7.い、意外な話です……。
「山里さんは、葵があなたや私達以外と一緒にいる所を見たことはありますか?」
記憶を辿ってみるがそんなところは見たことがないので首を振る。
「そうでしょう。私達と、ああ、山里さんはまだ会ったことがないと思いますが、もう一人生徒会に出入りする人物がいまして、それと、後、そのもう一人の人物の婚約者に顧問と養護教諭、それからあなた。葵がこの学院でまともに会話するのはこの人達くらいでしょう」
「え!?」
驚き、そして、意外に少ないと思った。葵ちゃんならもっと広く交流を持っていそうなのに……。
「少ないでしょう?私達生徒会の人間とまだあなたが会ったことがないであろう2人、合わせて6人は皆、幼馴染なんです。顧問とは顔見知りで養護教諭とはいとこだそうです。とても狭い交友関係でしょう?――でも、そこにあなたが加わった」
「わ、私……?」
「ええ、そうです。山里さん、あなたです。……私達は正直、葵の余りの変わりように、在りもしない宇宙人入れ替わり説を信じかけてしまいそうになりました」
「う、宇宙人ですか?」
「ええ、宇宙人です」
葵ちゃんが宇宙人と入れ替わっただなんて、そんな仮説を信じられそうになっていたなんて、知らなかった。
でも、ちょっとだけ納得したこともある。初めて会った時に会長達が変だったのはこのせいだったのか。
「とにかく、それくらい私達は驚きました。さっきの会長とのやり取りからも分かると思いますが、葵は幼馴染である私達にも余りいい態度とは言えませんでした。ですが、あなたと出会って葵は変わりました。いい意味で葵は人が変わってしまいました。もしかしたら、葵は初めて心を許せる人に出会ったのかもしれませんね。ですから私あなたに感謝しています。皆もそう思っているでしょう。――葵の幼馴染を代表して私からお礼を言わせてください。ありがとうございます」
頭を下げる副会長にとんでもないと首を振る。
「あ、あの。わ、私はお礼を言われるようなことは、な、何もしていませんから。そ、それに、葵ちゃんが、か、変わったきっかけが、わ、私とは限りませんし……」
「いえ、あなた以外に考えられません。それに、あなたは何もしていないことはないですよ。葵と出会ってくれた。これだけでもお礼を言うには十分です。ありがとうございます」
葵ちゃんが私と出会ったことで変わったことがあるなんて知らなかった。初めて出会った時から葵ちゃんはとても人懐っこい人だと思っていたから。
でも、もし私が葵ちゃんの変わるきっかけになれていたら嬉しい。私ばかりが葵ちゃんから色々なものを貰っていて、何も返せていないことが心苦しかったから。
「――ですから、あなたも変われると思いますよ。嫌だと言ってもへばり付いてくるであろう葵が、あなたの傍に、きっと、ずっといますから。大丈夫ですよ」
そう言って微笑んだ副会長さんを見て、副会長さんの助言通りに頑張ってみようと決意する。
葵ちゃんが傍にいてくれればとても心強い。けれども、頼りきりにならない様にしながら頑張っていこうと思う。
「ふ、副会長さん。あ、ありがとうございます」
「座って下さい。そこまでしてもらう程の事はしていませんよ。自分の言いたいことを言っただけで、寧ろ差し出がましいことをして、不愉快な思いをさせてしまったかもしれません。すみません」
立ち上がって頭を下げる私に、座るように促した副会長は申し訳なさそうな顔をして謝る。
「い、いえ、そ、そんなことはありません。わ、私は言ってもらえて、よ、よかったです。そ、その、とりあえず、じ、自信が持てるようなものを、さ、探してみようと思います」
「そうですか」
それに葵ちゃんから教わった深呼吸も毎回しよう。深呼吸をすれば気持ちが落ち着いて、どもりも減っている気がする。
「い、色々と話して下さって、あ、ありがとうございます」
「いえ、その、ど、どういたしまして」
「は、はい」
戸惑う副会長に笑って返すと、副会長も笑ってくれた。
「や・よ・い・ちゃん!良と何話しているの?」
和やかな雰囲気になり、すっかり冷めてしまったが美味しい紅茶を飲み、一緒につけてくれたクッキーを食べていると、葵ちゃんがむっとした顔をしながらぎゅーと抱きついてきた。
「わわ、あ、葵ちゃん!」
「二人して仲良さそうにしているし、弥生ちゃん、何だか嬉しそう。……本当に、良と何を話していたのかしら?」
「あ、葵ちゃんが仲良くしてくれて、う、嬉しいなって、話していたの」
ふてくされた顔をしている葵ちゃんは少し機嫌を直して、あら、私が仲良くしてもらっているのよと言い、笑った。
そんな葵ちゃんに、この胸いっぱいの幸せな気持ちを伝えたくて、名前を呼びかける。
