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第5話 大文豪にも、小さな悩みはある。

別連載中の小説の外伝を、こっそり紛れ込ませました。

ちゃんと物語の中に溶け込んでいますよね?(笑)

陽光は時間とともに、褐色の木窓をゆっくりと移ろう。


嬉しげな光は詩詞解析の授業という影に呑まれ、窓枠の隅へ沈んでいた。


原因は明白だ。

なぜ、上に並ぶ文字は一つ一つ読めるのに、

組み合わさると理解不能な異国の言葉になるんだ?


「闇夜尓 鳴奈流鶴之。

侑晴! 

次を読め。」


教師は白い髭を撫でながら、年老いた鶴のような乱れ髪を揺らし、ゆったりと講堂の前を歩く。


「はい、先生。」


私は深く息を吸い、以前叩き込まれた不自然な抑揚で、机上の紙を見つめる。


無機質な古鐘のように規則正しく読み上げた。


「外耳 聞乍可将有 相跡羽奈之尓。」


読み終えた瞬間、解析を求められると悟る。

教師の視線は鋭い鶴の嘴のように、誤りという肉を探している。


文学に自信を持っていた私の矜持は、白熱したその色に啄まれ、灰となって散りそうだった。


「先生、僕は意味が分かります!」


目の前の老いぼれ鶴……違う。

俺たちの先生が口を開く前に、明るい声が飛び込んできた。


顔を上げると、金色の短髪が目に入る。

まるで分厚い木窓の隙間を突き破って差し込む陽光みたいに、きらりと光った。


黄翼鷹の自信満々な整った顔を見た瞬間、なぜか胸の奥がふっと軽くなる。


「これは、君子が好きな女性を前に、追いかけたいのに積極的になれず、

便りを待つだけで、夜に眠れなくなる話です!」


早朝の竹林に杜鵑が一声放ち、それを合図に群鳥が一斉に鳴き出すような勢いだった。


教室には同級生の笑い声が広がり、先生の呆れた溜め息が重なる。

言い終えた黄翼鷹は、何事もなかったように席へ座った。


やがて休み時間を告げる鐘が鳴る。

胸の内に渦巻いていた戸惑いと緊張も、詩詞解析の授業とともに、静かにほどけていった。


私は書くことが好きで、クラスの女子三人と秘密の文芸部を結成した。

目標は、学内で刊行物を出すこと。


この学校には「四大才女」と呼ばれる存在がいる。

それぞれが四人の継承者、「準四大才女」を選ぶ。

さらに準四大才女が、それぞれ四人の「予備才女」を選ぶ。


私はすでに予備才女だ。

だから、言葉を扱うことには自信がある。


それなのに。

私だって立派な文豪のはずなのに、古文だけはどうにもならない?


まさか……これが時代の断絶ってやつ?


悪いけど、古の作者たち。

あなたたちの文章は、時代という砂浜に沈んでもらう。


「侑晴、今回は何を書くの? 

私はね、家の近くのグルメを詩にしようかな!」


授業後、梓談がこちらへ歩いてくる。

鵝黄色の絹の上衣が風に揺れ、今にも散りそうな雛菊みたいだった。


「梓談、私は今回は『匂い』をテーマにした小話を書くよ!」


私は素早く原稿を取り出す。

準四大才女の筆頭で、そして私の親友でもある梓談に、真っ先に読んでもらうために。


「『匂い』の小話?」

梓談は少し眉を寄せ、どこか寂しそうな顔をした。


私の手にある原稿は、空中で止まる。

「ごめん、梓談。もし合わないなら、書き直すよ……。」


「大丈夫だよ、侑晴。準才女の筆頭である私が、ちゃんと広めるから。」


私は梓談の実行力を本当に尊敬している。


彼女の父、亮躂が多額の寄付をして、才女たちの休憩室を改装したのだ。

四大才女と準四大才女は、投票で梓談に票を入れた。


その八票は、彼女が校内の文学風潮に尽くした証。

もし四大才女の筆頭が投票できたなら、侑晴は九票だったはず。


だから侑晴が準四大才女の筆頭なのは、まさに当然だ。

この説明をすると、制度を知らない人はたいてい混乱する。

私は文学だけでなく、基礎的な算術もできる。


四大才女四人と準四大才女四人で、合計八人。


確かに四大才女の筆頭の一票は含まれていない。

それでも相手が首を傾げると、さらに説明するしかない。

四大才女の筆頭。


だから四大才女の「四」には含まれない。

ここまで言わないと分からないものなのだろうか。


「登場人物は、とある国で名高い総理・義公。そして戦功赫々たる大将軍・狩犁。

二人は生死を共にした親友。物語は、幾多の激動を越えたあとの、引退後の日常を描くの。」


私はゆっくりと読み上げ始めた。


「義公の白い身体は、黒い浴槽の中で角閃石のようにほのかに光る。

下半身は仔魅花を浮かべた湯に沈め、清らかな石鹸の香りを楽しんでいる。

淡紫のタオルが、疲れた背をやさしく拭う。

香櫻麗の檀香は蒸気に溶け、いつまでも室内に漂っていた……。」


「架空の話っぽいけど、香りの描写がすごく細かいね。」


「でしょ?」


自信たっぷりにうなずく私。

梓談はページをめくりながら読み進め、ふいに眉をひそめた。

同じ一節を、何度も往復している。


どうやら、私がいちばん自信を持っているあの描写に辿り着いたらしい。

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