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【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第7章:戦国大和郷! オカンの特売戦術と天下分け目の株主総会

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第86話 北の巨大勢力と、オカン流・特売ダッシュの誘惑

 日ノ向の国を、特売チラシと飴ちゃんで鮮やかに内側から崩壊させて数週間。

 無傷で豊かな土地を手に入れた薩摩陣営やったけど、勝利の余韻に浸る暇など、この戦国乱世には一秒たりとも存在せえへんかった。

 日ノ向を追い出された伊東家の当主が泣きついた先。この島国の北半分を支配する超巨大勢力・大伴家が、ついに五万という絶望的な大軍を率いて、南下を開始したんや。


「大伴の軍勢、すでに国境の『耳鳴川みみなりがわ』の北岸に布陣! 敵は異国の最新兵器『国崩し(くにくずし)』と呼ばれる大筒を多数揃え、その威容は山を覆い尽くすほどとのこと!」

 薩摩本陣の陣幕に、物見の武士が血相を変えて駆け込んできた。

 五万対、一万。数の上では五倍の差やが、相手は最新の兵器と豪華な甲冑に身を包んだ、自らを「選ばれたエリート」と信じて疑わない正規軍や。

 だが、島津のおっちゃんをはじめとする薩摩の猛将たちは、その報告を聞いても一切怯まへんかった。


「大筒がなんじゃ! 鉄の玉など、示現流の気迫で叩き斬るのみ!」

「おおッ! 耳鳴川を真っ向から渡り、敵のド真ん中にチェストォォォッ!」


 またこれや。死に急ぐんがこの国のトレンドなんか?

 うちは陣幕の隅で飲んでいた熱いお茶を、ドンッ! と机に叩きつけた。


「……アホか! あんたら、鉄の玉に気合で勝てるなら、大工も鍛冶屋もいらんわ!」

 うちは立ち上がり、ヒョウ柄のポンチョをバサッと翻して、筋肉ダルマたちの前に割り込んだ。

「相手は最新の道具を持った金持ちのエリート集団や。真正面からぶつかったら、こっちがハチの巣にされて終わりやろが! ちょっとは頭使いなはれ!」


「では、軍師殿はどうしろと! 敵は川の向こうで、我らを野蛮人と見下して笑っておるのだぞ!」

「……ええから、座りなはれ。相手がエリートなら、エリートの『弱点』を突けばええねん」


 うちは懐からタロットカードを取り出し、床几の上にバシッ、バシッと展開した。

 出たのは、『戦車』の逆位置と、『悪魔』の正位置や。


「よう見ときや。戦車を引く二頭の獣は互いに違う方向を向き、悪魔の鎖が彼らの首を『欲』で縛り付けとる。……つまりな、敵の陣形には『足並みの乱れ』と『手柄への強欲』が色濃く出とるんや。あいつら、五万の大軍で寄り合ってるけど、内心は『誰が一番に手柄を立てるか』でドロドロやわ」


 うちはカードの絵柄をデコネイルで弾き、ニヤリと笑った。


「これはな、スーパーの『特売日の開店ダッシュ』と一緒や。……おばちゃんたちはな、限定の安い卵を見るとな、周りの奥さんを出し抜いて我先にワゴンに突っ込もうとする。……その心理を利用するんや!」


===========


 耳鳴川の北岸。

 大伴軍の先陣を任された若き猛将・田和たわは、対岸に見える泥臭い薩摩の陣立てを見て、鼻で笑っていた。

「見ろ。あれが九州の南で野蛮に吠えるだけの猿どもか。我が大伴が誇る最新の甲冑と大筒の前に、恐怖で足もすくんでおろう」

 田和は、自らの輝く銀の鎧を誇らしげに叩いた。

 その時、対岸の薩摩軍の一部が、川を渡ろうとして水に足を踏み入れたが、大伴軍の鉄砲の威嚇射撃を少し受けただけで、慌てて背を向けて逃げ出した。


「はははっ! 見ろ、一発の銃声で逃げ出しおった! なんという無様!」

 田和の周囲の将たちも、一斉に嘲笑を上げる。

 だが、田和の心の中には、冷たい「功名心」が毒のように渦巻いていた。

(……今だ。本陣の総大将が動くのを待つ必要はない。あの逃げ腰の猿どもを私が一網打尽にすれば、大伴家での私の地位は不動のものとなる……!)

