
「ん?」
今、早くとか言ったような……まあいいか。
こちらは喉が渇いて早く飲み物を飲みたいのだ。
仕方がなく千円札を投入した。
あまり札は崩したくないんだけどなあ。
「ボタンヲ押シテクダサイ」
自販機の指図を受け、ボタンを押した。
こんな暑い日には炭酸の清涼感が恋しい。
ここは迷わずコーラだろう。
そして、受け取り口を見たがコーラのボトルが見当たらない。
再び顔を上げ、ボタンを見るも売り切れの表示は点灯していない。
故障だろうか。
お釣りは……出ているな。
他の物なら出るだろうか。
「オ釣リヲ入レテクダサイ」
「ん?」
「オ釣リヲ入レテクダサイ」
「はあっ!?」
聞き間違えじゃない。
こいつお釣りを入れろっつったよ。
なんか絶対に入れちゃいけない予感がするんだけど。
しかし……こんなど田舎だ、この先いつまた水分が取れそうな場所があるか分からん。
喉の渇きは更に酷くなっている。
胡散臭いが入れてみるか。
「ボタンヲ押シテクダサイ」
他の商品を押してもやはり出ない。
とにかく俺は喉が渇いているんだ。
千円全部くれてやるから飲み物を寄越せ。
「はあっ、はあっ」
コインを連続投入し、ボタンを連打したが、飲み物は出なかった。
結局お釣りも本当に全部使ってしまった。
そんな俺の様子を悟ったかのようにこいつは言うのである。
「ゴ利用アリガトウゴザイマシタ!」
「ふざけんな! 金返せえええっ!」