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七章 娘の捜索




「遅いね、警察の人」

「手続きが色々あるんだろ。仕方無いさ」


 “赤の星”オルテカ。その警察署待合室で待たされて、彼是二十分近く経過していた。休日と言う事もあり、利用者(?)は俺達以外いないようだ。

「咽喉渇いてないか?何か自販機で買うなら小遣いやるぞ」

「帰りにしようよ、靭のおじさん待たせてるし。ああ見えてコーラが好きらしいよ、あのオジサン」

「今待っている奴と一緒だな。―――と、やっと来たか」

 ややいかつい顔の警察官に連れられて、むすっとした表情で義息は現れた。

「白鳩調査団の方ですね」

「ああ。うちの団員が迷惑掛けたみたいだな、済まない」頭を下げる。「ところで、こいつが見たがっていたのは何の資料なんだ?」

 政府館でエルに届いたメールには、ある事件現場の遺留品としか書かれていなかった。

「アイゼンハーク家の瓦礫から押収された物です。正式な捜査令状が無ければ見せられないと言うと、保管室の前で座り込んでしまいまして……」

 再度ケルフの様子を窺う。瞳には強い意志の光、そして焦りの色がありありと浮かんでいた。

(訳ありか……しゃーねーな)

「電話貸してくれ」

「どうぞ」

 傷だらけの公衆電話の受話器を上げ、手帳に書かれた番号を押した。二コールで向こうと繋がる。


『美希?』

「いや、俺。ちょっと無理頼めないか?」


 手短に事情を説明すると、電話の向こうでカタカタとキーボードを打つ音がした。

『警官に代わって』

「ああ。お回りさん、俺の上司から話があるそうだ」

 訝しげに受け取った彼は数秒後、表情を一変させた。受付にメールの有無を確認した後、再び俺に受話器を返した。

「サンキュ。優秀な弟がいて助かるぜ」

『兄上に褒められても嬉しくないなあ。まぁいい、上手く探し物が見つかるといいね。じゃあ切るよ』

 プツッ。

「早速だが宜しく頼む」

「はい」

 態度を百八十度変えた警察官が恭しく頷く。そして高低差のある二人に、お前等も行くぞ、と声を掛ける。

「義父さん?」

 困惑しているケルフの肩を叩き、入らせてくれるってさ、いいから来い、そう告げた。

 薄暗い廊下と階段を案内され、地下二階へ。ファイル片手の警察官が、B-七と張り紙されたドアの前で立ち止まった。

「こちらです」

 ガチャッ。鍵を開けた後、ファイルごと俺へ手渡す。写真付きの遺留品リストだ。

「署を出る際に必ず受付へ返しておいて下さい。では私はこれで」

「ああ、分かった。ありがとう」


 キィッ。パチッ……バタン。


「さて、そろそろ喋ってもらうぞケルフ?」

 蛍光灯を点けても尚薄暗い中、俺は黙ったままの義息に告げた。

「ミュージシャンのお兄さん、言っとくけど隠し事は無しだよ?僕達、わざわざ兄様に嘘吐いてまで来てあげたんだからね」腰に手を当て、胸を張る。「そこの所、ジュージューショーチしてくれないと困るなあ」

「……くそっ。義父さん達を巻き込むつもりは無かったが、時間も無いか……仕方ねえ」

 ゆっくり頭を左右に振り、一度大きく深呼吸した。

「義父さん、オリオール。頼む、シェリーを探すのを手伝ってくれ」物置状態の保管庫を見回し、「まだエミルはここへ来ていない。可能性はある筈だ」

「エミル?」

 屋敷で鉢合わせした冷たい目の天才夢使い。そしてシャバム中央病院に現れた時の子供らしくない表情を思い出す。 

「リーズもそいつを捜索しているのか?だから今日のパーティーにも来れなかったんだな?」

「どころか昨日からずっと音信不通状態だ。携帯にも出ないし今朝チャヴァ、院長にも電話したけど帰ってないって。きっと今この時も、必死で私達のシェリーを捜し回っているに違いないわ」

