第94話 戸次川の特売ダッシュと、下請けエリートへの説教
北の要衝・岩門城を無血開城させたうちらを待ち受けていたのは、休む間もなく海を渡ってきた「中央の関白軍・先発隊」との激突やった。
決戦の地は『戸次川』。
川の対岸に陣を敷いた敵の数は、四国から駆り出された水軍と大伴の残党を合わせて数万。対するうちら薩摩の軍勢は数千。
だが、本陣の幕の中では、若き当主の久義がいつもの狂気じみた笑みを浮かべてお茶をすすっとった。
「……静江殿。敵の陣立てを見たが、あれは烏合の衆だ。関白の威光を笠に着てはいるが、諸将の足並みは全く揃っておらん。誰が一番に手柄を立てるかで、互いに牽制し合っているのが丸見えだ」
「せやな。中央の親玉(関白)にええ格好したいだけの『下請け業者』の集まりやわ」
うちは、特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、鼻で笑った。
「しかも、海を渡って急いできたせいで、えらい腹ペコな顔しとる。……よっしゃ。久義、佐吉。いつもの『あれ』、いくで。……アレン、あんたも準備はええな?」
「……はい。い、いきます。……へ、へへっ! 俺は、金が全てだ! 関白の金を見せろぉ……ッ!」
陣幕の隅で、黄金の算盤を抱えながら、アレンが涙目で「銭ゲバの裏切り者」の台詞を練習しとる。
相変わらず目が泳ぎまくってて、見とるこっちが不安になる大根役者ぶりや。リリルも「お兄ちゃん、無理しないで……」と心配そうにポンチョの裾を握りしめとるわ。
「アレン! もっと腹から声出しなはれ! 敵を本気で怒らせて、こっちの陣地まで引きずり込むんが『釣り野伏せ』の第一歩なんやからな!」
「む、無理です! 騎士の誇りが……胃液が逆流しそうです……!」
「アホ! 胃薬やったら後でナンボでも舐めさせたる! さぁ、開戦や!」
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戸次川を挟んで、両軍が対峙する。
敵の先発隊を率いる四国のエリート武将たちは、金ピカの鎧を着込み、対岸のうちらを鼻で笑い飛ばしとった。
「見ろ! 薩摩の田舎武士どもが、たった数千で震えておるわ! 関白様の威光を知らぬ田舎猿どもめ、一息に踏み潰してくれる!」
エリート武将が馬上で采配を振り上げようとした、その時。
うちは、川岸のギリギリまでズンズンと歩み出て、腰に手を当てて怒鳴りつけた。
「やかましいわ、金ピカ兄ちゃん! 関白様の威光ってなんやねん、そんなもんで腹膨れるんか!」
「なっ……!? なんだあの派手な女は!」
「あんたら、四国からはるばる海渡ってきて、まだ関白からちゃんとした『お給料(恩賞)』もろてへんのやろ!? タダ働きさせられてるブラック企業の下請けやんか! 交通費(渡海費)も自腹切らされてるんとちゃうか!」
うちのクリティカルなオカン節が、川を越えて敵陣に響き渡る。
四国の武将たちの顔が、一瞬にして図星を突かれたように引きつった。
「き、貴様! 我らの忠義をカネで測るか!」
「忠義で飯が食えるかいな! ……ほらアレン! 出番や!」
うちは、背後でガタガタ震えていたアレンの背中を、トングでグイッと押し出した。
「ひっ……! あ、あの……! へ、へへへ! お、俺は金が全てだ! 薩摩みたいな貧乏な連中より、関白の、たっぷりの金貨の方が、だ、大好きなんだぜぇー!」
アレンは黄金の算盤をチャラチャラ鳴らしながら、顔を真っ赤にして棒読みの台詞を叫んだ。
……が、その顔は完全に「泣きべそをかいている子犬」そのものやった。
敵の武将たちも「……なんだあいつ。裏切るふりをして、泣きそうじゃないか……?」とドン引きしとる。
「アレン! 泣くな! もっと悪そうに笑え!」
「無理ですぅぅぅッ! 僕を殺してくださいぃぃッ!」
「……ええい、ふざけるな! 我ら関白軍を愚弄する気か! 全軍、川を渡れ! あの派手な女と、大根役者の剣士を真っ先に血祭りにあげよ!」
四国のエリート武将が、怒りで顔を真っ赤にして突撃の号令をかけた。
