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第9話 出発の気持ちは分かるけど、出発前にちょっと待ってほしい

ようやく肚兜を決めると、私は手早く荷物をまとめた。



小さく跳ねるような足取りで、

軽やかなメロディーを口ずさむ......。



って、この振る舞いは少し変だわ! 

たぶん昨夜、寝不足だったのね?


私は途中で慌てて気を引き締め、

静かで上品な小股歩きに直して、

屋敷の食堂へ向かった。


普段の私は九時ごろまで寝ている。

だから家の料理人は、

私がいつもより丸々一刻も早く起きてきたのを見て、

驚いたように慌てて声をかけてきた。


「お嬢様、肉まんのご用意ができております! 

今回の生地はとても綺麗に発酵しましたよ!」


料理人の手の中にある、丸くてつやつやした白い肉まん。

薄明かりの中でほのかに輝くそれを見ていると、

さっきまでの陰った気分がすっと晴れていった。


昨夜、料理人に頼み込んで教わった肉まん作り。

生地のこね方や、老麺をどれくらい入れるか。

それに、





かまどで火事を起こさないための注意まで、私は必死に覚えた。





あの苦労も、ようやく報われたのだ。

朝の光が窓の木枠を抜けて、

胸を弾ませる私の顔を明るく照らしていた。


私は持っていく食べ物と布巾、

それに日よけ用の茉莉花の種粉を、

丁寧に布袋へしまった。


そして白い囲い帽を手に取り、

乗り合いの車で壕磨湖へ向かう約束に赴こうとした。


馬車を待つあいだ、

私の心はまるで杜鵑のように木の上まで飛んでいって、

そこで初春の風を好き放題に褒めたたえていた。


「お嬢様、お気をつけください!」


朝筱の慌てた声で、私ははっと我に返った。

危うく正面から来た馬車にぶつかるところだった。


私は慌てて脇の階段へ身を寄せ、

それから驚かせてしまった御者に何度も頭を下げた。

ぶつかったあとのことなら、簡単に想像できる。




嘆かわしい。

莓家の娘、莓侑晴。

前方不注意により路地口で馬車にはねられ死亡。




宮中きっての情報通がいる邸報の社会面では、

きっと分析記事が載るだろう。

親戚や友人、


果ては私ですら知らない人間関係まで掘り起こされるに違いない。


そのうえコラムまで組まれて、

どうして私が馬車にぶつかりにいったのかまで論じられるのだ。


近ごろの若者の管理だの、

国の若者向け心理支援の不足だの。

そんな話まで広がって、

私の脳裏には、梓談の父であり現刑部侍郎でもある袁亮躂の、

あの大柄な姿が浮かんだ。


背筋をぴんと伸ばし、

継父の吉帥尚書に真面目な顔で報告している姿だ。


「君は少し緊張しているようだな」


吉帥はためらいなく指を伸ばし、

そっと亮躂の右のこめかみを揉んだ。

それから間を置かず、今度は額の横あたりまで軽く押さえる。


「本当に申し訳ありません、尚書大人。

部下、気持ちを落ち着けようとしております!」


亮躂はつばを飲み込み、

むしろ余計に緊張しているようだった。


「慌てるな、俺たちは男同士だ......!」


不意に肩をぽんと叩かれ、私はびくりとした。


見ると、

朝筱が心配そうな顔でこちらを見つめていた。


さっき、創作のひらめきが一瞬よぎった気がした。

やっぱり私は、いずれ四大才女になる人間なのだろう。

でも今は、これからの集まりに意識を向けなくては!


「お嬢様、よだれが......」


「えっ?」


私は慌てて口元を押さえ、

すぐに朝筱の手から青緑色の布巾を受け取って、

口元を拭った。


才女として、私だって国の政策には関心がある。

あの時も私は邸報を手に、

梓談と話し合っていたのだ。

どんな心の支えの制度が、

私たち若者に向いているのかと。


「男の子は女の子より孤独になりやすいし、

二人一組で一緒に暮らせば、

まず同性同士の摩擦への対処を学べると思うの!」


だって私たち女の子は、

お手洗いに行くのだって連れ立って行く。


なのに男の子は、

食事ですらそれぞれの席で黙々と食べて、

食べ終わってからようやく誰かと教室を出ていくように見える。


交流があまりにも少なすぎるのだ。


「出発の気持ちは分かるけど、

出発する前にもう少し待ったほうがいいわね!」


あの時、私の先見の明ある結論に梓談はうんうんと頷いていた。

そこへ引き寄せられるようにやって来た艾碧落が、

すぐに意見をくれたのも覚えている。


まずい、また考えが先へ飛びすぎたわ。


とにかく、もし私に何かあったら、

邸報のあの老いた鶴たちはきっと大騒ぎする。


下手をすれば東方の神秘の力がどうこうだの、

国が乱れるだの、

若者の自壊の風潮だの、そんな話まで持ち出しかねない。


乱れた服を整え、私は布袋をぎゅっと握りしめながら、

注意深く馬車の踏み台に足をかけた。


ひと刻ほど経っても、体はまだ揺れを覚えていた。

馬車を降りたあと、私はその場で少し立ち止まる。


吐き気のような感覚がまだ残っていたけれど、

早く上品な淑女の姿に戻らなくては。


絶対に吐くわけにはいかない。


ようやく少し楽になってきて、

私は無事に壕磨湖のそばの東屋で、梓談と艾碧落に合流した。


壕磨湖へ向かう前に、

私たちはまず檜造りで衛士が管理している更衣室へ寄り、

そこで水遊び用の衣装に着替えた。


「……あれは、楠祝 師兄(しけい)?」


先に着替え終えて更衣室の外に出た私は、

反対側の男子更衣室のほうに見覚えのある背中を見つけた。

彼は衛士のそばに立ち、

何か身振りを交えて話している。


禎家の長男である楠祝が泳げないことは、

私も覚えている。


以前、その写真が邸報の生活欄に載っていて、

泳げなくても楽しく涼を取る方法が話題になっていたのだ。


でも、そんな彼がここにいるのは、

地形の下調べでもしに来たのだろうか。

ああいう若者支援の政策って、

前にけっこう面白い構想案をいろいろ見たことがあるんですよね。

みなさんは、特に印象に残っているものってありますか?

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