揺らがない答え
高層ビルの最上階。
とてもおしゃれなお店の夜景の綺麗な窓際の席に、今日もその人は座っていた。
冷静に考えた結果、やはり答えは一つだと思った。
今さら、引き返すことなどできないのだから。
「お待たせしました」
「いや、全然、そのコート、寒くなかった?」
「寒かったです」
ほらちゃんと、笑いあえてるよ。
だって、私、水口先輩と高校時代からの付き合いだし、仲良しだもん。
だから、雅之君が心配することなんて何もないんだよ。
ただ、恋愛対象としてみていなかったから、驚いただけなんだよ。
ワン吉に告白されたときと何も変わらない。
それなのに、何で心が軋むんだろう?
飲み物が届いて乾杯した。
水口先輩の手元には、明らかに指輪が入っているらしいケースが置いてある。
「母が、もう私たちが結婚するものだと思ってずっと話していましたよ」
「そうだったのかい?」
白々しい、なんて、思ってませんよ。思ってませんとも。
「僕も僕で、OKしてもらえるものと思って早まってあいさつしに行ってしまったものだから、それは悪いことをしたね」
ちっとも悪びれてない気がするなんて、思ってませんよ。思ってませんとも。
もう答えは決めてある。
あとは、後悔しなければいいのだ。
この答えを、人生の正解にしてしまえばいいのだ。
大丈夫。私ならできる。
「答え、聞かせてもらえるかい?」
大丈夫、始めから、答えは一つだったんだ。
何も、迷うことなんかない。
私は一つ、頷いた。
何故だか言葉は出なかった。
「僕と結婚してくれる、ということかい?」
私はもう一つ、頷いた。
いいんだこれで。
いいんだ。
水口先輩が、手元に置いていたケースから指輪を取り出した。
そこにはまったダイヤモンドは、まるで、私が先輩の所有物であることを誇示するかのように大きなものだった。
高そうだ。
いつもの私なら飛び上って驚きそうなのに、なぜかなんとも思わない。
指輪はすんなり私の指に入って行った。
とてもピッタリなのに、なぜか違和感を感じる。
それは、きっと、雅之君が、私の心を揺らがしたからだ。
いつか、心が落ち着いたら、今の状況をしっかり受け止められる。
これでいいんだ。
私にとって、これが、幸せなんだ。
ぼんやり指輪を見つめていると、バーの扉がけたたましく開く音がした。