2話 暗闇
孤児園から脱出した数日後、俺は書類を見せた警官の叔父さん叔母さんの家に引き取られることになった。
「こんにちは、僕の名前は徳山理緒です。これからよろしくお願いします。」
「あらあら、そんなに改めなくてもいいのに。気楽にしてもいいのよ。」
「ここは、お前の家だ。いろいろ 辛いことがあったんだ。ここでゆっくり休め。」
叔父さん叔母さんの言葉は優しかった。でも前のことがあって簡単に人を信じることができなくなっていた。それに礼儀作法を叩き込ませて中々抜けないのだ。
この人達を疑っていた俺だったがいつも優しくされたので、いつの間にか心を開いていた。本当に幸せだった。
「理緒、お前剣道をやってみないか?」
彼は、いつも理緒のことを見ていた。そして驚いた。コップを落としてしまい床すれすれの所でキャッチしたのだ。あれは大人顔負けの反射神経だった。他にもある。いつも人によく吠える犬が理緒なは吠えなかった。理緒をよく見ると薄っすらだが気迫を感じた。運動神経もよかった。きっとこの子は、強くなるそう確信したからだ。
「お前はきっと強くなる。だが、ただ強くなるだけじゃだめだ。大切な人を守れる強さそれが大事だ。お前はそれを求めるか?」
「大切な人を守れる強さ………叔父さん僕に剣道を教えてください。」
「おう!明日からビシバシ鍛えていくからな頑張れよ!」
「はい!」
それからは、毎日ランニング、腕立て伏せ、背筋、腹筋、素振り200本だった。とてもハードな体づくりだった。筋肉や体力がついたら剣道を教えてもらった。
叔父さんは世界でも有名な剣術使いだった。主に剣道だったがそれに勝るものはいない。叔父さんは結構スパルタだった。一日に9時間も稽古をした。それでも大切な人を守れる人間になるため弱音は吐かなかった。稽古を付けていた彼は、理緒がスポンジのように吸収していることに驚いている。稽古を付けてから1週間で剣道1段と互角に戦えるぐらいになっていた。もう子供の枠から外れていた。
(理緒は、とんでもなく強くなる。だからこそ、その強さが間違った方向に行かないようにしなけれは………理緒は世界を壊す。)
彼は不思議とそう思った。
理緒は中学に入り15歳になっていた。剣道1段になっていた。
「本当は、4段ぐらいの実力はあるんだけどなぁ。年齢制限があるから仕方ないが。」
「叔父さん大袈裟。それにそのために強くなったわけではないから。」
「……そうか。」
「じゃあ、学校へ言って行きます。」
「おう、行ってら。…………理緒そのことを忘れるなよ。」
最後の言葉は、理緒には聞こえなかった。
前期のテストが終わって結果が出されていた。理緒は1、2年生のときテストは学年1位だった。頭は並外れていた。
「おーい。理緒またテスト全部90点以上だったんたろ。でも次は、俺が勝つ。」
「別に勝負するきは無いんだけど。」
「うるさい。黙ってみせろ!」
こいつは大友優希。いつもテストの点で勝負をさせられている。
優希は、理緒の手元から答案用紙を奪い自分のと比較した。
大友→国<90>、数<94>社<92>理<94>英<91>
理緒→国<97>数<100>社<98>理<100>英<100>
「…………俺は今、幻を見ている。」
「無い言っているんだ。何も可笑しい点数では、ないだろ。ほら、文句が無いなら返せ。」
「大たりだーー!!。なんだこの点数は。100点が三つも……」
「何言っているんだ。100点くらい取れるだろう。」
「取れねーよ!!」
ちなみに、学年の平均点数は50点ぐらいだ。理緒だけではなく優希もすごいことがわかる。
いつも楽しそうにしているけど、理緒に話しかけてくれるのはほとんどいない。みんなは黙ってこちらをみているだけだった。理緒がどんなにすごくても誰も近づかない。いや、逆に凄すぎて近づけないのだ。
それは理緒が中学1年生のことだ。剣道部に入り、先輩達と模擬試合をやっているときだった。理緒は先輩達、全員を瞬殺してしまったのだ。
