第98話 西の海将と、へし折られた三本の矢
特大の「火炎バーゲンセール」によって、関白の大船団が文字通り海の藻屑となった翌日。
海峡の南岸に敷かれた薩摩の本陣には、昨日の戦いで生き残り、捕虜となった関白軍の将たちが引き据えられとった。
その中で、一人だけ縄を打たれてもなお、背筋をピンと伸ばしてうちらを睨みつけている男がおった。
西国の海を牛耳る水軍の頭領、「森」一族の長兄や。
彼は昨日の戦いで、陸軍のエリート武将に「船を鎖で繋ぐなど愚の骨頂!」と真っ当な反論をしていた、海のプロフェッショナルやった。
「……殺すがいい、薩摩の者ども。我ら森一族は、関白の愚策に巻き込まれて敗れはしたが、誇りまでは失っておらん。貴様らのような田舎武士の軍門に下るくらいなら、潔く腹を切る!」
森の長兄が、ドスの効いた声で吠える。
その両脇には、同じく縄を打たれた二人の弟たちが、「兄者の言う通りだ!」と血走った目でうちらを睨みつけとった。
「……ほう。見事な覚悟だ。ならば望み通り、首を刎ねてやろうか」
島津の若殿・久義が、狂気じみた笑みを浮かべて刀に手をかける。
「待ちィな、久義。そんな威勢のええ海産物(海の男)、ただで殺すなんてもったいないわ」
うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、シャカシャカと音を立てて森三兄弟の前に進み出た。
「あんたが、西の海を知り尽くしてるっていう森の兄ちゃんか。……うちのカードが言うとるで。あんたら、関白のブラック企業(無茶な命令)に相当嫌気が差しとるくせに、変に意地張ってるだけやろ?」
「……黙れ、派手な妖女め! 我ら森の兄弟の結束は、亡き父の教えによって鋼のように固いのだ! 父は言った、『一本の矢は容易く折れるが、三本束ねれば決して折れることはない』と! 我ら兄弟三人が束ねられたこの結束は、いかなる脅しにも屈せん!」
森の長兄が、胸を張って『三本の矢』の教えを声高らかに宣言する。
弟たちも「そうだ! 三本の矢だ!」と胸を張っとる。
そのあまりに暑苦しい家族愛に、うちは大きく溜息をついた。
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「……アレン。そこらへんから、適当な矢を三本、持ってきなはれ」
「え? あ、はい」
アレンが不思議そうな顔をしながら、敵の陣地に落ちていた矢を三本拾って、うちに渡してくれた。
うちはその三本の矢を束ねて、森兄弟の目の前に突き出した。
「ええか、兄ちゃんら。あんたらのオヤジさんが言うたことは、確かに立派や。家族が助け合うのは大事なことやからな。……でもな、おばちゃんに言わせれば、その教えは半分正解で、半分『大間違い』や」
「何だと……! 父の遺訓を愚弄するか!」
「愚弄やない、現実や。よう見ときや」
うちは三本束ねた矢を、自分が持っている特大のゴミ拾いトングの金属の隙間に挟み込んだ。
そして、アイテムボックスから取り出した「分厚いまな板」を支点にして、テコの原理でトングの柄に思いっきり体重を乗せた。
メキメキッ……バキィィィッ!!
鈍い音とともに、三本束ねられた矢は、うちの特大トングとオカンの体重(圧)によって、見事に真っ二つにへし折られたんや。
「なっ……!? 三本の矢が……折れた……!?」
森三兄弟が、信じられないものを見るように目をひん剥いた。
「当たり前や! 三本束ねてガチガチに固まるから、外から特大の圧力(理不尽)がかかった時に、衝撃を逃がせずに『一緒に』ポキッと折れてまうねん!」
うちは折れた矢を放り捨て、森の長兄の鼻先をビシッと指差した。
「あんたら、今まさにその状態やんか! 関白っていうブラック企業の重たい圧力に、三兄弟で意地張って耐えようとしてるから、一緒に海の藻屑になりかけてるんや! 本当に一族を守りたいんやったら、ガチガチに固まるんやなくて、強い風が吹いた時は『柳』みたいにしなやかに曲がって、上手いこと衝撃を受け流すんが、ホンマの生き残り術やろが!」
うちの「テコの原理」と「オカン理論」の前に、三本の矢の教えにすがりついていた森兄弟は、完全に言葉を失ってしもうた。
彼らの心に、頑なな誇りよりも、「一族を本当に生かすための道」という現実的な光が差し込み始めとる。
「……しなやかに、曲がる。……それが、一族を……」
「せや! 死んで花実が咲くかいな。……あんたら、関白の下請けで海運やってても、利益のほとんどを中央に吸い上げられて、カツカツの生活やったやろ?」
うちはアイテムボックスから、王都のバネッサ(商業ギルド)と一緒に作った『大和郷・特売チラシ(海運事業版)』を取り出し、彼らの前に広げた。
「今なら、うちの『ルミナ商業ギルド・大和郷支部』と提携すれば、西の海の通行税はあんたらの取り分や! ホワイトな環境で、家族に美味しいご飯、腹いっぱい食べさせたいと思わんのか! 意地張って一緒に折れるか、しなやかに寝返って特大の利益を掴むか! どっちや!」
うちはダメ押しとばかりに、色鮮やかな「メロン味」の飴ちゃんを三つ、彼らの懐にポイッと放り込んだ。
濃厚な甘さと、家族の未来を保証する「特売チラシ」。
森の長兄は、折れた三本の矢とチラシを交互に見つめ……やがて、憑き物が落ちたような顔で、深く、深く頭を下げた。
「……私の、負けだ。……あのまま意地を張っていれば、一族を道連れに折れるところだった。……静江殿。我ら森一族の水軍、これより薩摩とルミナの連合に、しなやかに『寝返らせて』いただこう!」
「商談成立や! ほな、さっそく西の海路の安全確保、頼んだで!」
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こうして、西国の海を知り尽くす森の水軍は、おばちゃんの「へし折り説教」によって見事にホワイト企業(薩摩陣営)へと転職を果たした。
関白の大船団を失い、西の制海権まで奪われたことで、中央の支配体制は完全に足元から崩れ去ろうとしとる。
「……静江さん。森一族の合流で、西側は完全に盤石です。……残るは、中央の関白と、その背後で静観を決め込んでいる東の最大勢力だけですね」
アレンが、地図を広げながら報告する。
「せやな。……東の最大勢力。あの『タヌキ親父』とか呼ばれてる大名やな」
うちはアイテムボックスからタロットカードを取り出し、東の空へ向けて一枚展開した。
出たのは、『隠者』の正位置や。
「……このタヌキ親父、えらい慎重やな。関白がボロボロになっとるのを見て、どう動くかジッと計算しとるわ。……それに、カードからえらい『薬草』の匂いがする。こいつ、相当な健康オタクで、自分の体調ばっかり気にしとるみたいやな」
「健康オタクの最大勢力……。まさか、静江さん?」
「せや。戦になる前に、一番効く『特効薬(飴ちゃん)』持って、出張鑑定(密会)に行ったるわ! 天下のタヌキ親父の胃袋、おばちゃんがガッチリ掴んだるで!」
関白の権威が地に落ちた今、次なる舞台は東のタヌキ親父との水面下の腹の探り合い。
おばちゃんの「飴ちゃん外交」が、大和郷の歴史を動かす最大の密約へと向かって、いよいよ動き出そうとしとったんや。
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