恋の予感?
「先生、ナースステーションの外で待ってるイケメン、誰ですか?」
舞ちゃんがいつになくうきうきした様子で私に話しかけてきた。
「あ、あのお洒落ジャケットの持ち主?」
さすが舞ちゃん、鋭い。
ジャケットを忘れた私は、ワン吉を置き去りにして、好青年こと雅之君にジャケットを返すべく、その足でジャケットを取りに戻ってきた。
雅之君も、私についてきてくれたのだ。
さすがに、ナースステーションに部外者を入れるのはまずかろうと、ナースステーションの外で待ってもらったのが、かえってみんなの目についてしまったようだった。
みんな、と言うよりは、主に舞ちゃんの目についたようだった。
「私、あの子なら、年下でもアリだと思いますよ!」
舞ちゃんはそう言ってにっこりほほ笑んだ。
ジャケットを手に私は雅之君に駆け寄った。
「はい、これ。その節はありがとうございました」
「さっきの看護師さん、何か言ってたんですか?」
「いや、うん、大したことじゃないよ」
私は会話をうやむやにしてごまかした。
本人を目の前に、年下でもアリだと言われたなんて、さすがに言えない。
私と雅之君は、病院を出た。
そのまま公園のほうへ向かうかと思った雅之君は、おもむろに、公園とは反対のほうを向いた。
「あそこに、おしゃれなカフェがあるんですけど、行ってみませんか?」
ん?
「僕、もっと、翠さんとお話ししたいです」
み、翠さんって、何だか新鮮……。
じゃなくって。
「あの、ワ、お兄さんは?」
「大丈夫ですよ、もともと一人暮らしだから寂しくはないと思いますよ」
何だか押し切られて、私は雅之君とお洒落なカフェにやってきた。
まあ、たまには、若いイケメンを前にお茶をしたってバチは当たらないよね。
「翠さんって、兄貴と付き合ってるんですか?」
その質問に、お茶をすすりかけていた私は思わずむせた。
「いやいやいやいや、付き合ってないよ」
告白の返事すら、してないし。
もうワン吉の中では告白すら、なかったことになっているかもしれない。
「そうですか、よかった」
私の返答に、雅之君はキラキラとまぶしい笑顔を浮かべた。
いやあ、若いって、いいなぁ。
雅之君は、ちょっと前まで探偵の助手のバイトをしていて、ワン吉が「レイプ犯を取り逃がしたかもしれない」と言ったのが何だか気になって、昔のバイトのつてで独自に調査をしていたらしい。
そして、病院近辺の犯行が多いみたいだと気付いた雅之君は、昨日、ワン吉にそのことを報告しに行ったが、肝心のワン吉が夜勤のため会えず、帰宅しようとしたところで、私の事件に遭遇したようだった。
ワン吉が夜勤していて待ちぼうけさせていなければ、私はあのままレイプ犯に殺されていたかもしれない。
私は心の中で夜勤してくれていたワン吉に手を合わせた。
雅之君と他愛もない話をしていると、どこかから、携帯のバイブレーションの音がした。
私の携帯をちらりと見たが、違うようだった。
「すみません、僕です」
雅之君が携帯を取り出すと、待ち受け画面に「兄貴」と表示されていた。
「いいよ、でてあげて」
心配性なワン吉に笑いが込み上げながら、私は雅之君に言った。
夜ご飯ができたから、帰ってこいって……ワン吉は、雅之君のオカンか!
それから一夜明け、私は外来で仕事をしていた。
ちょうど、午前の患者さんが終わったころに、診察室の電話が鳴った。
「翠先生、昨日のジャケットのイケメンが先生を探しに来てますよ!」
え?雅之君?
診察室から出てくると、雅之君が、嬉しそうに駆け寄ってきた。
こ、これは、好意を持たれているととっていいのだろうか?
いや、それにしても、年の差が……。