世界のはしっこで食レポに挑戦してみた~黒毛和牛のサーロインステーキ~
肉は良い。
近所のスーパーで手に入るのは、牛・豚・鶏・馬・羊であるが、どれもそれぞれの良さがある。
豚バラはキムチの素ともやしで炒めれば、とても良いご飯の御供になるし、鶏はトマト料理との相性が抜群だと思う。
生で食べるなら、馬だろう。
外国人の中には馬愛故に全力拒否する方もいるだろうが、馬刺しは美味しい。
——と言うか、他の肉では食中毒を起す危険があるのだが。
羊は、独特の臭みがあるので、好みが分かれそうだ。
子羊の肉は、この臭みが少ないので、食べやすいと思う。
この前、子羊の肉をパックに付属していたハーブソルトとソテーしたら、中々に美味だった。
と、ここまで、肉について語ってきたが、私は何も魚が嫌いと言うわけではない。
美味しければ、何でも好きである。
まあ、食道楽という奴だ。
平日はコンビニの新作を漁り、休日の度に外食する為、残念ながら貯蓄は中々溜まってくれない。
美味しいものを食べることが、ストレス解消の手段の一つなので、他のところで何とかするしかなかろう。
ただ、胃腸が脆弱な為、食べ過ぎると胃もたれに苦しまなければいけないのが悲しい。
食べ続ける大変さもあるのだろうが、巷の大食い達がちょっとうらやましくも思える。
美味しければ何でも良い派な私であるが、何故か身体が魚よりも肉を欲している気がする。
思春期辺りは肉より魚派だったから、不思議なものだ。
さて、少しばかり前に、ちょっとした臨時収入があった。
休日に調子に乗れば、あっという間に無くなる額であるが、調子に乗るには十分な額である。
そして、私は調子に乗った。
その時、私は非常にお肉が食べたかった。
お肉なら何でも良いわけではなく、食い応えのある肉である。
諸事情で疲れていたので、お肉に癒してもらおうと思ったのだ。
自宅から車で数十分の場所に、お肉が食べたいときに行く店がある。
店名はあえて記さない。
ライバルが増えると困るのだ。
ただでさえ、席数が少ない上に、それなりに人気があるため、待ちたくないなら、開店直後かお昼過ぎに行くしかない。
ただ、昼しかやっていないお店の為、のんびりしすぎては危ないが。
このお店の通常メニューは、四つ。
良い肉を使用しているので、メニューが少ないにも拘らず、また来店したくなるのである。
因みに、お持ち帰りメニューもあるのだが、今は置いておこう。
そして、はっちゃけた私は、一番高い黒毛和牛のサーロインステーキを注文した。
値段は、三千六百円なり(ライス・スープ付)。
私の場合、ランチにこの値段は、臨時収入ではっちゃけ時か、誕生日ぐらいでないと無理だ。
だが、このお肉を食した時の幸福感は、お財布に対する罪悪感を凌駕する。
ステーキ、と言うと、鉄板の上でジュージューと音を立てているイメージがあるが、このステーキは白い皿の上にのってくる。
二百グラムのお肉は、一枚丸々で皿の上にあるのではなく、カットされているのだ。
お肉は、ファミレスで見るような、ぺらいものではない。
分厚いお肉は、ミディアムに焼かれ、カットされた断面が何とも素敵だ。
お肉の前には、粒状とペースト状のマスタードソース。
お肉の後ろには、ピクルス・ミニサラダ・フライドされたじゃがいもと人参。
なお、付け合わせは季節によって変わるそうだ。
ファミレスより迫力のあるお肉は、その分厚さに反し、あっさりと切り分けられる。
ごろっとしたお肉に、むふふとなりながらマスタードソースを擦り付ける。
口にいれれば、肉のうまみに頬が緩むのを止められない。
ごろっとしたお肉は、噛み応えがあるが、硬いわけではない。
霜降り程ではなくとも柔らかなお肉は、普通に噛み切れる。
そして、噛めば噛むほど、肉の脂肪が口の中に広がっていくのである。
お肉に擦りつけたマスタードソースが、良いアクセントだ。
このステーキ、二百グラムもあるので食い応えがある。
お肉ばかりを食べていると、残念ながら食べ飽きてくるのだが、ここで付け合わせのピクルスが良い仕事をする。
少し酢の利いたピクルスは、肉の脂に慣れ始めた口の中をリセットしてくれるのだ。
ピクルスを食した後には、また新たな気持ちでお肉を味わえる。
とてもお得だ。
お酢が利いたものは得意な訳ではないが、このステーキには、ピクルスが必須だなあ、と思うのである。
ミニサラダのドレッシングも、味が濃くてお肉によく合う。
醤油ベースのドレッシングは、お肉と食すと、ご飯の好い御供である。
フライドされたじゃがいもも人参も、ほくほくしてこれがまたお肉に合う。
スープも忘れてはいけない。
牛で出汁をとったというスープの味は、奥行きがある。
野菜も出汁をしっかりと吸っていて、柔らかだ。
舌に残るお肉の味を、包み込むかの様なスープであった。
お肉だけではなく、付け合わせやスープのハーモニーが素晴らしく、食べている間中、頬が緩みっぱなしであった。
とある小説に、美味しいものを食べた登場人物が笑い出す描写があったが、それは真実だとつくづく思う。
美味しいは、幸せだ。
ステーキだけでもおなかが膨れるのだが、食い意地を張ってすぐ近くのジェラート屋さんのジェラートも食べた。
そこのジェラードを食べるために、冬でも人がやって来る人気店である。
味は、クッキークリーム。
手作りのジェラートは、味が濃厚だが、しつこくない。
甘いは甘いが、何処か優しい甘さだ。
膨れたお腹にダメージはあったものの、最後まで美味しく感じられた。
この幸福が、三千六百円とジェラード代で買えるなら、私にとっては安い買い物である。
夜はそこまで食べられないと感じつつ、充足感と共に帰宅したのであった。