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数万の敵軍が、我先にと手柄を求めて戸次川へと飛び込んでくる。
完全に頭に血が上り、陣形もクソもない、ただの「特売ダッシュ」状態や。
「おばちゃん、来たぜ!」
佐吉が、泥だらけの着物姿でうちの前に躍り出た。
「よし、佐吉! アレン! ちょっとだけ相手して、すぐに逃げるんやで! 『釣り野伏せ』の囮役、頼んだわ!」
「任せろ! おらぁッ!」
佐吉とアレンが川の浅瀬に飛び込み、敵の先頭部隊と軽く刃を交える。
だが、すぐに「うわー、やられたー(棒読み)」とアレンがわざとらしく叫び、佐吉も「くそっ、数が多すぎる、退却だ!」と背を向けて一目散に逃げ出した。
「はははっ! 見ろ、やはり田舎武士! 逃げ足だけは一丁前だ!」
「追え! 奴らの首は俺がもらう! 関白様への最高の手土産だ!」
功名心に完全に目が眩んだ敵の数万が、浅瀬を渡りきり、うちらが用意した「川の奥に広がる、うっそうと茂る深い森」へと雪崩れ込んでくる。
見通しの悪い森の中で、エリートたちは足元の泥濘に足を取られ、木々に視界を遮られていく。自分たちの陣形が完全に崩れ、部隊が孤立していることにも気づかずに。
うちは、森の最奥の丘まで後退し、彼らが完全に罠のド真ん中に入り込んだのを確認して、ニヤリと極悪な笑みを浮かべた。
「……よっしゃ。特売の『半額シール』、貼ったで!」
うちが特大トングを天に突き上げた、その瞬間。
「――チェストォォォォォォッ!!」
森の左右の深い茂みから、凄まじい気合とともに、久義と義家が率いる薩摩の伏兵たちが一斉に姿を現した。
「なっ!? 伏兵だと!? こんな森の中に!」
「上から鉄砲が……ギャアアッ!」
左右の木々の間からの鉄砲の十字砲火、そして退路を断つように背後の茂みから襲いかかる薩摩の狂気の一撃。
前方は佐吉とアレンがピタリと塞ぎ、視界の悪い森の中で敵は完全に「袋のネズミ」となった。
「ひぃぃっ! 話が違う! 陣形を立て直せ! ……だが木が邪魔で槍が振れん!」
エリート武将たちは、想定外の森の乱戦に完全にパニックを起こした。
彼らは自分たちの「関白の威光」が、この泥臭い命の削り合いの場では一文の価値もないことに気づき、算を乱して同士討ちを始めながら逃げ惑うしかなかったんや。
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戦いは、あっという間に決着がついた。
四国からやってきた関白軍の先発隊は、薩摩の『釣り野伏せ』によって完膚なきまでにすり潰され、文字通り壊滅状態となった。
「……ふぅ。お疲れさん。見事な大掃除やったな」
うちは、アイテムボックスからオレンジ味の飴ちゃんを取り出し、泥だらけになって帰ってきた佐吉と、涙目でへたり込んでいるアレンに配ってやった。
「おばちゃん……。もう、あんな演技は二度と……」
「アホ! あんたの大根芝居のおかげで、敵が完全に油断してくれたんや! いつか来る『一番でかい特大バーゲン』に向けて、ええ予行演習になったで!」
アレンが絶望の声を上げる横で、若き当主の久義が、血塗られた刀を鞘に納めながら歩み寄ってきた。
「……静江殿。見事な采配だ。関白の先発隊をここまで完膚なきまでに叩き潰せば、天下の覇権は大きく揺らぐ」
「せやな。でも、これで中央の『一番でかい親玉(関白)』も、本気で怒り狂うはずや」
うちはタロットカードを取り出し、一枚を静かに展開した。
出たのは、『戦車』の正位置、そして『世界』の逆位置。
「……いよいよ、大和郷全体を巻き込む、最大の大戦が近づいとるで。……おばちゃんの出張鑑定、まずはこの負け犬エリートどもの本拠地、『四国』へ海を渡って、敵のド真ん中に乗り込んだるわ!」
戸次川での大勝利を経て、次なる舞台はいよいよ「四国」へ。
アレンの「裏切りの大芝居」という特大の火種を懐に忍ばせ、おばちゃんは自らの足で敵陣を内側から食い破るべく、新たな海を越えようとしとったんや。
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