第13話 黄色って、人の心まで奪ってしまうの?
星御 師姐が深く息を吸い込み、
やわらかな眼差しで改めて楠祝を見つめるのが、
私にははっきり聞こえた。
楠祝は大きく手を振り、
体にこもった熱を追い払おうとしている。
「楠祝、ここの湖面は青くて穏やかですし、
今は木陰の下なら気温もちょうどいいですわ。
今日はここで、
湖辺の景色を楽しみませんか?」
「星御、木陰があろうがなかろうが、
ここは暑すぎる。
こんな場所に長くいたら、君は熱中症になるぞ!
君に深い考えがないのは分かってるけど、
ここは蚊や虫も多い。
刺されて具合が悪くなったらどうするんだ?
早く離れよう! 上には星亭があって、そこからでも湖は見える!」
「星御師姐って、そんなにか弱かったっけ?」
さっきまで師姐はずいぶん楽しそうに遊んでいたのに、
今は急にこんなに上品で、まるで別人みたいだ。
私は小声で疑問をこぼした。
数歩先にいた翼鷹は眉を上げ、
少し離れた場所にいた児墨は右手で口元を覆っている。
みんな、
楠祝が真剣な顔でぎこちなく手足を振っているのを見ていた。
星御師姐は私の目の前で、
白い肚兜の端を手でつまみ、
それからそっと手を離した。
さらに頭から囲い帽を外していく。
「私は水遊びがしたいの、
楠祝!
だからあなたは木陰で少し休んでいて。
私たちはそのあとで、別の場所に行きましょう!」
「は? えっ?
ああ、
わかった!
星御、その肚兜すごく似合ってるぞ!
うちの新しい白青磁の壺より白いくらいだ!
それに、僕が贈ったその囲い帽もすごく似合ってる!
うちの白磁の皿より白いと思う!
いや、外すなって、
日焼けするぞ!」
楠祝は、星御の表情が曇ったことに気づいたらしい。
深く息を吸い、周囲を見回してから、翼鷹のほうを一度見た。
「君をここに呼ぶなんて、
やっぱりよくない。
浅瀬で水遊びなんてしたら、
足を滑らせて大怪我をするかもしれない。
そんなことになったら、僕はつらい!
本当にそういう格好をしたいなら、家の中で着ればいいだろう......。」
俗世から切り離されたような顔をしていた霜参仁が、
その瞬間だけはっと現実に引き戻され、
目を見開いて楠祝を見つめた。
碧落のクールな表情にも、
わずかに驚きが混じる。
両手の拳は強く握りしめられ、
血の気のある拳が少し白くなっているのが見えた。
「楠祝って猿なの?
人の言葉が通じないの?」
私はわずかに口を開き、
碧落の怒りに何か返そうとした。
けれど今この場でどんな言葉を重ねても、
結局は同じたとえに行き着く気がした。
みんなの視線が、
この猿みたいな男に集まっていた……楠祝は、
いったいまだ何をするつもりなの?
楠祝は何かに気づいたように目を見開き、
慌てて星御の手から銅の箱を奪い取ると、
そのまままた大声を張り上げた。
「君たち、
まさか星御にこんな不衛生なものを食べさせるつもりか?
僕の婚約者が腹を壊したらどうする!
しかもこいつ、
この前は僕に怪我までさせたんだ。
皇子だからって何でも許されると思うなよ、
翼鷹!
必ず君の母后に言いつけてやる!」
楠祝は得意げに、
首筋の脇にある指ほどの大きさの痣を指さした。
星御は視線をこちらへ向け、
申し訳なさと困惑が入り混じったような表情を浮かべている。
梓談は少ししょんぼりした顔になっていた。
さっき小さなフォークを持って伸ばしていた手は、
今もまだ宙に浮いたままだ。
「楠祝、私……今は少しつらいの。
少しだけ静かにしてもらえる?」
「どうして? 星御、何がそんなにつらいんだ?
静かにしたって暑さは解決しないだろ?
僕は君のことを心配してるんだぞ!」
私たちの視線は、みんな一斉に星御へ向いた。
桃色の髪が、彼女の顔を少し隠している。
星御はしばらく黙り込み、
何度も唇をきゅっと結んだ。
それから、
ついに何かを言おうと決めたみたいに息を吸う。
その瞬間、勢いのある声が割り込んできた。
「それは僕が食べるつもりだったんだ!
どうして全部持っていくんだ!
言いたいなら勝手に言え!
僕は止めないぞ!」
翼鷹は一瞬で楠祝のそばまで駆け寄ると、
彼の手から箱を奪い返し、そのまま小さな欠片を一つ刺して、
ぱくりと口に入れた。
「やわらかいな!
でも僕は味重視なんだ!
甘酸っぱくて、
なかなか美味しいぞ!
こんなに状態がきれいなのに、
腹なんて壊すわけないだろう!」
翼鷹のほうから、
心地よい涼風がふっと私たちのそばを吹き抜けた。
その風は星御師姐にも届き、
淡い桃色のもつれた長髪をやさしくほどいていく。
星御師姐の表情にはさまざまな感情が浮かんでいたけれど、
それは少しずつ、
一つのあたたかな微笑みに収まっていった。
夏は相変わらず暑い。
それなのに、
不意に吹いたこの涼風のせいか、
もうさっきまでのような苛立ちは感じなかった。
まさかここまで読んでいただけるとは思いませんでした。
それでは次章は、
超イケメンな金髪の黄翼鷹を主役にして、続きをお届けします!
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