表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる ―運命は変わってへんで―  作者: 川原 源明
第7章:戦国大和郷! オカンの特売戦術と天下分け目の株主総会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/240

第81話 薩摩の郷中と、オカン流の超合理戦術

 タロットカードの示す「南」へと歩き続けて数日。

 うちらが辿り着いたのは、薩摩の中心地から少し離れた、巨大な山城を背後に抱える広大な村やった。

 ただの農村やない。村の周囲には堀が巡らされ、家々は防衛陣地のように配置されとる。すれ違う農民たちは皆、くわや鎌と一緒に、腰に刀を差しとった。

 『外城とじょう』と呼ばれる、村全体が軍隊の駐屯地を兼ねている、薩摩特有の武装農村や。


「……おばちゃん、ここ、なんだかみんなピリピリしてるよ」


 リリルが、うちのポンチョの裾をギュッと掴んで、尖った耳をペタンと伏せとる。

 無理もない。村の広場からは、朝から晩まで「チェストォォッ!」という、喉が裂けんばかりの凄まじい気合の籠もった叫び声と、木刀が打ち合う激しい音が響き渡っとるんやから。

 広場を覗くと、佐吉と同じくらいの歳の少年たちから、二十歳前後の若者たちまでが、数十人単位で集まって、狂ったように木刀を振り下ろし続けとった。


「すげえ……。あれが、薩摩の武士たちか」


 佐吉が、目を輝かせてその光景を見つめとる。


「あれは『郷中ごじゅう』っちゅう集まりやな。……道行く人に聞いたわ。この国じゃ、武士は家やのうて、地域の子供らが集まって、年長者が年少者を鍛え上げるんやて」


 うちは腕を組み、泥だらけになって稽古する少年たちを眺めた。

 連帯責任で厳しく鍛えられ、強烈な団結力と自己犠牲の精神を叩き込まれる。それが薩摩の強さの根源らしい。

 佐吉はゴクリと唾を飲み込むと、迷うことなく広場へと足を踏み入れた。


「……頼む! 俺を、あんたらの仲間に入れてくれ! 俺は、強くなりたいんだ!」


 佐吉の悲痛な叫びに、広場の稽古がピタリと止まった。

 数十人の視線が、ボロボロの着物を着たよそ者の孤児に突き刺さる。

 集団の中から、一際体格のええ、リーダー格らしき十七、八歳の若者が進み出てきた。


「……よそ者が、薩摩の郷中に何用か。ここは遊び場ではない。帰れ」


 若者の冷たい言葉に、佐吉はギリッと歯を食いしばった。


「帰れない! 村を焼かれたんだ! 俺は武士になって、一番上まで登り詰めるって決めたんだ! だから、俺を試してくれ!」


===========


「……口だけは達者なようだな。ならば、その覚悟、木刀で示してみよ!」


 若者が、佐吉の足元に使い込まれた木刀を蹴り飛ばした。

 佐吉はそれを拾い上げ、構える。

 だが、相手は郷中のリーダー格。体格も、積み上げてきた修練の量も、圧倒的に違う。

 「チェストォォッ!」という裂帛れっぱくの気合とともに振り下ろされた若者の木刀が、佐吉の防御を容易く弾き飛ばし、その肩を強打した。


「ぐはっ……!」


 佐吉が泥だらけになって転がる。

 だが、彼はすぐに立ち上がった。その両目に、あの『背水の修羅』の恐ろしい光がチカチカと点滅し始める。

 実力差という「逆境」が、彼の闘争心を無理やり引き上げとるんや。


「……まだだッ!」


 佐吉が獣のように飛びかかるが、若者は冷静にそれを捌き、今度は佐吉の足を払って転倒させた。

 何度倒されても、佐吉は立ち上がる。そのたびに体に打撲が増え、息が荒くなっていく。

 気合と根性だけで、圧倒的な実力差が覆るわけやない。このままやと、佐吉の体が修羅の力に耐えきれずに壊れてまうわ。


「……ちょっと待ちなはれ!!」


 うちは広場にズンと踏み込み、特大のゴミ拾いトングで、若者が振り下ろそうとした木刀をガチン! と挟み込んで止めた。


「なっ……女!? 貴様、神聖な立ち合いに水を差す気か!」

「アホか! 神聖もクソもあるかいな! 死ぬまで叩き合うのが稽古やないわ!」


 うちは腰に手を当て、若者を鋭く睨みつけた。

 そして、膝をついている佐吉に向かって、容赦ない怒声を浴びせた。


「佐吉! あんた、気合だけで勝てると思てんのか! 相手はあんたよりデカくて速いんや! 真正面からぶつかって、勝てるわけないやろが!」

「お、おばちゃん……。でも、俺は……逃げない……!」

「逃げるんやない、頭を使えっちゅうてんねん!」


 うちは懐からタロットカードを取り出し、若者の目の前でバシッと一枚展開した。


「『愚者』の逆位置! 足元の不注意と、無計画な突進や! ……ええか、佐吉! この兄ちゃん、木刀を振り被る時に『チェスト』言うて、全身の力を上に込めとる! つまり、その瞬間だけ、足元が完全に留守になっとるんやわ!」


