表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/14

第12話 夏の風が、景色から暑さを少しさらってくれた

翼鷹は肉まんを食べ終えると、

脇の布袋からハンカチを取り出して口元を拭き、

それから声を上げた。


「そうだ! 梓談、星御 師姐(しし)、侑晴、碧落!

少し暑いし、喉も渇くだろう?

僕は人に頼んで青銅の保冷棚を運ばせておいたんだ。

冷えた梅水が飲めるぞ!」


黄翼鷹が、金の紋様が入った青銅の棚を指さし、

自ら扉を開ける。


咲きこぼれる紫陽花のように美しい青い瞳が、

まっすぐ私へ向けられた。


その真剣な眼差しは、

名もない蕾の花を見つめているみたいだった。


そして私の目もまた、

夏の日差しが幾重もの木陰を抜けて、

露に濡れた草の上で輝くみたいに、

きらきらしていた。


私たちは木陰で休みながら息を整え、笑い合っていた。

翼鷹は気楽な様子で体に合った青緑の短ズボンを整え、

蘭児墨を呼び、ぼんやりしていた霜参仁の肩に手を置いて、

一緒に梅水を飲もうと誘う。


彼が伸ばした日に焼けた腕は、

白樺の太い幹がまっすぐ伸びたようにたくましく、

落ち着いた手つきで棚の中から金色の瑠璃瓶を一本ずつ取り出していった。


それを私の手に渡された瞬間、

ひんやりした感触が手の中でくるくると回った。


「ありがとうございます、六皇子殿下!

殿下のお持ちになった飲み物、とても美味しそうです!」


私は何も考えずに中身を注ぎ、

琥珀色の梅水で満たされた磁器の杯を手にして、

そっと立ちのぼる熟成した甘い香りを嗅いだ。


翼鷹は手を止め、唇を軽く引き結ぶと、

慌てることなく右手を胸に当てた。


「侑晴は今も僕を翼鷹ではなく、

そう呼ぶのか?

僕たちは皆、太学園の学友だろう?」


「えっ? ……はい! ご、ごめん!」


私は、自分が庭に迷い込んだ杜鵑みたいに思えた。

しかも身分ある人に向かって鳴いてしまったのだから、

きっと眉をひそめさせてしまっただろう。


「だって……僕は、みんなと距離を置きたくないの!

でも、そっちの呼び方のほうが慣れてるなら、それでも大丈夫だよ!」

陽だまりのような淡い金色が、翼鷹の晴れやかな笑顔をやさしく染めていた。


春風までその金色をまとったみたいに、

緊張した私の表情をそっと撫でていく。

彼の声は、どんどんと鳴る太鼓みたいだった。


いや、その音はきっと私の心臓の鼓動だ。

私は磁器の杯を草の上の四角い低い木机に置き、

思わず両手で少し赤くなった頬に触れた。


うつむくと、地面の蟻たちまで二匹ずつ寄り添って踊っているように見える。

自由に空を飛ぶ杜鵑である私は、あの白樺の幹にとまってみたいと思ってしまう。


きっと騒がしくしても、

その木は静かに耳を傾けてくれると分かっているからだろう。

心の中でそう呟いたあと、私は小さく息をついた。

翼鷹はそのまま私の後ろにいる星御先輩のほうへ向かい、

瑠璃の瓶に白い布を丁寧に巻いた。


「先輩は何か食べ物を用意してきたのか?

包丁には気をつけろよ!」


星御 師姐(しし)はそれを聞いて静かにうつむき、

翼鷹から受け取った瓶をゆっくり抱えた。


上にかけられていた布を外して、

飲み物を磁器の杯に注ぐ。


「砂糖漬けにしようと思って、

スターフルーツを切ってみたの。

ちょっと不器用で、あはは!

食感もやわらかいし、

たぶん干し足りなかったんだと思う。


みんなが気にしないなら、いくつか食べてみて!」


師姐(しし)はそっと脇の布袋から、

蓮の模様が入った銅の箱を取り出した。


それは星御 師姐(しし)の家の家紋だった。

私は前に、雨乞いの祈福の儀式で見たことがある。


あの家は天象の観測と祭祀を司る家系で、

今では皇族に関わるさまざまな儀式も任されている。


銅の箱の中には、

大きさの揃っていないスターフルーツの欠片が入っていた。

中には角にもう一度刃が入ってしまった跡が残っているものもあって、

少しいびつな茶色い星のように見える。


食べようか迷っていると、梓談がすぐに身を寄せ、

小さなフォークで一つ刺して味見しようとした。


「星御、はぁっ……待ってくれ!

君の最強の婚約者、

この禎楠祝が迎えに来たぞ!」


よく通る男の声が、

林の向こうからこちらまで響いてきた。

私たちは揃ってその方向を振り向き、声の主を見る。


禎楠祝は右手で薄灰色の上着の襟を引き、

もう片方の手を腰に当てながら、懸命に茂みをかき分けていた。


少しなだらかな斜面に足を乗せると、

すぐに小走りでこちらへやって来る。


「この野郎、翼鷹! 星御をこんな場所に連れて来るなんて!

僕が気づかないとでも思ったのか!

星御、もっと景色のいい場所へ行こう!」


「僕は君にも一緒に来るよう誘ったはずだぞ!」


楠祝師兄は眉をひそめたまま、まっすぐ星御 師姐(しし)のそばまで歩いていった。


星御 師姐(しし)は顔を上げ、やわらかな笑みでみんなを見渡す。


けれど次の瞬間、ほんの少しだけ口元が下がり、

そのまま楠祝師兄から距離を取るように数歩離れた。


それが、なんだか少し……変に思えた。


もしかして星御師姐は、

楠祝師兄について行くのが嫌なのだろうか。


こんなことを考えるなんて淑女らしくないとは分かっている。


でも、もし本当にあの二人がここを離れるなら、

私は翼鷹と二人きりになれるのだろうか。

私は、あんまり気が強すぎるタイプは好きじゃない。

でも、そういうのが刺さる読者もいるのかもしれないし、

誰にも分からないよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