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パンツァーファウスト

作者: 風唄

キャタキャタキャタキャタ


規則的なキャタピラ音を立て目の前をイギリス軍のシャーマン戦車が横っ腹をさらけ出している、


格好の獲物だ、全くこちらには気付いていない様子だ、


無理も無い、既にこのカーンはアメリカ、イギリス軍の重爆撃機500機が数日前から2500トンもの爆弾を雨霰と落とし、街は廃墟と化している、


ましてやこの方面には塀が多く、崩れかかった家や塀などは格好の隠れ家となる、

正規軍同士の戦いとなるとこの地を守る寡少兵力の我が師団、SS(武装親衛隊)第12機甲師団(ヒトラーユーゲント)には辛いがゲリラ戦には有利だ


と言っても1より2は大きいと言う程度のものなのだが…


対する敵、カーンを攻めているイギリス第59歩兵師団とカナダ第3歩兵師団の兵力は我が弱体化した第12SS機甲師団とは比べるまでもない、


ましてや空は開戦時とは違い完全に連合国のものだ…


空にはヤーボ(戦闘爆撃機)が蔓延り、動くものあればすぐに撃つ用意はととのっている、

一体どれだけの戦車、兵がヤーボに喰われたのだろうか、


補給は来ない、増援も来ない、ただ、命令はカーン死守、


軍人である以上命令は絶対だ、


カーン死守…その不可能とも思える命令を実行する為に私、ティライSS大尉はパンツァーファウスト(個人携帯用対戦車擲弾発射器)をにぎりしめる、


周りを見渡すと各々…といっても三人しかいないのだが…彼らは武器を持ち悲哀を漂わせながらも覚悟を決めたといった表情の部下が私を見つめ返してくる、

彼らにも戦車襲撃の意思は伝わっているようだ、


私がにぎりしめている兵器、パンツァーファウスト、


パンツァーファウストは直径5センチ、長さ1メートル鉄パイプみたいなものに15センチの成形炸裂弾頭と言う馬鹿でかい頭が付いた兵器は200ミリまでの鉄板を貫通することが可能だった、つまり全ての戦車を破壊可能だ、



ただし、万能な兵器とは存在しない、

この、簡易で手軽、安価な兵器の玩具みたいな照準機を使った射程距離はせいぜい30メートル、それも山なりの弾道を描いて、だ



そんな兵器を使った戦闘はまさに肉弾戦だ、

ただし、このような街を舞台にした戦にはそれなりに友好であったが…

事実私はこの兵器でイギリス軍のシャーマン戦車を2両破壊した、


そして、3両目は目の前をゆっくりと進んでいる、先程から慎重に周りを確認しているがほかに戦車も歩兵も見当たらない、絶好のチャンスだ、


私は慎重に照準を定め、パンツァーファウストを発射する、


ボシュッ


っと発射音をして敵に戦車に向かう、


距離は10メートルも無い、

まず外すことは無い、


直後鈍い音をして敵戦車は燃え上がった、


部下が声にならぬ歓声を上げる、


だがしかし、この音で救援部隊が来るかもしれない、

我々の部隊は最後まで確認はせずにすぐその場を去った、


そうして、これで3両目破壊、だ、



私は一旦報告の為、司令部へ向かうことにした、

そろそろ日も暮れる、


夜になればヤーボは飛べない、

いや、飛べはするがまともな照準など不可能であろう、


なので夜襲の命令があるかもしれない、


そうして、我々は司令部に向う、


我々の所属は第25擲弾兵連隊第2大隊だ、


大隊本部に到着し戦果報告をする、

戦車3両破壊、と、


大戦果と言えるだろう、


その折り、情勢を聞いてみるが、あまり情勢は芳しくない模様だ、


個々の部隊は奮戦し、数倍に当たる敵に当たっているが、もはや各部隊の英雄的な奮戦も…局地的な影響、それもごく小さな地域でしか影響はあらわれない…


所詮、衆寡敵せず、だ、


ましてやこの地、フランスの精鋭部隊は多くが東部前線に送られ、消耗し、残っている多くの部隊は2線級の部隊だった、



そしてヒトラー総統が連合軍上陸を警戒し大西洋の壁と呼ばれる防御陣地も陣地設営は遅れに遅れ、ヒトラー総統が敵上陸地点と推測したカレー方面は80パーセント、実際に敵が上陸したノルマンディーは僅か20パーセントしか防御陣地は完成してはいなかった、



