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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第7章:戦国大和郷! オカンの特売戦術と天下分け目の株主総会

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第93話 玉砕の岩門城と、算盤騎士の大根役者

 大和郷の西半分を平定するための、北の要衝『岩門城いわとじょう』。


 急峻な山の上にそびえ立つその城を、うちら薩摩の数千の軍勢はぐるりと包囲しとった。


 城を守るは、大伴家への忠義に殉じようとする頑固親父、高階たかしな。彼が率いるのは、たった七百の兵や。


 普通なら、数の暴力で一気に押し潰すか、兵糧攻めで干上がらせるのが定石やけど、この高階ってオッサンは、最初から「全員で討ち死にする」ことしか考えとらんかった。


「……静江殿。何度使者を送っても、すべて矢を射掛けられて追い返される。奴らは、我らの首を一つでも多く道連れにし、この岩門城を己の墓標とするつもりだ」


 本陣の幕の中で、若き当主の久義が苛立たしげに兜を叩いた。


「まともに攻め上れば、薩摩の兵にも甚大な被害が出る。何より、こんな小城に時間をかけていては、中央の『関白』の援軍が海を渡ってくるぞ!」


「分かっとるわ。……ホンマに、命の使い方が下手くそなオッサンやで」


 うちは特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、山頂の城を睨みつけた。


 このままやと、史実……いや、大和郷の歴史に残るような悲惨な玉砕戦になってまう。薩摩の若者たちも、高階の兵たちも、無駄な血を流すことになる。


「……しゃあない。アレン! 昨日の夜、みっちり仕込んだ『あれ』、やるで!」


「えっ!? い、今ですか!? ここで!?」


 陣幕の隅で、黄金の算盤を抱えてガタガタ震えていたアレンが、悲鳴のような声を上げた。


「当たり前や! あんたのその『銭ゲバ剣士』のお芝居で、あの玉砕親父の毒気を抜くんやわ! 行くで!」


 うちはアレンの背中を無理やり押し、城門のすぐ手前、矢が届くギリギリの距離までズンズンと歩み出た。


===========


「おい、高階のオッサン! 聞こえてるか!」


 うちが声を張り上げると、城壁の上に、白髪交じりの厳めしい顔つきをした武将――高階が姿を現した。その目は、死を受け入れた者特有の、冷たく澄み切った色をしとる。


「……何用か、薩摩の妖女。我ら七百、すでに三途の川の渡し賃は懐に入れてある。降伏などという戯言なら、その喉笛を矢で貫くぞ!」


「戯言やないわ! 渡し賃持ってるんやったら、ちょっとうちの『新しい仲間』の言うこと、聞いとくれ!」


 うちはアレンの脇腹を、トングの先でグイッと突いた。


「ひっ……! あ、あの……!」


 アレンは顔を真っ赤にして、持っていた黄金の算盤を前に突き出した。

 そして、うちから渡された「悪役の台本」を、棒読みの極みみたいな声で叫び始めたんや。


「へ、へへへへ! 俺は、金が、すべてだ! 薩摩の貧乏武士なんて、もう、見限ってやるぜ!」


「……は?」


 城壁の上の高階も、周囲の薩摩兵も、一瞬ポカーンとなった。


 アレンは涙目になりながら、算盤をチャラチャラと鳴らし、無理やり口角を上げて下品な笑いを作ろうとしとる。


「お、俺は、中央の関白軍につく! お前らみたいな、死ぬことしか考えてない連中より、関白の、たっぷりの金貨の方が、魅力、的だぜぇー!」


「……お兄ちゃん。目が、すっごく泳いでるよ……」


 後ろからついてきたリリルが、ポンチョの裾を握りしめながら、可哀想なものを見る目でツッコミを入れた。


 いや、ホンマに大根役者やな! 騎士のプライドが邪魔して、全然「銭ゲバ」に見えへんわ!


