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複利の魔法

受付の男は書類を確認する。


「あとは、この書類を読んで、ここにサインや。ティコ、お前字は読めるか」

と受付の男は尋ねた。


「やってみます」

と俺は書類を受け取り読みだした。

契約書はちゃんと読まないといけないと、元教員に教わった。

俺は契約書を隅々まで読む。

大丈夫そうだ。


「お前……、慎重やの」

と親方は笑った。


「マドゥも、この子の慎重さを見習わんとな。

お前が来た時、全然読んでへんかったやんけ」

と受付の男は笑った。


「アホ。このギルドやったら大丈夫やと。信頼しとったんやんけ」

と親方は言った。


「まぁ信頼してくれるんは、ありがたいけどな。書類はちゃんと読めよ」

と受付の男は、親方の肩を叩いた。


「すんません。俺が読むの苦手なばっかりに」

と俺は頭をかいた。


「気にするな。たしかに俺も見習うところあるからな」

と親方は言った。


受付の男は他の職員に話している。

どうも身分証を作る作業を指示しているようだ。


「それで、あとしばらく待ってくれたら、身分証はできるけど、他になんかあるか?」

と受付の男は尋ねた。


「ティコが銀行機能について知りたいそうや」

と親方は言った。


「……そうか。銀行やったら、お金預けると金利がつくけど、なにが知りたい」

と受付の男は尋ねた。


「金利はいくらつくんですか?」

と俺は言った。


受付の男は壁の数字を指す。

『年に5%』


「年に5%もつくんですか」

と俺は尋ねた。


「お前計算わかるんか」

と親方は言った。


「珍しいな。じゃあ100G預けたとしたら、1年後にはいくらになってるかわかるか?」

と受付の男は尋ねた。


「金利が5Gなので、100G+5Gで105Gですか?」

と俺は答えた。


「おぉそうやな」

と親方は言った。


「そうや。そうや。じゃあ2年後にはどうなるかわかるか?」

と受付の男はニヤニヤしている。


「110.25Gです」

と俺は答えた。


「ちょっと待て。それは違う。110Gや。なんや0.25Gは」

と親方は言った。


「ティコ。お前よう知っとるな。説明してみ」

と受付の男は身を乗り出した。


「まず1年目に105Gになりました。2年目はこの105Gを預ける事になりますから、105Gの5%という事で、5.25Gが足されます。ですから110.25Gです」

と俺は答えた。


「お前なんでその計算やと思ったんや」

と親方は尋ねた。


「ほんまや。なんで見抜いた」

と受付の男は言った。


「そこに複利と書いてあります」

と俺は答えた。


「複利ってなんや」

と親方は尋ねた。


「それは俺が答えたろ。単利と複利というのがあってな。マドゥの言った計算は、単利計算や。でもうちの銀行は複利計算や。だからティコが正解や」

と受付の男は笑った。


「そうか。そうか。俺は見落としてただけやな。ティコはほんま細かい事に気付きよる。良い弟子や」

と親方は笑った。


「それでどうや。今日は金を預けていくか」

と受付の男は言った。


「親方さえよければ、今持ってる3G預けたいです」

と俺は答えた。


「そんなもん良いに決まっとるやろ。お前の夢やねんもんな。そうやな。俺も50G預けとくは」

と親方は言った。


「まいどあり」

と受付の男は笑った。


男は通帳を作り、俺に手渡した。

マドゥ親方は持ってきた通帳に金額を記入してもらっていた。


「なぁティコ、この50Gな、5年後にはいくらになってるんや」

と親方は言った。


俺は紙とペンを貸してもらい計算する。


「63.81Gです」

と俺は答えた。


「そんなに増えるんか……」

と親方はボーっとしている。


「どうや。貯金に目覚めたか」

と受付の男は笑った。


「ティコが言うとった。魔法やと。ほんまに魔法やな」

と親方は言った。


「そうや。これが複利の魔法や。

なんかな、貴族とか金持ちは、だいたいこの複利の魔法で豊かになっていくらしいで」

と受付の男は俺の肩を叩いた。


複利の魔法。

それは俺にとって、

甘美な香りがした。


「職人は複利の魔法を、使ってはいけないでしょうか」

と俺は尋ねた。


「使ったら良い。お前は職人を誤解しとる。良い職人は宵越しの金は持たないとかいうけどな。

良い職人は、道具を上手く使いよる。

この複利の魔法もな。職人ギルドの銀行という道具の一つや。

逆にいうとな、職人たるもの。道具を上手く使わんと、一人前やと言われへん。

だからな。どんどん使え。俺もいままで、使わんかった分、使い倒してやるわ」

と親方は笑った。


マドゥ親方の一言に、

ギルドに来ていた客が反応している。


(俺も預けるわ。俺も…)

そうやって数名が、銀行に金を預けるために並んだ。


「マドゥ……、お前ほんまに変わったのぉ」

と受付の男は笑った。


「じゃあ。用も済んだし帰るで」

と親方は手をあげた。


俺は深く礼をして、親方についていく。


俺は前世で手に入らなかった夢を、

ここで三つも叶えた。

身分証と通帳。

そして複利の魔法。


勉強は続けていたが、

決して実を結ぶことのない人生。


それが刺されて亡くなった事で、

手に入れる事ができた。


……実を結ぶことができる人生を。


一歩一歩、歩いて行こう。

時間がかかってもいい。

道に迷っても良い。

一歩一歩、歩いて行こう。


そう思った。


親方は、

露店でパンと、串焼きを買ってくれた。

串焼きは、はじめて食べたが美味かった。

香辛料がたっぷりかけられていたが、

少しニオイのきつい肉だった。

冷凍技術がないから、すぐに肉が腐敗するのだろう。

パンはいつものものより、柔らかかった。


帰りの荷馬車に揺れながら、俺は親方を見ていた。

その肩には三角形の中に、ドラゴンのような形の、

真っ黒な刺青が入っていた。


「これが気になるんか」

と俺の視線に気が付いた親方は言った。


「別に気になりません」

と俺はとっさに目をそらした。


夕日が親方の刺青を美しく照らし出していた。


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