ドイツの未来は、もはや、風前の灯であった、


連合国とソ連は、消耗し尽くしたドイツなど一呑みにせん、と本国まで迫っていった、

これを止めることは、不可能とさえ思う、


こんな中、一将校に出来ることなどたかが知れている、


だが…やらなければならない、


私はさっと上官に敬礼し、早々に食事を済ませ、新しいパンツァーファウストを受け取り、死地へと向かった、



死地は平穏だった、


といってもそれは、かりそめのものでしか無いのだが…

我々は慎重に周囲を警戒しつつ、進撃する、


敵の姿は見えない、キャタピラの音も聞こえない、


敵は引いたのだろうが…

いや、そんなはずは無い、と甘い考えを打ち消す、



すると右前方から風を切る音が聞こえたと思うと、


ドカッ


と音が聞こえ、次の瞬間火柱が上がった、


距離はそう遠くない、


私は直ぐさま部下の方を一瞥する、

彼らは、私の意図を察し頷いた、

一番若い兵も、心なしか青い顔をしているようだが、頷いてくれた、


頼もしい部下達だ、私の意図を完璧に察してくれる、


それもそのはずだ、彼等は文字通り生え抜きだ、他の部下は…死なせてしまった、


この部下達は死なせたくない、


心からそう思った、



我々は死地に急行する、


慎重に、かつ大胆に、


その間も風を切る音は絶え間無く続き、時折爆発音も聞こえる、


おそらく両軍の戦車が角を突き合わせているのだろう、


ある程度近づくと奥に退却している味方らしき戦車が見える、

そして手前には3両の健在なシャーマン戦車と、燃え上がっている2両のシャーマン戦車、

対する味方らしき戦車は1両、被害はまだ受けていない様子だ、



私は決断する、味方を援護する為、敵戦車を攻撃する、と、


部下は私の決意を察し、黙って頷いてくれた、



私は隠れていた壁から出て、瞬時、ちゃちな照準機で狙い発射する、


パンツァーファウストは鈍い音を立て発射された、


しかし、何と言うことだろうか、


弾は目標戦車の手前で急落し、外れてしまった、


暗闇で距離を見誤ってしまっただろうか…


次の瞬間、敵戦車が私に気付く、


まずい…逃げなければ…


私は撃ち終わったパンツァーファウストを投げ捨て、逃げる、逃げる、


だが敵の方が速かった、


シャーマン戦車から機関銃が雨霰と降り注ぐ、


バスッ


と鈍い音が耳に響く、


見ると私の右足は濡れていた、

痛みは無い、だが恐らく銃弾が貫いたのだろう、

右足は動かない、


よく見ると右足の右半分はなにかで削り取られたようだった、

私は立つことが出来ずうずくまる、


すると

「大尉」と一番若い兵の声が聞こえた、


そちらを振り向くと若い兵がこちらに向かおうと駆け出した、

他の兵が止めるも間に合わず兵が飛び出してしまった、



私は

「来るな」と大声を出すも兵は聞かずこちらに向かってくる、


その間にも銃弾は絶え間無く降り注ぐ、


しかし兵は怯まず私のもとへ走る、そして奇跡的にも私のもとへたどり着いた、



彼は

「戻りましょう」と私に笑顔を見せ、手を差し出した、


私は

「ありがとう」と笑顔で返しその手を取った、


つもりだった、


刹那、私の腕は無くなっていた、


私は肩を吹き飛ばされていた、


ドクドク、と血が流れる、どうみても、私は助からない、

兵が

「大尉、大尉!」と叫んでいる、


しかし段々意識は薄らいでいった…


薄らいでゆく意識の中、パンツァーファウストを手に敵愾心を燃やし、シャーマン戦車に向かって行く兵の姿が見えた、


私は

「やめろ」と呟いた、


だが兵には聞こえなかったのだろうか…



私が最後に見た光景は、シャーマン戦車と刺し違えた、兵士の姿だった。




そして、暫く後、カーンは放棄された、


それはノルマンディー上陸33日後、


カーン占領は連合国の予定より32日遅れの占領だった。

最後までお読みいただきありがとうございましたm(__)m因みにこのティライSS大尉は実在の人物で、SS第12機甲師団第25擲弾兵連隊第二大隊所属、戦車3両破壊し4両目で死んだのは史実ですが、他の行動などは資料が見つからなかったのでほぼ私の空想です(^_^A

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― 新着の感想 ―
[良い点] 軍事ものにありがちな説明口調になってなくて読みやすかったです。自分が予備知識があったからそう感じただけかもしれませんが。 [気になる点] 行間の空白が気になりました。 爆風とか戦場の雰囲気…
[一言] 題材はいい。 でも残念ながら、すこし人物の感情の引きが弱かったかな? もっと喋らせてもよかったかも。 あとは、細かいところですけれど、有効が友好になっていた。 雰囲気はとても良いと思います。…
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