「……妖女よ。その異国の若者は、正気を失ったのか?」


 高階が、矢を射掛けるのも忘れて、本気で困惑した顔で聞いてきた。


「正気やわ! こいつはな、金に目が眩んで、今まさに『特大の裏切り』を仕掛けようとしとるんや! ほらアレン、もっと算盤弾いて、悪そうに笑いなはれ!」


「む、無理です静江さん! これ以上やったら、僕の騎士道が死にます!」


「あんたの騎士道より、今はこの城の七百人の命の方が大事やろが!」


 城門の前で、裏切りを宣言するはずの異国の剣士と、それを指導する派手な女が、身内でギャーギャー揉め始めた。


===========


「……ええい、ふざけるな! 我らの覚悟を愚弄するか!」


 高階がようやく我に返り、怒号を上げた。


「我らは大伴の殿のために、この命を散らすと決めたのだ! そんな茶番で我らの志が折れると――」


「アホか! 命散らすのが志かいな!」


 うちはアレンを横に押しやり、高階に向かって特大トングを突きつけた。


「あんた、自分の命捨てて主君に義理立てするつもりかもしれんけどな、残された家族の身にもなってみぃ! このアレンかて、今はこんなポンコツな裏切り者演じてるけどな、本当は自分の命を大事にして、生きて美味しいご飯食べるために必死なんやわ!」


「ぼ、僕は裏切り者じゃありません! 静江さんがやれって……!」


「あんたは黙っとき! ――ええか高階! あんたがここで死んだら、このポンコツ剣士みたいに、生きるためにドロドロになってる若者たちを、誰が導くんや!」


 玉砕という「美学」に酔っていた高階の心に、おばちゃんの生活感あふれる怒声と、アレンのあまりにも悲惨な「大根演技」が、強烈なノイズとして叩き込まれた。


「……」


 高階は、振り上げていた采配を下ろし、深く溜息をついた。


「……こんなふざけた奴らを相手に、腹を切れるか。……戦場の空気が、完全に白けてしまったではないか」


「せやろ? 白けたら終わりや。さっさと城門開けて、うちらの用意した温かい味噌汁でも飲みなはれ!」


 こうして。


 高階の玉砕の決意は、アレンの「見ていられないほどのド下手な裏切り劇」と、静江の説教によって、見事に毒気を抜かれたんや。


===========


 だが、岩門城の開城交渉には、想定以上の「時間」がかかってしもうた。


 高階の武士としてのメンツを保ちつつ、兵たちを納得させて城を明け渡させるために、うちは連日連夜、彼と「お悩み相談(という名の説教)」を続けるハメになったからや。


「……ふぅ。やっと城明け渡してくれたわ。ホンマに頑固なオッサンやったで」


 数日後。無血開城された岩門城の本丸で、うちは麦茶を飲みながら肩を叩いた。


「お疲れ様でした、静江さん……。僕も、あの裏切りの演技を毎日やらされて、胃に穴が開きそうでした……」


 アレンが黄金の算盤を抱えて、ゲッソリとやつれた顔で座り込んどる。

 やけど、一滴の血も流さずに岩門城を落とした(玉砕を防いだ)この結果は、タロットが示した『吊るされた男』……つまり、アレンが泥を被った(恥をかいた)自己犠牲の賜物やった。

 だが、その安堵も束の間。

 広場に、馬を限界まで飛ばしてきた久義の密偵が、血相を変えて転がり込んできた。

「申し上げます! 岩門城で手間取っている間に……ついに、中央の『関白』が動きました!」


「なんやて?」


「日ノ向を追われた大伴の残党と、関白が差し向けた『四国勢』の大軍が合流! その数、数万! すでに海を渡り、この北の地……『戸次川へつぎがわ』へと陣を敷いております!」


 密偵の悲痛な声に、薩摩の武将たちの顔に緊張が走った。


 うちは、アイテムボックスからタロットカードを取り出し、静かに展開した。

 出たのは、『剣の7』の正位置、そして『死神』の正位置。

「……なるほどな。関白の先発隊、えらい血の気が多いみたいやわ。岩門城の頑固親父を助けるために、急いで海を渡ってきたんやろな」

 うちはカードをしまい、不敵な笑みを浮かべた。

「アレン、あんたの『裏切りの予行演習』はバッチリやったわ。次は、本番の戦(大掃除)や。……四国から来た関白のお偉いさん方に、薩摩名物『釣り野伏せ』の特大バーゲン、お見舞いしたろやないか!」


 岩門城での足止めを経て、いよいよ大和郷の歴史を揺るがす最大の激戦。

 戸次川へつぎがわを舞台にした、中央の関白軍との血みどろの激突が、すぐそこまで迫っとったんや。


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