「あ、葵ちゃん」
「なぁに?弥生ちゃん」
「――あ、葵ちゃん、大好き」
毎回同じ言葉だけれど、これが一番しっくりくる。
自分がどんな顔をしているのか見ることは出来ないけれど、多分、とても嬉しそうに笑っているんだろうなと思う。
「わ、私も、大好きよ」
珍しく真っ赤になった葵ちゃんが力いっぱい抱き着いてそう言ってくれた。
ちょっと苦しかったけれど、それ以上に幸せで困ってしまう。
「あなた達はそのくだり、何回やれば気が済むんですか?私、見飽きてしまったのですが」
無言で座っていた副会長が、うんざりと言わんばかりに声をかけてきた。
「ふ、副会長さん。す、すみません」
「謝る必要はありません。少々苦情を言いたくなっただけですので、気にしないで下さい」
一瞬、副会長の存在を忘れており、2重の意味で謝る。副会長はため息を吐きながらも、気にするなと言ってくれたが、逆に気になってしまいます。
「それで、葵、会長との話し合いは終わったのですか?」
「ええ、終わったわ。悟と保も来たから、軽く打ち合わせて体育館へ行こうと思うのだけれど」
「分かりました。では、そちらの部屋へ行きましょう。山里さん、隣の部屋に移動しますよ」
副会長にそう声をかけられ葵ちゃんに手を引かれそうになるが、確認しなければならないことを聞かなければついては行けない。
「あ、あの、カ、カップとかは、どうしたら?そ、それに、わ、私が話を聞いても大丈夫ですか……?」
「ああ、カップは水につけておいた方がいいですね」
「さっきは一般生徒の弥生ちゃんには聞かせられない話だったから、部屋を移ってもらったけれど、打ち合わせの内容は、始業式のものだから大丈夫よ」
私の疑問に副会長と葵ちゃんが交互に答えてくれた。
自分の使ったカップと副会長のものを重ねて持ち、再び、葵ちゃんに手を引かれたが、今度は素直に手を引かれた。
隣の部屋に移動すると、確かに書記の人と庶務の人が来ていた。皆、自分の席であろう場所に座って待っていた。
持っていたカップを葵ちゃんが受け取り、キッチンスペースへと持っていき、私は副会長にソファーまで案内され座らされる。
「葵から、山里さんにお手伝いしてもらえると伺ったのですが、一つ仕事を頼んでもよろしいでしょうか?」
「は、はい」
頷いた所、副会長にお願いされた仕事は冊子作り。ソファーの前のテーブルの上に置いてある紙を、左から順番に一枚ずつ取って上に重ねていく。そんな簡単なお仕事だった。
「手伝ってもらってしまい、すみません。あのアホ顧問が、いえ、失礼。あの顧問が只でさえ忙しいのに、こんな仕事を押し付けてきたので困っていたので助かります」
「い、いえ」
副会長が今、顧問の先生を『アホ』呼ばわりしたのは気のせいだろうか?何だか怒りのオーラが見えるようで、ちょっと怖い。
副会長は、では、お願いしますねと言い自分の席へと向かう。
皆、席に着いたところで打ち合わせが始まり、さっき葵ちゃんが言っていたみたいな内容の打ち合わせだった。私は、生徒会メンバーではないので、その間、邪魔にならない様に延々と頼まれた冊子作りに没頭していた。
「じゃあ、葵ちゃん。私達体育館に行くから、部屋に鍵をかけて待っていてもらってもいいかな?後で迎えに来るから」
打ち合わせが終わったようで、葵ちゃん達は皆、体育館へ行くようだ。私はお留守番のようで、一緒に行っても役に立たないだろうし、お願いされた仕事もある。部屋に鍵がかかるなら一人でも大丈夫かと頷いた。
「迎えは必要ない。保に案内させればいい」
「何でだよ!?」
書記の人からの思ってもみない提案に庶務の人も驚いていた。
「保、お前、部活の練習中に足を痛めただろう?重い物を持ったり歩き回ったりするのは辛いはずだ。大人しくここで彼女と冊子作りをして、時間になったら体育館に一緒に来い」
「だけど!」
「その状態で無理をして、更にひどくなったら困るのはお前だぞ。……会長、それでお願い出来ませんか?」
庶務の人が何かを言おうとするのを書記の人は遮って庶務の人を諭す。そして、自分の独断では決められないので会長にもお願いをする。
「……悟の言うとおりだな。保。体育館の方はいいから、ここで大人しく仕事をしていろ。時間になったら山里を連れてくるのを忘れるな」
「――はい。ありがとうございます……悟、悪かった。ありがとう」
この二人の関係は相手を思いやることの出来る、とてもいい関係だ。葵ちゃんとこんな関係を築けたらいいなと思う。
そんなことを思いながら皆を見送っていたら、あることに気付いた。
――私、庶務の人と二人きりじゃないのか。だ、大丈夫かな?




