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傭兵マドゥ

俺はマドゥ、

今は修理稼業でマドゥ親方と言われとる。

昔は傭兵をしていた。

足のケガが原因で、現役を引退してもうた。

当時の仲間は、みんな逝っちまった。

足のケガがなければ、俺ももうこの世にはいないやろう。


ずいぶん人を手にかけた。


何人かはわからへん。

50人までは数えとったけど、

頭がおかしくなりそうやったから、

数えるのはやめた。


それが仕事とはいえ、

やらないほうが良い仕事だったと思う。

後悔はしてねぇが、自分の過去に誇りはもたれへん。


今ティコという孤児を弟子にした。

孤児を見ると、胸の奥が痛くなる。

俺が手にかけた、

敵兵も父親だったのかもしれねぇと。

そう思うんや。


世界や人や幸せを崩壊させていた男が、

修理を行っている。

ずいぶん因果なことだと、我ながら笑える。


一生懸命働くティコを見てると、

自分の人生もやり直せるんじゃねぇかと、

そう思う。


ずっと一人だった。

その空間に小さいガキが入り込んだ。

暇つぶしだったと思うが、

ティコがいない今がとても寂しい。


村長がやってきて、ティコに仕事の依頼があったと言うんや。

正直腹がたって、村長を殴ったろうかと思った。

なんで腹がたったんやろな。

弟子の成長が誇らしくないんかな。

妬いとるんかな。


ようわからんかった。


まぁ村長に

「ずっと、側におけるわけやないんやし、独立させる事も考えて、仕事を受ける訓練はさせたほうが良いぞ」

と言われて、俺は何も言い返せへんかった。


なんやろ。

……子供ができたみたいで、嬉しかったんかな。

それが巣立ちするみたいで、怖いんかな。


……


「親方!ただいま戻りました」

とティコの声がする。


おぉティコが帰ってきたやんけ。

顔が緩む。

あかん、あかん。

ここは親方らしく、威厳を持たさんと。


「おぉ。帰ったか。ご苦労やったな」

と俺は答えた。


「親方。すまんなぁ。ムリ言って、これが井戸の修理代金や、そしてこっちがティコが受けた修理代金」

と村長は言った。


ちょっと待て、ティコが受けた修理代金の方が大きいやんけ。


「わかった。ありがとうな」

と俺は答えた。


「ティコにムリ言うたのは。村のほうやから、怒らんとってくれな。

親方の事すごい気にしとったんやから」

と村長は言った。


俺はティコをちらっと見る。

緊張しとるな。

まぁムリもないわ。

追い出される可能性だってあるもんな。


「すんません。勝手なことして」

とティコは頭を下げた。


「じゃあ俺は行くから、怒るなよ」

と村長は言い、帰っていった。


いや……、

どないしよ。

どう言うと、良い親方や。

考えろ。考えろ。


「あのな……、お前がおらんかったら、部屋が少し寒いねん」

と俺は言った。


「薪足りてなかったですか」

とティコは尋ねた。


「いや、薪は足りてんねんけどな。ほら人がおらんくなったら、急に寒くなるやん」

と俺は言った。


「そうですね」

とティコは答えた。


「だから、ここ居れよ」

と俺は言った。


「親方さえよければ、ずっといます」

とティコは答えた。


俺はその言葉がうれしくなった。


「なんかな。親方がいうのもなんやけどな。お前おらんかったら、ちょっと調子狂うねん。わかるか」

と俺は尋ねた。


「俺も村での生活。調子狂いました」

とティコは答えた。


「なんやお前もか。そうか、そうか……、それでどうなってん」

と俺は尋ねた。


ティコは経緯を説明しだした。


「それで、孤児はお金がないので、代わりにこれも貰ったんですよ」

とティコは、糸切ハサミを差し出した。


「錆びとるけど、悪くないハサミやな。

磨いたら十分使えるわ」

と俺は答えた。


「じゃあ磨いて、古道具屋に売りに行って、その代金を親方に支払います」

とティコは言った。


「なんでなん。お前がもっとけや」

と俺は答えた。


「親方の信用があって、仕事が受けれたんです。この代金は親方のものです」

とティコは言った。


なんや。このガキ。

めちゃくちゃ筋が通っとるやんけ。


「ちょっと待て、この井戸の修理代金は俺が貰っとくけど、この壁の修理代金はどうするつもりやったんや」

と俺は尋ねた。


「そんなん。親方のモノですわ」

とティコは言った。


えっ何このガキ。

何割よこせとか言わんのか。

まぁいい。大人なところ見せて、じゃあ半分お前にやるわ。

と言っておこう。


「わかった、まぁでも半分お前にやるわ」

と俺は言った。


「ダメです。ダメです。そんなん、俺、親方に黙って勝手に仕事を受けて、それで殴られてもおかしくないのに、お金半分まで貰ったら、ダメです。

堪忍してください」

とティコは頭を下げた。


美味しい話やのに、なんで辞退するんやろ。

あぁ、そうか、事情持ちやからやろな。

怖いんやろ。


「じゃあ2割やるわ」

と俺は言った。


「ほんま堪忍してください」

とティコは頭を下げた。


俺は金の入った袋の重みを手で確かめる。


「わかった。しかしな、これで全部取ったら、俺の名が泣く。1割は受け取れ」

と俺は言った。


「わかりました。じゃあ1割いただきます」

とティコは頭を下げた。


俺は金を分配しはじめた。

そして袋にいれ、ティコに渡した。


「これがお前の取り分や」

と俺は言った。



「ありがとうございます」

とティコは頭を下げた。


「なんに使う?お菓子でも買うか」

と俺は言った。


「中古の道具屋に行って、自分の道具を買います」

とティコは答えた。


「そんなん。俺のお古やるで」

と俺は言った。


「見せてもらえますか?」

とティコは答えた。


俺は昔に使っていた道具を見せる。


「これお前にやるわ」

と俺は言った。


「ダメです。ダメです。こんな高価なもの貰えません。この金で売ってください」

とティコは、渡した金をそのまま差し出した。


俺は考えた。

こいつは、素直に受け取らん。

あげても良いけど、

こいつのルールに乗ったろう。

俺が損するわけでもないし。

こいつが損するわけでもない。


「わかった。じゃあ古道具屋より、少し安く売ったるわ。それでええか?」

と俺は答えた。


「めちゃくちゃウレシイです」

とティコは満面の笑顔を見せた。


俺はその笑顔に、

しゃーないなと、

そういう気分になった。



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