続・絶体絶命
人通りのない公園の、誰も通らないような茂みの中。
私の口を塞ぎながら、私に馬乗りになっている男は、レイプ犯。
そして、私の視界の片隅には刃物までちらついている。
要するに、超ピンチだ。
男は、私の喉元に刃物を突きつけた。
「僕って、完璧主義者だから、不安因子は排除しておきたいんだよね」
変態犯罪者の主義なんて知るか!
「大丈夫、一緒にいたあのさえない男もあとからきっちり殺しといてあげるからさ」
……ってことは。
ヤバイ。殺られる。
「でもその前に」
そう言うと、男は私の服を切り裂いた。
この服お気に入りなのに!何するの!
いや待て、その前に、コイツはレイプ犯。
……ってことは。
ヤバイ。犯られる。
「誰……むぐっ!」
男の手が一瞬離れたすきに叫ぼうとしたが、あっさりと口を塞がれた。
「センセー、その格好で助けを呼ぼうなんて、ある意味勇気あるね」
あんたに犯されるくらいなら、赤っ恥かいたほうがましだ!
「でもさ、無駄な抵抗はやめようよ」
男は私を睨みつけると、私の胸に、ナイフを突きつけた。
「僕もさ、センセイとキモチイイことする前に、センセーをあの世に送りたくないから」
こんな男に犯されてたまるか!
こんな男に犯されるくらいなら、死んでやる!
精一杯抵抗した。
それが男の力にかなうはずなどなかったが、あまりにも思い通りにいかない私に、男はとうとうキレた。
男はナイフを振り上げた。
「いい加減にしろよ!」
あ、ヤバイ、私、死にそう。
私は静かに目を閉じた。
悔いはない。
たぶんない。
気になる患者さんはいっぱいいるけど。
あんまりプライベートが充実していたとは言えないけれど。
ワン吉に、告白の返事ができていないけれど。
こんなところでふいに気付いてしまった。
気付くのが遅くてごめん、ワン吉。
私、ワン吉のこと……。
「この……っ!」
次の瞬間、地面が揺れたような衝撃があった。
不意に体が軽くなり、私は目を開けた。
あれ?私、生きてるぞ?
私に突き刺さるはずだったナイフは、地面に転がり、男は気絶していた。
あの振動、そしてこの距離感、そして、その気絶っぷりから、恐らく投げ飛ばされたのだろう。
「大丈夫ですか?」
背後から声をかけられた。
え?まさか、ワン吉?
私は顔をあげた。
あ、違った。
そして、すっごい好青年だ!
笑顔が爽やかだ!
ワン吉よりイケメンだ!
好青年、ワン吉なんかと間違えてごめんね。
ていうか、ワン吉、夜勤だから助けに来られるわけないじゃん!
私の服がびりびりなのに気付いてちょっと顔を赤らめた好青年は、自分のジャケットを私の肩にかけてくれた。
どうやら警察に電話しているらしい好青年を横目でちらりと見た。
ヤバイわこの好青年。
高感度うなぎのぼりだわ。
ワン吉に告白されたのとか、返事してないし、告白した本人が荘ちゃんのことしか考えてないし。
いや、ワン吉は関係ないな。
ワン吉が好きかもとか思いそうになったのは、きっと、吊り橋効果ってやつだ。
あれはノーカウントにしよう。
しばらくして、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
できることならば是非とも、今この場であのレイプ犯を2,3発殴ってやりたかったが、出会ったばかりの好青年がドン引きするといけないので、やめておいた。
犯人はちゃんと警察に身柄を引き渡され、私たちは事件の状況なんかを詳しく聞かれた後、それぞれの帰路についた。
結局、好青年がどこの誰だかさっぱりわからないままだった。
手がかりは、私の手元に残ったジャケットだけ。
でも、あの公園を通り過ぎたってことは……きっとまた、会えるよね。