 うちの言葉に、若者の顔がピクリと引きつった。


「次、相手が振り被った瞬間、横に転がって泥を相手の顔に蹴り上げなはれ! 相手が怯んだ隙に、膝の裏(関節)を全力で叩く! 泥臭くても、勝つんが一番の『合理』や!」


 武士の誇りもクソもない、おばちゃんの「超・実利主義」なアドバイス。

 だが、底辺から這い上がろうとする佐吉にとって、それは何よりも欲しかった「勝つための道筋」やった。


===========


「……いくぞッ!」


 佐吉が再び木刀を構える。

 若者が怒りに任せて「チェストォォッ!」と木刀を天段に振り被った、その瞬間。

 佐吉は真正面から受けず、うちの指示通りにゴロリと横へ転がり、足元の泥を若者の顔面めがけて派手に蹴り上げた。


「ぬぉっ!?」


 目に泥が入った若者の動きが、一瞬だけ止まる。

 佐吉はその隙を逃さず、地を這うような低い姿勢から、若者の無防備な膝の裏へと、全体重を乗せた一撃を叩き込んだ。


「ぐっ……ぁぁっ!」


 さしもの屈強な若者も、関節を正確に抜かれては堪らない。

 バランスを崩し、ドサリと広場の泥の中に膝をついた。

 佐吉の木刀の切っ先が、若者の喉元にピタリと突きつけられる。


「……そこまでだ」


 広場の奥から、低く、威厳のある声が響いた。

 郷中の若者たちが一斉に道を空け、深々と頭を下げる。

 現れたのは、着流し姿の壮年の男。顔には幾つもの刀傷があり、歴戦の武将であることを無言で語っとる。

 この外城を治める、郷中の責任者やろう。


「お見事。体格と技量の差を、一瞬の機転と地の利で覆した。……いや、その助言を与えた、そこの派手な出で立ちの女。お前、ただの旅人ではあるまい」


 男が、鋭い鷹のような目でうちを見据えた。


「うちは静江。しがない占い師やわ。……おっちゃん、薩摩の武士は気合と根性ばっかりかと思てたけど、あんたは話が分かりそうやな」


 うちはタロットを仕舞い、ニカッと笑った。


「いかにも。我が薩摩は、示現じげんの気迫を重んじるが、同時に戦に勝つための『冷徹な合理』を何よりも尊ぶ。……お前のその占星の術、そして泥をすすってでも勝機を掴もうとするその少年の渇望。……悪くない」


 男は満足げに頷き、泥だらけの佐吉に向かって口を開いた。


「少年、名を何という」


「……佐吉、だ」


「良い目をしている。今日から郷中の末席に加わることを許そう。……ただし、ここから先は己の実力で這い上がれ」


 佐吉の顔が、パァッと明るく輝いた。

 彼は木刀を下ろし、深々と、泥に額がつくほど勢いよく頭を下げた。


===========


「静江とやら。お前たちも、この外城に滞在するが良い。その奇妙な占いの術、我が兵たちの鍛錬に役立つやもしれん」


 武将の粋な計らいにより、うちらはこの薩摩の外城に、正式に「滞在許可」をもらうことができた。


「おおきに、おっちゃん! ほな、さっそく村の空き家借りて、『占いの館』の看板出させてもらうで!」


 うちはリリルの手を引きながら、ガハハと笑った。

 リリルもホッとしたように、うちのポンチョの裾を握りしめて微笑んどる。


「……おばちゃん、佐吉お兄ちゃん、勝ててよかったね。……でも、おばちゃんのアドバイス、すっごく……ずるかったよ?」


「アホ! 戦いにおいて、ずるいは最高の褒め言葉や! 使えるもんは泥でもカードでも全部使う! それがおばちゃんの『生活の知恵』や!」


 夕暮れの薩摩の空に、うちの高笑いと、佐吉が郷中の仲間たちに囲まれて揉まれる賑やかな声が響き渡る。

 戦国乱世の火の国で。

 修羅の少年、天下に向けた泥臭い「成り上がり」の第一歩が、ついに力強く踏み出されたんや。



読んでくれてありがとうございます!


「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、

作品ページ上部の【☆評価】【ブックマーク】、そして【リアクション】ボタンをポチッと押していただけるととても励みになります!


みなさんの応援が、次回更新の原動力になります。

引き続きよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