十八章 HELP WE
燭台の炎を頼りに時計塔の中を歩き回り、ようやく見つけた階段を昇る。ところが、
「そんな……」
私が昇った階段はたった三階までの短い物。どうやら内部に時計を動かす機関のある構造上、幾つかに分かれて設置されているようだ。早く四階への上り口を探さなければならない。シャーゼさんに追い付かれない内に。
明かりを手にまずは周囲を見回す。蝋燭もライターオイルもまだ充分にある。隠れるために多少吹き消しても問題無いだろう。
「これは……もしかして電話?」
発見した壁の黒い受話器と、隣の数字のボタンを観察する。内線専用?それとも外線も使えるの?そもそも長く放置された建物の設備だ。ちゃんと使えるのだろうか?
「ああ、でも燐さんがいないと―――ううん!」
仮令彼がいなくても奇跡で通じると信じ、私は受話器を取った。一度燭台を足元へ置き、空いた手で手帳を開く。書かれたエルの執務室の番号を確認しながらボタンを押す。
プルルルル……「やった!繋がっ」ザクッ。「っ!!?」
右太腿に新たな激痛が走る。恐怖を堪えながら振り返ると、気配を隠して真後ろにいた追跡者は道化師のような笑顔をしてみせた。
「どうした小晶、助けを求めるんだろう?華奢なお前一人で二人を降ろすのは無理だぞ」
流れ出した血がズボンの下を伝う。冷たい、凄く……。
「どうして」
駄目だ、幾らコールしても応答が無い。一旦受話器を置く。
「どうしてシャーゼさんなんですか?私の“燐光”が目的なら、彼を巻き込む必要は全く無かった筈です」
「私とのお喋りは退屈か?」わざとらしく残念そうな声を出し、首を竦める。「私は何時までも続けていたい気分なのだがな」
「答えて下さい!あなたは一体」
「迷いがある人間が好きなの、私。このお兄さんはかなりの高得点よ、だから選ばれた。OK?」
答えたのは少女のような高い声。彼女が操っている張本人なの?
「そんな理由でシャーゼさんの自由を」
迷いの無い人なんていない。現に私だって。
「私はずっと自由だぞ?ほら、手錠も縄もされていない」
血の付いた剣を納め、両手を顔の前でヒラヒラさせてみせる。その後、何故か背を向けて階段手前まで後退した。
「?」
「これでは余りにも可哀相だ。もう一度だけチャンスをやろう。何処へなりとも電話するといい」
罠?一体どう言うつもりなんだろう……?
「先に言っておくが、ここを逃したらもう連絡手段は無いぞ」
繋がらなくて絶望した顔を見たいだけなのか、それとも他に意図があるのか……判断出来ないまま再び受話器に触れた。でもまだ上げない。
(今度は何処へ掛ければ……)
不意に強い恐怖が心を襲う。通話が終わったら、背後のシャーゼさんは必ず追い掛けて来るだろう。仮に助けを呼べたとしても、来る頃には私が殺されている公算が大きい。
(まだ、まだ死にたくない!少なくともこんな所で!!)
記憶喪失になってから出会った人々が次々脳裏を横切る。そして―――最後に浮かんだのは、私にとって最初の友人。
本能的にさっきと同じ番号を押す。しかし手が震えていて、間違わずに入れられたか確証は無かった。
プルルルル……ガチャッ。繋がった。私は追跡者の視線に怯えながら、叫んだ!
「ウィル、助けて!!私達、街外れの時計塔に閉じ込められて……私だけじゃないの。私を助けようとしたアイザと美希さんも……でも二人共、夢を晴らそうとしてあの人に……う、いつっ!」
大声を出したせいで脚の傷が広がったようだ。苦痛が強くなる。
「暗いよ……それに寒くて、痛くて……ウィル」
ポタッ、ポタッ……蝋燭の火に照らされた視界が歪む。
「エルの言う通り、病院に行かなかった罰が当たったのかな……?私、まだ死にたくないよ……ウィル、今まで沢山迷惑掛けてごめんね」
バキィッ!!




