再会
また、あの好青年に会った時のために、ジャケットを急いでクリーニングに出したら、何とその日のうちに返ってきた。
最近のクリーニングの速さは、並大抵ではない、と感心しながら、私はジャケットをロッカーにしまった。
「翠先生、その男物のジャケット、どうしたんですか?」
反射的にロッカーを閉めた私は、まずいと思いながら声の主を振り返った。
やっぱり、舞ちゃんだ。
「この前のインテリ系イケメンのものにしては、若々しすぎませんか?」
ちゃっかり、はっきり、見られてる。
「あんなインテリ系イケメンがいながら、別の男を捕まえたんですか?」
いや、もともと水口先輩とも付き合ってないし、爽やか好青年は助けてくれただけだし。
「ねえねえ、舞ちゃん、聞いた?」
舞ちゃんの同僚が、新聞をもって舞ちゃんのところに駆け寄った。
「この辺の公園で、レイプ犯が捕まったらしいよ!」
「知ってるよ!捕まったならいいじゃん!あ、先生、逃げた!」
これ幸いと私は、逃げ出した。
「翠先生、お疲れ様です」
そこに現れたのはワン吉だった。
「あ、笹岡君、お疲れ様」
「今日の新聞読みました?」
「ん?」
あ、ヤバイ予感がする。
「先生が一か月くらい前に捕まえようとしたアイツ、逮捕されましたね」
「へ、へぇ……そうなんだ……」
どうやら私が襲われたことはばれていないようだった。
このままけむに巻いておこう。
ワン吉の事だから、私が襲われたことを知ったら、とんでもなく動揺しそうだ。
そのまま、一緒に歩いていると、病院を出たところでワン吉の携帯が鳴った。
「もしもし……どうしたんだ、急に?」
明らかにワン吉が動揺している。
「え?おい?どういうことだ?もしもし?もしもし?」
ワン吉は電話を見つめながら呆然としていた。
ワン吉の話しぶりを見ても、きっと親しい間柄だ。
か、彼女とか、幼馴染の女の子とかかもしれない。
「どうしたの?」
「あ、いや、あの、ちょっと……」
しどろもどろに答えたワン吉を見て、もしや本当に、女性がらみかもしれないと感じた。
「何?もしかして彼女?彼女が家にやってくるのとか、そんな感じ?」
「違います!弟です!」
ちょっとカマをかけて見たら、あっさり答えが出てきた。
「なんだ、つまらない」
と、言いながらも、少しだけ、何だか安心したような。
いやいや、だから、あれは、吊り橋効果だと、自分に言い聞かせながら歩いて行った。
ワン吉が駅まで送ると言ってきかなかったため、私たちは公園を歩いていた。
公園を通ったら、また、あの好青年に会えるのではないかという仄かな期待を胸に。
好青年とすれ違うことなく、ワン吉のアパートの前を通り過ぎようとした時だった。
「兄貴、お帰り……あっ!」
聞き覚えのある声のほうを見ると、そこに好青年がいた。
「あーっ!」
ワン吉が、私と好青年を交互に見つめてキョトンとしている。
「えっと、二人、知り合い?」
「昨日、僕、この人をレイプ犯から助けたんだ」
「え?」
しまった、ばれた!
そして、私は自分の手荷物を見て気付いた。
しまった、ジャケット、ロッカーに入れっぱなしだ!