「「わ?」」

「!?ご、御免!つい昔の癖で」

 義息はまるで女のように口元に手を当て、それから赤くなった頬を押さえた。

「リーズと一緒で、お前にも裏の過去があるって訳か」

「過去って言うより、俺の場合は前世だよ」

「そうか」幼子の誠とメノウの幸せそうな様子を思い出し「俺にも少し分かる。ただ」

「何だ?」

「正直その仕草が似合う男は宇宙で唯一人、まーくんだけだな」


「「プッ!アハハハハハッッッ!!」」


 大爆笑の二人に混じり、俺も自分の発言にケタケタ笑う。

「確かにそりゃそうだ……あぁ、けど御免。何て言うかさ、自分でもまだちゃんと制御出来てないんだ」

「だろうね。しょうがないなぁ。ま、先に僕達が慣れるでしょ」

「そうだな。さ、お喋りはこれぐらいにして調査に入ろう」

「ああ、頼む」

 ファイルを捲り始めた俺に、シェリーはドールなんだ、茶髪に蒼い目の女の子の人形、特徴を説明する。その指示に従い、貼り付けられた写真に視線を走らせる。

「結構多いな。こっちは俺が確認しとくから、お前等は棚を見て来てくれ」

「OK。行こ、お兄さん」

「そっちは頼んだぞ義父さん」

 一旦別れた二人は部屋の奥へズンズン進んでいき、やがて見えなくなった。




 パラ、パラ………。


(悪趣味な像は幾つかあったが、それらしい人形は写ってなかったな。どうやら発見されていないようだ)

 冷気漂う地下で息を吐く。

(もしかして、地下室の棚にあったあれか?)

 ベリド少年が「出してはいけない」と警告した少女人形。当主が死体に戻った後は……駄目だ、覚えていない。ずっと黒焦げ遺体を観察していたので、他の物など目に入らなかった。

 無表情の仮面を被った少女も、今頃そいつを追っている。仲間の俺達に一言の相談も無しに、だ。

(誠君を守って……か)

 天才なりの第六感、常人には計り知れない力で危機を察知したのか。その言葉、もしや今も有効なのだろうか?

(いや、病院には警備員も看護婦も大勢いる。襲われる事はまず無いだろう)

 かと言って不安は一向に拭えない。―――早くシャバムへ戻ろう。また誠に何かあったら、母親のメノウに申し訳が立たない。

「お兄さんどう!?見つかった?」

 戻って来て尋ねた少年に、俺はファイルを閉じて左右に振ってみせた。

「いや。そっちは?」

「隠せそうな物は片っ端から開けてみたが収穫無しだ。ここに回収されてないとすると……一体何処行ったんだ?」

 失意のまま保管庫を出、一階の受付で鍵とファイルを返す。

「お疲れ様でした」

「騒いで済まなかった。もう一回電話を貸してくれ」

 再びさっきと同じ番号をプッシュ。今度は一コール目で繋がった。

『美希かい?』

「おい、どんだけ婚約者に飢えてんだよお前?」

『何だ、また兄上か』珍しく舌打ちする。『仕方ないだろう。時間が終わっても戻って来ないし、携帯も電源を切ったままだ』

「アイザと寄り道でもしているんだろ多分。お前、そんなんだと今に逃げられるぞ」

『で、大方見つからなかったんだろう、探し物?でなきゃ電話して来ない筈』

「話が早くて助かる。因みに訊くが、アイゼンハーク家から回収された物が別の場所に保管されていたりはしないよな?」

 書類を捲る音がしばらく響く。

『―――こちらの報告には無いね。高名な夢使いの家系と言っても、特に危険な魔術道具は発見されなかったみたいだし』

「じゃあ人形も?」

 ヒュッ、息を詰める音。そして十数秒間の沈黙。

『兄上。本当にアイゼンハークの屋敷内に「人形」があったのかい?』

「ああ。焼け落ちる前に俺達も地下室で確認済みだ。黒いワンピースを着た女の子の人形だ。?どうかしたのか?」

『そいつは、どうやら厄介事だね……』

 弟は軽く唸った後、ケルフを入れて三人での帰還指示を出した。




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