さらに剣道の教師にも勝ってしまったのだ。先輩のプライドはズタズタに引き裂いたのだ。その結果、先輩達は理緒に襲いかかったのだ。しかし理緒はすべて返り討ちにしたのだ。それからは先輩達には冷たい目で見られ、同級生や先生達は怯えた様な目で見られた。
「おい、優希。みんな体育館にいったぞ。行かないのか?」
「分かっとるわ!お前もさっさと行け!」
理緒は返事をしながら教室を出た。
「俺は、あいつに勝てないのか…………」
誰もいない教室にそう言い残し優希も教室を出た。
俺は入学試験を受け無事に公立高校に入ることができた。とは言っても、普通の高校だ。先生達にもっといい高校に入ってい見ないかと勧められたが俺は断った。正直、昔にいろいろあり過ぎて普通の暮らしが羨ましかった。だから少しでも普通に生きて幸せになりたい。それが俺の願いだった。
高校ではいつも通りテストでは高得点を叩き出したり、あり得ない身体能力で学校中を驚かせた。結局、俺に話しかけてくる人はいなかったが十分な生活を送っていた。しかし、しあわせはそう長くは続かなかった。
叔父さんが死んだのだ。床に寝そべっていて、体は鉄のように冷たかった。心筋梗塞で叔父さんはこの世を去った。そして、あとを追うように後日、叔母さんも息を引き取った。
俺はただひたすら泣くのを我慢した。辛く悲しくて苦しかった。家族のように暖かく迎えてくれた存在がまた消えたのだ。泣いたって良かったのかもしれない。でも泣いたって何も帰ってこない。泣いたら誰か助けに来るのか。…………誰も来ない。
燃える車の中、
監視されている部屋の中、
冷たい目で見られる教室の中。
そっか、俺は最初から独りだった。誰も助けが来ない暗い所にいるんだ。俺はまた独りに戻ったんだ。目を開けると外は明るかった。叔父さん叔父さんの住んでいた家を売り、今はマンションに住んでいる。アルバイトでお金を貯め高校生活を送っていた。
「俺は、これからどうなるんだよ。叔父さん。」
俺の部屋に飾っている叔父さんと叔母さんが一緒に写っている写真を眺めながらそう呟いた。もちろん、返事が帰って来るわけもなく俺は、マンションをでた。
叔父さん叔母さんが亡くなってから2年がたった。18歳になり大学はもう決めていた頃だった。いつもどうりバイトを終わらせて家に帰るとこだった。道は人通りが少なく光がちらほらしていた。
「おい、理緒。」
理緒を呼び止めたのは中学のときに一緒にいた優希だった。しかし、体中ボロボロで顔に大きな痣があった。それに表情がとても暗かった。
「?!優希どうしたんだよその顔。一体何があったんだよ。」
「どうしたも、こうしたもないんだよ!!……ぶ、ぜんぶ、全部お前のせェーダァーーーー!!!!」
優希はポケットの中に忍ばせていたナイフを手で掴み矛先を理緒に向けて走ってきた。理緒にはそれがゆっくりと見えた。
理緒にはわけがわからなかった。いつも楽しそうにしている優希があんな怖い顔を初めて見た。優希は俺の何に怒っているのか。なぜ?なぜ?理緒の頭は恐怖で渦巻いていた。気づいたときには、もう……………
何もない所に僕はいた。
誰もいない所に僕はいた。
僕はただひたすら泣いた。
後ろから音がした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「?、だれ。誰かいるの?」
後ろからはひたひたと足音が鳴っていた。
「・ン・オ・エ・・・ダ・・・ガ・ナケ・・・」
「何?聞こえないよ。」
「ゼンブオマエノセイダオマエガイナケレバーーー!!!!!」
「?!!!」
後ろから泥のような手が僕にまとわりついてズルズルと地面のなかに吸い込まれていく。
「やだ、やだよ。怖いよ助けてよ誰か。」
「ダレガオマエヲタスケル?オマエヲタスケルヒトガイルノカ?オマエハサイショカラヒトリダロ?」
だんだん薄れていく意識の中、必死に手を伸ばしたが何も掴めなかった。
そして僕は暗闇にいた。