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第14話 錦崇という人、別院の石より硬すぎない?

「起きたわよ! 

小羽......。 

これ以上叩いたら扉が壊れるわ!」


まどろみの中で、

私の部屋の木の扉が一人の殺し屋になっていた。

右手には黄ばんだ紙を持っていて、

私に不意打ちを仕掛けようとしてくる。


その人が近づくと、

手にしていた紙は短剣へと変わった。

胸に突き立てられそうになったその瞬間、


小羽は、

まるで私という刺客頭の腹心であるかのように現れた。

彼女は音もなく樟の木の敷居を越え、

素早く相手の右脚の脛を蹴る。


相手が状況を理解する前に、

右手を逆手に取って拘束した。


相手が跪いてもがいた拍子に、

黒い蒙面代わりの粗布が剥がれる。


そこで私は、

その人物が整った顔立ちをしていることに気づいた。


そして......

止める間もなく、小羽はその相手の胸に向かって、

石工の鑿で次々と穴を穿っていった。


「うわぁ!」


飛び散る血は、

散っていく桃の花びらみたいに部屋中へ降りかかった。


相手の顔が真っ白に血の気を失ったのを見た瞬間、

小羽がすぐそばに寄ってきて、

私の視界を手で覆った。


扉を叩く音が止み、

私はもう一度目を開けた。

視線はすぐに部屋の天井へ引き戻される。


鴛鴦の絵は相変わらず生気がなく、

けれど樫の窓枠からは金色の光が差し込み、

目の前の灰白色の石床を、

格子状の斜めの線で照らしていた。


私が白い羽毛布団をはねのけ、

慌てて上体を起こしたところで、

今日はとても大事な日だと思い出した。



霜梧慶(ソウ ゴケイ)将軍は、

北方国境を侵していた雪彦一族を三年かけて平定した。



そして今日は凱旋大典の日。

皇帝自ら、

平定の過程で功績を立てた将兵たちを召し上げることになっている。


「今日って、祭天の儀式のあとのお菓子が出るんでしょう! 

父上、



何人前か多めにもらってきてくれない?」




私は食堂の木椅子に腰かけたまま、

両足で軽やかに床を交互に踏んだ。


私の願いを聞いた父の亮躂は、

後ろ首に手をやってから、白い平頭巾の後ろを整える。


父は黒い目を細めて私を見つめた。

その視線を受けながら、

私は自分の心臓の音がやけに大きく響くのを感じていた。


「梓談、

本当に父母と一緒に凱旋大典へ行かぬのか? 


最近、

黄錦崇は大典で皇威を示す役目があって、

礼官の蘭勁文(ラン ジンブン)のもとで懸命に稽古しておる。


父はな、お前が顔を見せれば、

錦崇ももっと自信が出ると思うのだが。」


父はしばらく考え込んだあと、

大典が開かれる場所の見取り図を取り出した。


「それから菓子の件だが、

父はこの場所でお前の母を引き止めておく!」


父は地図の一角を指で叩く。


「その間にお前はここを抜けて、

菓子のある区画へ向かえ。


二十分あれば、布で包んで持ち出せるはずだ。


もし時間が足りなそうなら、

天福にこの道を通るよう頼め。

お前の母 忠楽郡主(チュウラクグンシュ)に会えば、

住まいや暮らし向きのことをあれこれ気にして話し込むだろう。


そうなれば、さらに二十分は稼げるはずだ。」


「父上、それはだめです!


壕磨湖の件は、もう翼鷹殿下と約束しておりますし、

それにこれは大学院の課題にも関わることなのです。


やはり班の仲が良ければ、

共同課題も進めやすくなりますもの。

ですから、

私は今回の集まりに行きたいのです!」


「そうか。

だが、黄錦崇にはもう話したのか?

あやつも少しは傷ついておるのではないか?」


「はい! 

でも......楽しんでこいと、

それだけでした!」


私がうつむいたまま何とも言えない顔をすると、

父は横顔に苦笑を浮かべた。


そして背筋を伸ばし、

青藍色の木綿の袴を軽く払った。

私の視線は床の赤い菱形模様の上をぐるぐるとさまよう。


そうしているうちに顔を上げると、

まるで錦崇が目の前にいるような気がした。


半江園の庭では、

夜八つ時の風が薄い毛布のように私の手のひらを撫でていく。


私は伏せた猫の形をした玉石像のそばにこっそり寄りかかり、

少し離れた場所にいる錦崇を見つめていた。


彼は最後の一言を力を込めて言い終えると、

少し眉を寄せ、

時おり左手で右の天青色の袖を引いていた。


「こんばんは、錦崇は何をしているの?」


「あっ! 娘子、

僕は明日の大典で奏上する祝詞を暗誦していたんだ。

娘子が様子を見に来てくれて、

とても嬉しいよ!」


月の光が錦崇のそばの玉石を滑るように移り、

丸石の上にある鼠の形をした玉像は夜空を仰いでいた。


冷ややかな光は、

最後に彼の天青色の長衫の上で静かに留まる。


彼の青い瞳は、

風砂をかぶった孔雀青の宝石のようで、

口元はどうしても下がっていた。


「錦崇、そんなに緊張しないで!

あなたの演説も立ち居振る舞いも、

とても自然で、

まるで幾筋もの大河みたいだったわ!


皇上は表情こそ厳しいけれど、

その内容に心を動かされて、口元に少し笑みを浮かべる。

私はそんなふうに思うの!」


皇上のあの褐色の瞳は、

いつもどこか冷ややかに見える。

けれど錦崇の演説は、

皇帝の側近である礼官の 蘭勁文ラン ジンウェンにまで高く評価されていた。


だから皇上も、きっと嫌には思わないはずだ。


「僕もそうであってほしいよ。

でも……僕は亡き兄上には及ばない。

はぁ……。


このままでは……大河も寒風で凍りついてしまうかもしれない。」


「錦崇、これを覚えてる?」


私は握っていた手を差し出した。

錦崇の視線が、私の小指にはまった、

白の中に青緑を帯びた玉の扳指に落ちる。


「覚えているよ。あの時、

娘子は泰山(父上)とともに東の京へ五日ほど行くことになっていて、

あちらの風土を案じていた。

行くべきか迷って、

僕のところへ話しに来たんだ。」


「そうよ。

あの時、

あなたが言ってくれたでしょう。


『庭中有玉、天潢之子。天潢之子、我に暖星を遺す』って。」


錦崇は私の握った手をじっと見つめていた。

私は手首をくるりと回し、

彼の目の前でそっと手のひらを開く。


そこには、米色の和田玉の鉤が載っていた。


「だから錦崇も忘れないで。


『庭中有玉、天潢之子。天潢之子、我は暖星に応う』よ!」


「僕、覚えておくよ!」


錦崇は右手を伸ばして私の手の中の玉鉤を受け取ると、

袖口から青い布を取り出し、

それで丁寧に包んで袖の中へしまった。

古風の詩詞がとても好きなので、読了後に何かご意見やご感想がありましたら、

ぜひコメントでお聞かせください。

皆さまの評価やブックマークが、何よりの励みになっております。心より感謝申し上げます。


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