 エリートゆえの驕りと、他者を出し抜こうとする強欲。

 静江のタロットが示した通りの『悪魔の誘惑』が、田和の理性を完全に狂わせた。


「総大将の命令を待つな! 我ら先陣だけで川を渡り、薩摩の猿どもを根絶やしにするぞ! 続けぇッ!」

 田和は陣形を完全に無視し、配下の数千の兵を率いて、浅瀬の耳鳴川へと我先に飛び込んでいった。

 特売のワゴンへ向かって、周りが見えなくなったおばちゃんのように。


===========


 バシャバシャと川を渡りきり、南岸のぬかるんだ泥地に大伴の先陣が足を踏み入れた、その瞬間。

「……かかったな、エリート気取りども」


 泥の中に伏せ、完全に気配を消していた佐吉が、低く唸った。

 彼の周囲には、同じく泥にまみれて息を潜めていた薩摩の伏兵たちがいる。

 五万の大軍を相手にするという、絶望的な圧力。田和の部隊が川を渡ってくる地鳴りのような足音を聞き、一瞬、佐吉の喉を「恐怖」が締め付けた。村を焼かれた日の、あの圧倒的な暴力への震えが蘇りそうになる。

 だが、彼はポケットに忍ばせていたオレンジ味の飴を、奥歯でガリッと噛み砕いた。

 甘酸っぱい柑橘の香りが、彼の恐怖を、修羅の冷徹な闘争心へと変換していく。


(……死なない。おばちゃんが、俺は一番上まで登るって言ったんだ!)


「――泥をすすれ! チェストォォォォッ!!」


 佐吉の咆哮を合図に、泥の中から無数の薩摩武士たちが亡霊のように立ち上がった。

「な、なんだ貴様ら!? どこから湧いた!」

 田和が驚愕の声を上げるが、もう遅い。

 薩摩の狙いは、綺麗な鎧を着たエリートたちを、足場の悪い「泥沼の乱戦」に引きずり込むことだった。


「おらぁッ!」

 佐吉が獣のように低く跳び、田和の乗る馬の脚を正確に払い斬る。

 銀の鎧を着た田和が、悲鳴を上げて泥水の中に無様に転がり落ちた。

「ひっ……! 汚い! 私の鎧に泥が……!」

 綺麗でいることしか知らないエリートは、泥にまみれた瞬間にパニックを起こし、完全に戦意を喪失した。

 大砲も鉄砲も、入り乱れた泥沼の白兵戦では同士討ちを恐れて撃つことができない。手柄を焦って陣形を崩した先陣は、あっという間に薩摩の泥臭い刃に蹂躙されていった。


(……なぜだ。私が一番になるはずだった……。この輝く鎧で、大伴の歴史に名を刻むはずだったのに……!)

 田和の脳裏に過ぎった一瞬の悔恨は、容赦なく振り下ろされた木刀の重い一撃によって、泥水の中へと永遠に沈められた。


===========


 先陣が泥の中で無残に壊滅していく光景は、川の対岸にいる大伴の五万の本隊に、これ以上ない「死の恐怖」として伝染した。

「先陣が壊滅したぞ! 罠だ! 薩摩の妖術だ!」

 浮き足立つ本隊の中で、冷静な参謀の一人が馬上で声を張り上げた。

「退くな! これは先陣を孤立させる一部の罠だ! 本陣は動くな! 陣形を保てば、大筒の射程で容易く蹴散らせる!」

 参謀の叫びは、戦術としては完全に正しかった。

 だが、五万の兵はそれを聞かなかった。

 足並みの揃っていなかったエリート集団は、一度パニックに陥ると脆い。誰かの「逃げろ!」という叫びが引き金となり、統制は一瞬にして瓦解。五万の軍勢は戦う前に我先にと北へ向かって逃げ出し始めたのだ。


「……ふぅ。これで第一段階は終了やな」

 うちは丘の上から、大混乱に陥って崩壊していく大伴軍を見下ろしながら、麦茶をすすった。

 隣にいるリリルが、ポンチョの裾を握りながらホッとしたように息を吐く。


「……信じられん。五万の大軍が、たった数千の囮と伏兵で、自壊していくとは……。静江殿、お主のその『特売の心理』とやらは、どんな兵法書よりも恐ろしいわ」

 島津のおっちゃんが、呆然としながらも、うちのオカン戦術に深い畏怖の念を向けてきた。


「綺麗な服着て偉そうにしてる奴ほど、足元が汚れるんを極端に嫌がるもんや。……でもな、おっちゃん」

 うちはタロットを仕舞い、逃げゆく大伴の軍勢のさらに奥――見えない敵の「本陣」を睨みつけた。


 五万の兵が算を乱して敗走する中、大伴の当主は、本陣の豪奢な床几しょうぎに深く腰掛けたまま、一歩も動いていなかった。

 その冷徹な瞳は、自軍の崩壊をまるで他人事のように見下ろしている。

(……ほう。見事な誘い込みだ。だが、薩摩の猿どもよ。その程度の小細工で、すべてを覆せると思ったか?)

 すべてを見抜き、あえて動かず、罠に乗らない。

 狂信的なまでの絶対的自信が、その場から動かぬ当主の背中から「静かな圧」として漂っていた。


「あの大軍の親玉……大伴の当主は、まだ一歩も動いてへん。あの『静けさ』は、ただの馬鹿やない証拠や。……本当の『大掃除』は、あいつの性根を叩き直してからやで」


 耳鳴川の戦いは、オカンの特売ダッシュ理論によって薩摩の圧倒的勝利で幕を開けた。

 だが、敗走する五万の軍勢の先に待ち受ける「増水した川」の恐怖と、静かに待ち構える大伴の当主との、血よりもえげつない決戦は、まだ始まったばかりやったんや。


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