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苦悩2

「先生、それ……」

 受付の子が私が手にしているものを見て言った。


「オ●ナミンCですか?」

「オロ●ミンCですよ」


 私は先月学習した。

 これからやってくる二組に対峙するのに必要なのは、一発のファイトではなく、ハツラツな元気だと。


 ……よしっ!

 空き瓶をごみ箱に捨てると私は診察室へと向かった。


 今日は先に、中山さんね。

 私は頬をたたいて気合を入れた。

「次の人、どうぞ」

 よし、来い!中山志乃!


 妊婦よりも先に入ってきた姑は何だか遠巻きだ。

 志乃さん、とのお年にしてやっと、謙虚さというものを覚えていただけましたか?

 やや、うつむき加減になりながら、極力私から視線をそらしながら、中山志乃が口を開いた。


「あの、先生……」

「はい」


 少しの沈黙。

 中山志乃はやはり私から視線をそらしている。


 そして、少し抑えた声で、中山志乃が言った。

「鼻出血を、呈しておられますが……」

 しまった!

 気合入れすぎた!


「お大事にどうぞ」


 お腹の子が順調でよかった。


 ……けど、鼻血って……。

 鼻血って……。


 でももう大丈夫!

 鼻栓したし!

 上からマスクしてるし!


「次の人、どうぞ」

 今日も、川嶋さんの旦那さんは張り切ってついてきていた。


「先生……」

 すごく真剣な顔をして旦那さんが話しかけてきた。

「はい?」

「鼻、どうしたんですか?」


 ……バレてる!


「お大事にどうぞ」

 仲良し夫婦にそう言って手を振った。

 そして、扉が閉じたのを確認して私は慌ててマスクを取った。

 今日の診察はこれで終わりだから大丈夫!

 ほかのスタッフの皆に見つかる前にこの惨状をなんとかしなきゃ!

 それにしても、ハツラツな元気にあやかれなかっただけでなく、まさか鼻血が出るなんて、不覚!


 そして、私がまさに鼻栓を取り始めたその時に、扉が突然開いた。


「せ、先生、何してんの?」

「あ、葵ちゃん……」

 今日診察じゃなかったよね。

 ていうか、先週か先々週の診察、サボったよね。

 何で、今、このタイミングで……。


「そうそう、先生、これ、見て」

 ひとしきり笑い終えた葵ちゃんが、私にあるものを見せてきた。

 妊娠検査キット。

 陽性のしるしが出ている。

「あの、葵ちゃん、これ、持って来たの?」

「あ、でも、そこのトイレからですよ!」

 あの、距離の問題じゃないと思うの。

 距離の問題じゃないと思うの。


 せっかくの記念だからと妊娠検査キット(使用済み)を持って帰ろうとした葵ちゃん夫婦を何とか食い止め、写メで満足してもらった。

 ちゃんと次回の予約はしてあるからと、夫婦はそのまま帰って行った。

 私はずいぶん前に手元に届いていた検査結果を見て、ため息をついた。

 結果:偽陽性。

 それは妊娠検査ではない。

 葵ちゃんのがんのスクリーニング検査の結果だ。

 精密検査を行ってみなければわからない。

 でも、もし、がんが再発していたら……。

 葵ちゃんのお腹の中には新しい命が宿っている可能性も高いというのに……。


 頭を抱えていた私の背後から声がした。

「み、翠先生!?」

 私、鼻栓処理し忘れた?

「妊娠ですか?」

 これは、私の結果ではありません!

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