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序章 闇の中で
シュボッ。
錆びた燭台の蝋燭にライターの火が点され、倉庫と思われる小部屋を照らし出した。充満する埃と黴の臭いが鼻を突く。
「明るいね……」
普段は安心出来る暗闇も、今はただ盲目の恐怖で一杯だ。
「夜目も利かないんですか?」
「はい……」
ズキッ。手当てされたばかりの腕の傷が疼く。
「誠、まだ痛いの?」
「ううん、大丈夫」
これ以上心配は掛けられない。無理に口の端を上げた私の肩を、友人は大きな手で以って擦ってくれた。
「アタシ達相手に嘘なんて吐かないの。詩野さん、やっぱりこれって」
「残念ながら、私の仮説通りですね……」
正面に座る二人の顔が炎で揺らめく。
「アタシ達であいつをどうにかするしかないね」
「はい」
銀色の拳銃を顔の前に掲げて、美希さんは祈りを捧げる。
「―――姉さん、エル様……お二人をどうか守って―――」