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十六章 上へ




 光がこんなにも心強いなんて初めてだ。


『いい、誠?アタシ達が迎えにくるまで、絶対この部屋から出ちゃ駄目だよ』

『フィクスさんは私達で何とかします』

 恐怖を押し殺し、もう一台の燭台を手にした美希さんは精一杯微笑む。

『大丈夫。私達の帰りが遅ければ、すぐにエル様達が助けに来てくれます』

 若しくは屋敷の時みたいにリーズが来てくれるかもしれない。夢は彼女の専門だ。

 出て行く直前、アイザは一応ドアに噛ませてあったつっかえ棒を私に託した。

『ちゃんと掛けておくんだよ』

『うん。あ、そうだ。二人共、少し待って』

 深呼吸し、今の私が使える最大の高揚の奇跡を掛ける。

『気休めにしかならないけど……』

『そんな訳ないじゃない。ありがとう誠』

『ありがとうございます誠さん。ではアイザさん、行きましょう』

『うん』


 二人が部屋を後にし、私はつっかえ棒を斜めに固定し直した。そして部屋の中央に戻って腰を下ろし、暖かな炎を前にして今に至る。

 静かだ……物音はおろか、鈍っているので三人の氣すら感じられない。


「燐さん、ごめんなさい……」


 兄みたいな同居人は一体どうなってしまったのだろう?この声も届いていないの?

 会いたい。記憶を失って以来ずっと傍にいてくれた人に、私は何て事をしてしまったんだろう。

(そう言えば私、今頃病院に行っている事になっているんだよね)

 これまでに何度もあった事だ。ウィルもオリオールも、迎えに来るまで気付かないのではないだろうか。


 ガンッ!!ガンガンッ!!「っ!?」


 外側からドアが激しく叩かれ、いや蹴破ろうとしている!二人ではない、彼だ!!

(何処かに隠れないと!!)

 頼りのつっかえ棒がギシギシ鳴るのを聞きつつ蝋燭を一旦吹き消し、ライターをポケットへ。物音を立てないよう素早く立ち上がり、部屋の中を見回す。

(あそこならそう簡単には見つからない筈!)

 意を決し、入口近くの錆びたロッカーの一つに身を滑り込ませ扉を閉めた。埃っぽいけれど、細身なせいか案外狭くはない。


 バキィッ!!


 ロッカー上部の隙間から襲撃者の様子を窺う。僅かに暗闇に慣れた目が捉える、銀色の髪。


 ガサッ!


 さっき私の腕を切った剣を振り上げ、部屋の隅にある段ボールを上から真っ二つに切り裂いた。両断された埃塗れの紙束が裂けた隙間から現れる。

「小晶……何処だ?」

 首が不自然な角度でガクッ、と傾く。まるで上から糸で操られた、マリオネットのような動き。


 バサッ!バサッ!!


「何故隠れる?私達は友人だろう?」

 恐怖に叫び出しかけたのを口を押さえて耐える。氣で多少防御は出来るだろうが、見つかれば恐らく為す術無く殺されてしまうだろう。燐さんに習った剣の腕前もまだまだだ。第七対策委員として訓練を積んだ彼にはとても及ばない。

 段ボールを破壊し尽くしたシャーゼさんは、歪んだ笑みを浮かべたまま部屋を見回した。隠れているロッカーに注意が行かないか気が気ではない。

 不意に彼は踵を返し、折れたつっかえ棒を蹴飛ばして壊したドアへ向かう。諦めてくれた?ほっと胸を撫で下ろしかけた時、歩みが止まる。


「そうそう小晶。頂上の鐘に面白い物がぶら下がっているぞ―――知っているか?お前達第七と違い、人間は長時間逆さ吊りになるだけで簡単に命を落とす」


 クックックッ。


「幾ら待っても助けなど来ないぞ。お前の大事な女達は、お前のせいで死ぬ」


 哄笑が響き渡る中、頭が完全に真っ白になった私はロッカーを飛び出す。軽く薙がれた剣先を避け、ドアだった場所を潜り抜ける。意外にも追撃は無く、代わりに言葉が背中へ飛んで来た。


「さあ、早く昇って行け小晶!私に追い付かれれば全て終わりだぞ!!」





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